第4話 太陽の失墜
太陽が森を焼き尽くさんばかりに燃えている。
ガリア王国最果ての森、最深部。
鬱蒼とした木々の中、突如として切り立った崖が現れた。下部に黒々とした穴が開いている。こここそが俺が伝授された、
真珠姫、ランドー、アリアドネ、そして俺は横並びに並んで、その様子を観察していた。4人ともが長い旅路の果てに薄汚れ、疲れ果てているが、目は意気揚々と輝いている。ここがこの旅の終着点にして、救国の唯一の手段だと信じていればこそだ。
「行くぞ」
「おう!」
ランドーの音頭に俺たちは声を上げて応え、洞穴の中へと足を踏み入れた。
穴の中に一歩踏み入るとひんやりと肌寒い。かすかに硫黄のにおいが漂い、物語の中の地獄が思い出されていやな気持ちになる。
静寂の中、革のブーツと金属製の武器のこすれ合う音だけが岩壁に反響している。4人の仲間のものだとしたら、ずいぶんと賑やかな音だ。
ランドー、と俺は小声で隣の大男に合図する。うん、とランドーはうなずく。ランドーはさらに隣のアリアドネになにか耳打ちする。
パーティは足を止めた。
「ところで」と、おもむろにアリアドネは言葉を紡ぐ。「アレス将軍はいったいいつになったら姿を現すおつもりか」
瞬間、背後に殺気が立つ。
俺たちは反転し、真珠姫を背にして半円形に展開する。
「やっとお出ましか」とランドー。
黒衣の男たちが手に手に得物を持って格闘姿勢をとっている。
無言でにらみ合う。冷気が熱い体にまとわりつく。息づかいだけが聞こえる。
前触れもなく黒衣の男たちが左右に分かれた。その中央をある人物が歩み出て来た。
金色の鎧の美貌の
背後から真珠姫の穏やかな声がする。「アレス将軍。たどり着いたのは私たちが最初です。そのうえ、王位継承者本人ではなく、来たのは代理のあなたでしょう。無駄な血を流すのはやめて、ここはお引き取りください」
アレスは形のいい頭をそらし、声を上げて笑う。
「そうしたければ、父ではなく、この私が継承してもいいのだ。そう要求するだけの血筋はあるだろう?」
我知らず俺は血が煮えたぎるのを感じた。なぜ? どこで間違った? 軍でエース争いをした、あのまばゆい青春の日々はすべてまやかしだったのか? 違う、俺が気づかなかっただけだ、彼の受けた傷に。生き方を模索し、あがいて、下々まで降りてきた、見捨てられた王子の苦しみに、親友と名乗りながら俺は思い至らなかった。その絶望がどれほど暗いものか。遅いかれ早かれ、いつか道は分かたれただろう。だけどアレスよ、もう少しだけ一緒に戦いたかったよ。
「やれ!」
首領の合図に、黒衣の男たちが飛びかかってくる。
「プラエスタト・ミヒ・ヴィレス・トゥアス・ルクス――満ちよ、
真珠姫の放つ激しい閃光が瞬間、敵の目をくらませる。直後、激しい乱戦が起こった。
初めは不利に思われた戦況も、歴戦の成果で武力を上げていた俺たちパーティの相手ではなかった。暗闇の洞穴にランドーの大剣が軌跡を描いて荒れ狂い、アリアドネの槍が稲妻のごとく繰り出される。業火が上がり、光が放たれる。数分後には、敵方はすべて地面に倒れ伏していた。
アレスをのぞいて。
なぜ戦いがこれほど簡単に終わったか、傷一つないその姿を見て俺は察知する。やつは部下を盾にしたのだ。
アリアドネの鎧を、アレスの剣が一閃した。彼女が静かに倒れ込むのを、俺は絶望的な目で見つめていた。アリアドネの悲鳴のような叫びが聞こえる。
「姫! 姫! 行ってーー! 行って
真珠姫が転がるように洞穴の奥に向かって駆け出した。
血と煙のにおいが満ちている。頭上から、アレスの笑い声が降ってくる。視界が赤くくもりかけている。
「あと一歩だ……あと一歩で王座は我らのものだ」
「なにを失うかわかって言っているのか」
アレスは俺を見る。その目からなにかを読み取ろうとして、俺はついに諦めた。
「私に愛する者などいない」
「正気か? ミノス大公が
「なんの話だ、ファウスト?」アリアドネがか細い声を上げるが、俺は無視した。
「父は私を愛してなどいない!」
アレスは声を荒げる。息を切らしていたが、再び唇の端を上げる。
「エーデルワイスにその勇気があるのかね、ファウスト? どうだ美しき
「この下衆野郎!」叫んだのは俺だ。
アレスは剣を振り上げた。「さらばだ――友よ」
その瞬間だった。
まばゆい七色の光の風が洞穴奥から、怒濤のごとく吹き込んできた。風は俺たちの体を包み込み、一瞬にして全身を治癒させる。ランドー、アリアドネは立ち上がるが早いか、アレスに飛びかかる。しかし、突然の巨大な魔法の力にアレスがうろたえたのは一瞬でしかなかった。剣が弧を描いて俺たちを襲う。ランドーが咆哮し、立ち向かう。プラエスタト……詠唱を始めた俺の前を
「トール――落ちよ、雷!」
激しい稲光と共に、洞穴中を雷が走り抜ける。黒い岩肌のきらめきが乱反射して途方もない光景が広がった。
アレスは静かに前方に倒れた。
輝く白銀の
姫は目を閉じ、震える
「真珠姫、おやめください!」アリアドネが叫ぶ。「私にお命じください、姫!」
ふらふらとアレスが立ち上がる。額が割れ、血が滴り落ちている。
姫は目をひらき、背筋を正した。
「命じます、アリアドネ。この者に断罪を」
アリアドネは金色の鎧の中心めがけて槍で突いた。俺は目を閉じた。
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