『転生しても陰キャのまま。でもいつの間にか魔法世界で最強に!?』
月影レイン
第1話 出会い
【プロローグ】— 再誕の夜
気づいた時には、全てが終わっていた。
誰にも好かれず、何者にもなれず、ただ空気のように生きてきた俺の人生は、唐突な交通事故によって幕を閉じた。
「……なんだよ、結局、俺って……」
無力なまま死ぬ。それが当然だと思っていた。
だが、闇の中にあったのは終焉ではなく——再生だった。
「選ばれし魂よ、汝に新たな器と運命を与えよう」
謎の声とともに、光が視界を焼いた。次に目覚めたとき、そこは見知らぬ空、そして、見知らぬ身体——
「……なんで、女の子になってるんだ……?」
それが、全ての始まりだった。
目の前に広がるのは、まるで中世ヨーロッパにSFを足したような光景だった。
空中を浮遊する列車、魔力を帯びて輝く塔、高層に伸びる学園の尖塔……ここは《アルケストラ》——魔法使いの卵たちが集う巨大な学園都市。
君が……転生者、だね?」
話しかけてきたのは、黒髪の少女。名をリア=ヴァレリアという。
彼女は学園の上位魔導師であり、俺……いや、今は「リリィ=クロウフォード」と名乗るしかないこの身体の後見人らしい。
「……はぁ。なんでこんな、わざわざ女子に……」
「理由? 簡単よ。“君が本来持っていた魔力”は、この姿でこそ最大限に引き出されるの。」
「……俺、前世じゃ魔法もなにもなかったけど?」
「この世界では“影の魔法”が君の本質よ。孤独で、沈んで、でも誰よりも観察してる……それは強さになる。」
そう言われても、簡単に受け入れられるわけがない。
だが、魔力を感じた瞬間、理解した。
自分の内側に、冷たくも熱い、巨大なエネルギーが眠っていることを——
朝靄が立ちこめる魔導都市 <アルケストラ>。
未だに女子としての身体には慣れないけれど、それ以上に、日々見せつけられる“魔法”の存在に圧倒され続けていた。
「・・・・・・・こんな光景、ラノベの中だけだと思ってた」
高くそびえる黒曜石のような魔導塔。
その周囲を浮遊する魔力の結晶体。
通学する生徒たちは皆、ローブや制服を身にまとい、誰もが何かしらの“魔法”を纏っていた。
「おーい、リリィーちゃん!今日授業なんでしょ?はやく行こうよ!」
そう声をかけてきたのは、隣の寮室に住むフィーナ=アルストリア。
明るくて人懐っこくて、見た目は完全に天使。前世で出会っていたら、きっと話しかけることもできなかっただろう。
「・・・・・・・うん、行こう」
とりあえず、陰キャのクセで無表情のまま返す。
だがフィーナは気にした様子もなく笑って手を引いてきた。
学園の<基礎魔導実習>の授業室は広大な魔法陣の描かれた大広間だった。
今日のテーマは一ー「属性適性の発現」。
「まずは各自、魔力を注いで自分の“属性”を確認すること。発現する紋章が、君たちの才能を示す!」
教師の号令とともに、生徒たちが次々と円形の魔力板に
炎、氷、風、雷・・・・・・
様々な属性が煌めく中、リリィの番が来た。
(大丈夫・・・・・?俺、いや、私は・・・・“影”って言われてたけど)
手を置いた瞬間、周囲が一瞬だけ一一暗くなった。
いや、影に飲まれたのだ。
「・・・・・・・な、なに!?部屋が、光を吸われてる・・・・・・・!」
「嘘でしょ、初等授業で“影属性”!?そんなの、王都レベルの才能じゃーー!」
教師すら顔色を変え、後ずさる。
やがて影は収まり、魔力板の中央に黒紫の紋章が浮かび上がった。
それはかつて“災の魔導士”と呼ばれた古代魔法使いが有していたとされる、“深淵属性”。
「..・・・やっちゃった…・・・・・?」
リリイはボツリと呟いた。
