第25話 空でお茶会~~♪
にこにこしながら母さまは精霊のことを教えてくれる。
「精霊たちはね~、自然を愛して~、人を愛するの~」
「は、はいっ……」
「このこたちはね~、優しくて穏やかで温かくて~、綺麗で美しくて清らかな~、純粋で正直な人~。そういった人が好きなのよ~」
「そっ、そうなんですね……」
「そうなのよ~、とっても繊細なのよ~?」
か、母さま……、精霊さん……。
精霊学を学ぶのは大変嬉しいのですが、宙に浮く必要はありますか……?
足元の地面が遠い感覚に背中がスーっと寒くなり、思わず紅茶に口をつけて気を紛らわせる。飲み干すと、すぐさま光の精霊たちがぱたぱたとティーポットに寄り添い、まるで小さな給仕たちのように、柔らかい光の羽を震わせて紅茶を注いでくれた。
「あ、ありがとう……!」
ぼくが言うと、精霊たちは“嬉しい”と言うように身体の光をふわっと強めた。
視線を周囲に落とすと──
ぼくたちの周りには、まるで天に吊るされた巨大な光の玉の内側にいるように、淡く光る精霊たちが何重にも環を描いて花びらと共に飛び回っていた
辺り一面、白銀の光が満ちている。けれどその中に、ぼくはふと違う色を見つけた。
「あっ、あの精霊さんは……?」
白銀の群れの中、ひときわ軽やかに跳ねる黄緑の光、そして水が滴るみたいに澄んだ水色。
母さまがくすっとほほ笑む。
「ふふふっ、気が付いたかしら~? あのこたちはね~、風の精霊と水の精霊よ~」
「風と水の精霊!?」
「精霊は属性ごとにいるのよ~?」
すると、風の精霊がぼくへ向かって「見て見て!」と言わんばかりに、ぴかぁっ!と黄緑色に明るく光ってくれた。
「か、風って、もしかして?」
「そうよ~、エリオスとアンリを好いてくれているわ~」
「なるほど!」
「精霊たちにはそれぞれ性格があって~、好みもあるのよ~」
「好み……?」
「光の精霊は特に~、優しくて穏やかな人を好むの~」
母さまのことですね!すごく分かります。
うんうん、その通りと頷いていると──母さまがふにゃっと微笑みながら、突然ぼくを柔らかく指さした。
「そして精霊は~、好んだ人に無償の愛を注ぐのよ~?」
「??」
「精霊に愛され~、意思を通わせる子を〜、”精霊の御子”と呼んでいるわ〜」
母さまの指先を追うと、視界の端を黒い影がすっとかすめた。
「あっ、黒薔薇さん!」
左耳の定位置へふわりと戻ってきた黒薔薇は、触れると「会いたかった!」とでも言うようにふるっと震えた。
次いで──ぱああぁっ!!
黒紫の虹がまっすぐ天へ立ちのぼる。
その光は夜のヴェールに包まれた宝石みたいに美しく、黒紫の光なのに温かく、冷たいのに優しく、幻想的な美しさに感動で胸の奥が締め付けられた。
そして──光が収まると、いつの間にかそこには……。
ぼくの周りに、黒紫の光をまとった沢山の精霊……、闇の精霊たちが嬉しそうに舞い踊り始めた。
みんなとても大事そうに、ぼくを見つめている気がする……。
光の精霊たちがふわふわ舞うなかで、闇の精霊たちは静かに寄り添うように佇み、そのコントラストがまるで夜と朝が同時に訪れた庭園のようだった。
「ステラ~、あなたは光の精霊だけではなく~、闇の精霊にも愛されているわ~」
「あっ、ああっ……」
「これは~、とっても素晴らしいことよ~?」
「黒薔薇さん……」
「闇の精霊は~、身も心も美しい人が好きみたいね~。あとイタズラ好き~」
にっこりと母さまは満天の微笑みを浮かべた。
「ある日ステラが闇の精霊を連れ帰ってきた姿を見て~、本当に驚いたわ~。相反する属性の精霊は~、”光”と”闇”は反発するように寄り添わないはずなのよ~。ここには火と土の精霊は居ないでしょう~?」
「そっ、そうですよね?どうしてなんだろう?」
「分からないけれど~、"光"と"闇"の精霊がとても仲良く過ごしてるわ~。これはあなたが起こした正に奇跡よ~、とってもすごいことだわ~!」
あっ、そういえば丘の上の黒薔薇たちの話を、母さまにしてなかったような?毎日お手入れしていたから、ぼくを気に入ってくれたのかな?
光が祝福し、闇がそっと抱きしめる。
その全てが今、ぼくたちを中心に回っていた。
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