①
2025年9月21日(土) 午前10時
友樹は都内のワンルームマンションである自宅のベッドで目覚めた。その瞬間、強烈な頭痛が彼を襲う。
「いってー。深酒で寝落ちか。二日酔いだ。全く記憶無いわ。水、水」
友樹は独り呟くと、枕元に無造作に転がっている開封済みの水のペットボトルに手を掛けた。中身は3分の2ほど残っている。少しぬるくなったその水を、横になったままゆっくりと身体に流し込んでいく。
ふとクローゼットに目をやると、昨日着ていた青のチェックシャツと茶色のパンツがちゃんとハンガーにかかっていた。
「記憶無いけど、いつも服はかかってんだよな〜」
彼はこの状況には慣れ親しんでいる。そして知っている。ハンガーにかけることに意味なんて無いことを。どうせタバコ臭いんだから、洗濯機に放り込めば良い話だ。
立ち上がった瞬間、また彼を激痛が襲う。
「いてててて」
彼は思わず額を右手で抑えた。コブができている。しかも2つ。今回は二日酔いではなく、物理的な怪我で頭が痛いことを理解した。膝での経験はあるが、頭ではさすがに珍しい。
「クッソ!とりあえず昨夜、何があったか聞いてみるか」
そう言うと彼はスマホを手に取り、昨夜行ったお店のスタッフに連絡を取ろうと試みた。まだ寝ているかもしれないが、とりあえずまずは連絡だ。
「誰コレ?」
彼のLIMEのトーク一覧には知らないアカウントである『ともか』とのトーク履歴が一番上にあった。アイコンは若い金髪女性の横顔である。見覚えはない。開くと向こうから『おはよー』というスタンプが来ており、彼はそれに『しまったー!!』というスタンプで返信している。送信時刻は午前3時だ。
「なるほど。少なくとも3時までは飲んでいたようだな。そしてこの時点で既に記憶はないと」
彼はそのまま『ともか』には連絡せず、馴染みの店員である健人に連絡した。『ともか』のアイコンもスクショで合わせて送った。
『昨日ありがとうな!!記憶ゼロで気づいたら家だ〜てかこの人誰?笑』
ただ健人はお店の店長でもある。朝5時にお店を閉め、場合によっては考えたくもないがそっから付き合いで飲むことも考えられる。土曜早朝10時に彼が起きている可能性は限りなく低い。
友樹はLIMEを閉じ、インステを開いた。もう1人のお店のスタッフである達也に連絡するために。
インステのホーム画面、右上のハートが赤く光っていた。タップすると、知らない人物からのフォローリクエストが来ている。彼はそれに返していない。アカウント名は『rapi_4649_nit』。アイコンはどこかの風景で、性別すら特定できない。
彼はやはりそのままフォローバックはせず、予定どおり店員である達也に連絡した。
『全く記憶無い。やばい笑』
そう送ると彼は大きくため息をついた。
「いてて。飯食いに行くか。食欲はある」
彼はベッドから起き上がり、1dayのコンタクトを装着。紺のスウェットに着替え、緑の財布だけを持って外に出た。さすがにタバコを吸えるまでは回復していない。
歩く途中の9月下旬とは思えないほどの強烈な日光が、段々と彼の中で生きている実感を与えていった。
彼はコンビニのイートインで特盛うどんと梅干しとゆで卵を食し、新品の水も一気に流し込んでいった。
そして再び帰宅する。30分足らずの出来事だ。
「とりあえず寝よう」
そう言うと彼は再び眠りについた。
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