前世では、誰にも気づかれず、誰にも期待されずに生きてきた。
だがこの世界では、期待されすぎるほどの異常として、彼女の力は開花してしまった。
その夜。寮に戻ったリリィは、ベッドに座っていた。
(チート能力・・・・・ってやつなのかな。だけど・・・・・・・)
心の底は、まだ虚ろだった。
誰かに頼られるのは、怖い。
期待されるのも、怖い。
でも、心の奥で微かに感じる。
「認められたい」**という、前世では一度も得られなかった熱。
「・・・・・・どうせなら、やってやろうじゃん。影の魔女ってやつをさ」
リリィはそう、初めて自分の意志”で笑った。
その日、リリィの名は学園中に広がっていた。
“影魔導の使い手”、“災回の再来”、“闇から来た少女”ー
本人は静かにしていたいだけなのに、目立ってしまうのが異能者の宿命か。
「リリィちゃんって、やっぱり特別なんだね!」フィーナは、そんな噂をむしろ喜んでいるようだった。
「・・・・・・うれしくないよ、私は。目立つの、好きじゃない」
「でも、すっごく格好よかったよ!あの“影のドーム”、みんな固まってたし!」
(•・....あれ、制できてなかっただけなんだけど)
その日の午後、リリイたちは<第一訓練場)での初めて
の実戦演習に臨んでいた。
「対戦形式は一対一。魔力干渉防壁は張っているが、手
加減しろよ」
教官の言葉に、ざわつく生徒たち。
リリィはこっそり最後の組にされていた。問題児扱いはすでに始まっていたのだ。
だが、その時。
「教官。リリィ=クロウフォードと、対戦希望です」
静かな声が割って入った。
振り返ると、そこに立っていたのは一一銀髪に銀眼の少女だった。
・・・・・・・あなた、誰?」
「ノア=ルミエール。君の“対”の存在になるかもしれな
い者だ」
(•・・・・言ってる意味はよく分からないけど、なんか・・・・・..
すごい面倒くさそうな人来た)
「いいでしょう。実力を確かめなさい」教官が頷き、試合は決定した。
<演習場>の空気が、張りつめる。
リリィの足元には影が広がり、ノアの手のひらにはまばゆい光球が灯る。
「開始!」
ノアの放った光の槍が、一直線にリリィを貫こうとするーーが、その瞬間、
「く影喰らい>」
影が闇に沈み、光が霧のようにかき消えた。
「なっ・・・・・・!?僕の光を、飲み込んだだと?」
「ごめん、ちょっと実験中なんだよね・・・・・・」
リリィの声は、まるで深淵から響いてくるかのように冷たかった。
ーーそして次の瞬間。ノアの足元に、黒き腕が生える。
「<影縛(シャドウ・バインド)>」
動きを止められたノアに、リリイはそっと囁く。
「・・・・・・光は眩しすぎて、苦手なの」
試合終了の合図が鳴る。勝者:リリイ。
試合後、ノアは息を整えながらリリィに近づく。
「君の魔法:・・・・・僕の光とは、真逆にして、もっとも近い。君となら、何かを超えられる気がする」
「・・・・・へえ。私は、あんまり他人と組むの好きじゃないけど」
「それでも構わない。僕は一一君の力を知りたい」
リリィはその銀色の瞳を、静かに見返した。
(“光”と“影”・・・・・・皮肉すぎるでしょ、ほんと)
だがこの出会いが、やがて世界を揺るがす戦いへとつながっていくことを、リリィはまだ知らなかったーー
その日、《アルケストラ》の空が一瞬だけ――赤く染まった。
「……空が、血の色に……?」
生徒たちが騒ぐ中、リリィは確かに感じていた。胸の奥に眠る“魔力の核”が、共鳴して震えている。
(なんだろう、この感覚……嫌な予感がする)
その夜、学園の裏庭にある禁書図書館の地下。
リリィは一人でそこを訪れていた。呼ばれたのだ。夢の中で、誰かに。
