私を照らした光を私が殺す

クロエ

第1話 ヒーローになりたくて

少年が居た。彼はとても活発だった。木登りや追いかけっこをしては、膝を擦り、よく怪我をしていた。彼も今年で高校生になる。



『勇気が一番!ヒーローは困ってる人が居たら迷わず助ける』




‐‐‐




彼には2歳下の妹が居た。小さい時から身体が弱く、あまり外には出なかった。彼女は絵を描くのが好きだった。



『ん?サユ何を描いてんだ?』



少年は声をかける。服は泥にまみれて、額に汗が滲んでた。



サユはペンを止め、スケッチブックから視線を外す。そして…ほんの少しだけ視線を少年に向けるや否やため息を付く。



『ハァ…窓からじゃなくて、ドアから入ったらどうですか?そして汚いです。近付かないで下さい』



少年は妹の忠告を無視するかの様に、ベットの腰を下ろす、、



『おい、この剣を持ってるカッコいい奴はなんだ?横に倒れてる奴も居るぞ』



スケッチブックを強引に覗き込む。肩が振れて、サユの身体が少し左に揺れる。



『なに勝手に見てるんですか!』



サユは慌てて、ノートを少年から取り上げようとするが、手が届かない、、



『な?倒れてる奴は悪者なのか?』




少年は目を輝かせながらこちらに質問してくる。



『な?なんで剣を持ってる奴は泣いてるんだ?』



今度は真剣な表情をして、こちらを見つめてくる。その瞳には、少し寂しさが滲んでて、そして怯えてる様に感じた。




『知りませんよ…』





‐‐‐




それから数日が経って、サユは倒れた。


突然のことだった。


少年は急いで病院に向かった。



…ハァハァ



呼吸が荒れる。心拍数が上昇して、心臓の鼓動が激しくなる。ドクンドクン



……サユ





‐‐‐






医者の話しだと、生まれつきの持病が悪化したんだとか。どうして急に、、



治すには大きな病院で、手術をしないといけないらしいのだが、受けるにはたくさんのお金が居るらしい。



『ヒーローは困ってる人が居たら迷わず助ける』



そうだ、そうだよ!


ヒーローは諦めない!

弱い者を助ける!



勇気が一番!



俺がサユを助けるんだ!!





‐‐‐




ちんたらしてたらサユの命が危ない、

大丈夫だ!兄ちゃんに任せろ!今すぐ金を集めてやるからな!まずは調べるか!



検索…

お金をすぐに稼ぐ方法



ポチッ



開いたサイトの文字が少年の脳を直撃する。衝撃で手が震えた。足に力が入らない。



途切れそうになる意識の中で、サユの姿が脳裏に浮かぶ。待ってろ。あと少しだ!兄ちゃんに任せろ!




少年は笑った





‐‐‐





封筒をとある場所に届けるだけで100万も貰えるなんて、よほど大切な物なんだろうな。絶対に俺が届けてやるからな!



だって俺は、困ってる人を助ける正義のヒーローなんだから!



少年は次の目的地に向かう、、



彼のカバンの中はいつもより重かった。



だけど…それが心地良かった。




‐‐‐




私は何の為に生まれて、何の為に生きてるんだろう。そんな考えが頭を過っては消える。


その繰り返しの中で、自分の存在が崩れ去って行くのを感じる。



暗闇の中で、声が聞こえた。



『…誰ですか』



少女は恐る恐る、声が聞こえる方向へ歩き出す。そこには光があった。その時に、真っ暗だった私の世界に、一筋の光が差し込んだ。



『…お兄ちゃん』




‐‐‐




『お~い酒持ってこい』



元々、工事現場だった跡地。そこで男達が騒いでいた。



『それにしてもラッキーだったっすね』



一人の痩せ型の男が話しかける。額には汗を滲ませながら、その声には少しばかり緊張が伝わってくる。



『このクソガキがまさか✖をこんなに持ってるとは思わなかったぜ』



男はニヤリと笑みを浮かべながら、瓶に入ってるビールを一気に流し込む。




暗闇の中、男達の談笑してる声だけが、少年の耳に入ってくる。




…どうしてこうなった?

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