「おやおや、こんな時間に迷子の子羊かしら?」
ぬうっと本棚の影から現れたのは――身長130cmほどの小柄な少女。
ふわふわの白髪ツインテールに大きな魔導帽子。レースのついたローブ。
その見た目はまるで、魔法少女をこじらせたロリキャラそのものだった。
……が、目だけは違った。底の見えない黄金の瞳。見透かすような知性。
「えっと……あなたは?」
「わたし? この学園の特別講師、ミリア=グラウヴェルよ。あんまり表には出ないけど……面白そうな子が来たら、ちょっと覗きに来るの♪」
彼女はリリィを“見る”と、にやりと笑った。
「ふふ……“深淵の器”ね。やっぱりあなたが、来ちゃったのね」
「……っ! どうしてそれを――」
「全部は言えないわ。でも、あなたの中に眠るものは、この世界の均衡を狂わせる“鍵”。だから――来週あたり、誰かがあなたを殺しに来ると思うの」
軽く言うな。
でもリリィは、その口調の奥に確かな“真実”を感じていた。
ミリアが案内したのは、封印された魔導書の間。
彼女が手渡したのは、黒い革表紙に血のような文様が浮かぶ一冊の書物だった。
「《残火(ざんか)の書》。かつて封印された
中にはこう記されていた:
「深淵の器が目覚めしとき、古き者らは蘇り、
魔力の奔流が都市を焼き尽くす。
災厄の魔女は、再び選ばれるだろう」
「……これって……私のこと?」
「そうよ。そして、彼ら――**《ヴェルダインの残火》の者たちは、君を“器”として利用しようとしてる。
でもね、リリィちゃん」
ミリアは小さく笑い、紅茶を差し出した。
「だからこそ、あなたには選んでほしいの。“受け入れて壊す”か、“抗って守る”か」
リリィは黙って、紅茶を一口飲んだ。
(前世では、誰にも選ばれなかった。
だけど今は、選ぶことが……できる)
その夜から、リリィは――変わり始めた。
遠く離れた場所、赤い月の下で、少女が仮面を外した。
「……影が目覚めたか」
それは、《ヴェルダインの残火》の暗殺者、シェリス=ロックハート
隣には、真紅のドレスの女。
アリス=フェリンスが、リリィの名前を囁いた。
「ようやく会えるわね、“深淵の器”」
量天の空が学園都市<アルケストラ>を覆い、まるで何かが始まる予感を孕んでいた。
講義を終えたリリィは、重たい黒のローブの裾を引きながら学園の中庭を歩いていた。無表情のまま、手にした魔導書のページをめくる。
「リリィー!またひとりで難しい本読んでる~!」
金色の髪を風に揺らしながら、フィーナが明るく声をかけてきた。いつものように、ややだらしない制服姿で。
リリィは本から目を離さず、静かに答える。
「騒がしい。声が大きい」
「えー、もうちょっと友達に優しくしてくれてもいい
じゃん?」
フィーナが口を尖らせてリリィの隣に腰を下ろしたそ
の瞬間一ー
学園の上空に、奇妙な音が響き渡った。
ーーギギ・・・・・・ギィイ・・••••」
歪んだ空間が裂け、紫黒の魔力が滲み出る。
その魔力の渦から現れたのは、小柄な少女。
火のように赤い髪を三つ編みにし、異国風の魔装を身にまとっている。背丈はリリイよりも大きく、だが瞳は金色に輝き、内に凄まじい力を秘めていた。
「あれが・・・・・・“器”か。ふふつ、たしかにおもしろそう」
周囲にいた学生たちが怯え、距離を取る中、シェリス
だけは堂々とリリィの方へ歩いてきた。
「リリィ=クロウフォード。あなたに興味があるの」
リリィは彼女の視線をじっと見返した。冷たい紫の瞳
と、熱を孕んだ金の瞳がぶつかり合う。
「.....誰?」
「転入生よ。明日から同じクラス。で、これはご挨
拶」
その瞬間、シェリスの周囲に火の精霊が出現し、空中で燃え上がる魔法陣が形成された。
覚醒の兆し
シェリスが発動した魔術は、高位の“精霊約術”。
だがその魔法陣の中心で、リリィはただ静かに手を上げた。
「・・・・・・封じろ、<終焉の糸>」
彼女の指先から、闇色の魔力が糸のように伸び、燃え盛る魔法陣を絡めとってゆく。
それは古代魔法「影縫い」。
本来、図書の最深部に封印されていた禁呪のはずだった。
ノアが息を飲む。
フィーナが遠くの塔から目を見開く。
そして→
「ああ、やっぱり、覚醒しかけてるのね。リリィーク
ロウフォード・・・・・・」
遠くで紅茶を啜っていたミリア先生が、静かに笑った。
魔導学園の西端、廃墟のような黒い塔。
そこにある学生寮「ノクターナ」は、成績優秀だが問題ありの生徒のみが収容される、いわば魔導の問題児棟。
リリィの部屋は、その最上階。窓の外は霧に包まれ、部屋の中には魔法のランプと本棚が並んでいた。
彼女は静かに机に向かい、魔導書を読み込んでいた。
まるで外で起きた“昨日の小競り合い”など忘れたかのように。
だが。
「……あの術、完全に封じたつもりだったのに」
ページに染みるように、過去の記憶が蘇る。
影縫い》──古代呪術であり、影そのものを操る魔術。
本来、魔導学園の学生が扱うことなど不可能な魔法だ。
だがリリィはそれを使えた。
その理由は、彼女がかつて《ヴェルダイン王国》の血統に連なる一族、“クロウフォード家”の末裔であるから。
古き魔王を封じた家系。
そして……かつて自ら魔王となりかけ、処刑された家系。
リリィが生まれ変わる前の名前も記憶も、すでに滅びの中にある。
だが魔力だけが、血の中に残っていた。
──私が、また“あれ”を使えば、きっとあのときのように。
リリィは胸元のペンダントに触れた。
そこにはかつての大切な人がくれた護符が封じられている。
塔のドアが激しく叩かれる音が響く。
「ねぇ、入っていい? さすがに私もちょっと焦ってるのよ」
現れたのは昨日の転校生──シェリス=ロックベル。
赤髪に漆黒の魔装、手には魔導武具「焔の指環(フレア・サークレット)」を身に付けている。
「昨日の“影縫い”、あれは完全に封印魔術と融合してた。普通の人間には無理よ」
リリィは振り向かない。
だが、その無表情の奥に、わずかな警戒の色を浮かべた。
「あなたは、何者?」
「私? あたしはただの『スパイ』よ。敵組織の中に潜ってるね」
リリィが眉をひそめた。
「敵……《ヴェルダインの残火》」
「そう。で、あなたの名前もそこにある。彼らが探してる“器”、それがリリィ=クロウフォード──あなた」
そのとき、空間が揺れ、二人の間に小さな少女のような影が割り込んできた。
白髪ツインテール、ドレスのような魔導服。見た目は幼いが、その目は古の魔法を見つめた老人のように深く冷たい。
「また勝手に情報を漏らしてるのね、シェリス。学院の掟は読んでないのかしら?」
「ミリア先生……!」
彼女こそ、《禁術総合学》担当の教師──ミリア=グラウヴェル
見た目は10歳程度だが、実年齢は数百歳を超えるという「ロリババァ」型大魔導師。
「リリィ=クロウフォード。あなたが器であるのは確か。でも、あなたは今“私の生徒”でもあるの。守る義務があるのよ」
リリィはゆっくり立ち上がった。
初めて、誰かが自分を“守る”と言った。
その夜、リリィは夢を見た。
血と炎、崩れ落ちる塔、悲鳴。
そして、漆黒のフードを被った者がこう告げた。
「器よ。お前の中の“魔王”を目覚めさせよ」
続く
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