第2章 変わり始める日常

 高校2年の春、桜がいつもより淡くきれいに見えた。空は青く、透き通っていた。小学校の頃に難病にかかったとは自分でも思えない。桜の木々のアーチを歩いていると後ろから幼馴染の早乙女美月が追いかけてきた。「りく、今年は同じクラスになれるといいね。」そう言って先を走っていく。高校の門を抜けクラス発表を見る。2年A組で美月と同じクラスだった。教室に入り、席に着く。一番後ろの窓側の席。小説や漫画なら主人公がよく座っている席。そんなどうでもいいことを考えながらクラスを見渡した。同じクラスにいたのは全国模試1位の田中徹、陸上400m全国優勝者の佐々木真司そんな有名人が二人同じクラスにいた。入学式も終わり授業が始まってくる。学校生活も順調に進んでいる。


 外の授業がつらくなってきた頃、体育ではテニスをやっていた。俺はいつも田中さんとペアを組んでいる。最初の授業でペアが見つからず立っていた俺に、「一緒にやろう」と声をかけてくれたのが田中さんだった。そのまま仮試合をしたら勝ってしまい、それ以降ずっとペアを組んでいる。田中さんはテニス経験者で個人戦では県大会まで進んだこともあるらしい。僕も小学の頃に少しやっていたが、それ以降1度もラケットも握っていなかった。それでも、意外と打てる自分に驚いている。「また負けたー」田中さんが膝をついて頭を抱える。「なんかごめん。」「なんで謝るんだよ、余計悲しくなるだろー」そんなやりとりをしながら笑い合った。

 

 今日は美月と一緒に帰っていた。「学校にはもう慣れた?」美月が話しかけてくる。「慣れたよ。美月は結構告白されてるって聞くけどどうなの。最近はサッカー部のエースだっけ?okしたの?」美月はとにかくモテる。コミ力が高くて誰とでも話すから男女ともに人気。「いいや、するわけないじゃん。もっといい人がいるからね!」僕の前を歩いていた美月はくるりと後ろを向いて自信満々に言った。「そろそろ誰かと付き合ったら?いつまでも俺と一緒に帰るんじゃなくてなくて彼氏作って一緒に帰ったら?」あきれた目で美月を見ると、いつにもまして怒っているように感じた。「ふーん、そういうこと言うんだ。まあいいよ。りくが友達を作ったら私も彼氏作ろうかなーなんて。」そう言い終わると走って帰ってしまった。「別に作れないわけじゃないんだけど。作りたくないだけだし」言い訳みたいなことを小声でいってみた。声は風に乗って消えていった。


 「おーい、上沢今日こそは一緒に遊び行こうぜ。」いつものように帰りに話しかけてきた。体育でペアを組むようになってからよく遊びに行こうと誘われるようになった。少し考えてから「いいよ、今日は暇だし、美月に友達作れって言われたし」苦笑いをしながらクラスメイトが集まっている田中さんの席の方に行った。「」田中さんも笑いながら肩を組んできた。「真司ー、もちろんお前も遊びに行くよな。」トイレから帰ってきた佐々木さんも誘っていた。「もちろん。上沢も行くのか」笑いながら荷物をまとめている。「おう、友達だもんな。今日はボーリングとカラオケに行こうぜ。」「おいおい今月ピンチじゃ無かったのか」そんな話をしながらクラスメイト5,6人くらいでボーリングセンターに行った。「よっしゃー!ストライク3連続」田中さんが3連続ストライク、佐々木さんが2連続、俺が1回、田中さんはボーリング中ずっと笑ってた。「ボーリングではりくより上手い。なんか安心するわー」そんなことを言ってた。2時間ぐらいボーリングをしてから、近くのカラオケで20:00くらいまで歌った。俺が98点、佐々木さんが90点、田中さんが86点、毎回この順位だった。うゎー負けた。もう1回。うますぎだろ。今日はずっと笑っている気がした。この感じは久々だった。楽しくてこのままずっとここにいたいと思った。不覚にもこの時間が終わって欲しくないと思ってしまった。でも楽しい時間ほど長くは続かない。一瞬だった。気づいたら夜になっていた。全体では解散したが田中さんと佐々木さんで晩ご飯を食べに行った。家に帰る頃には11時を回っていた。まだリビングの電気はついていた。「お兄ちゃんお帰り。帰りが遅くなるなら言っといてよね。晩御飯作るの私なんだから。」頬を膨らませて言う。「ごめん、ごめん。晩ごはんは、食べるから怒らないでよ。」それならいいけどと言って台所に行った。ふと壁に飾っている写真が目に入った。そこには俺とお母さん、妹と知らない中年男性が写っている。みんな笑顔で肩を寄せ合っている。見ているだけで自分まで微笑んでしまう。中年の男性が誰か知らないけれど懐かしい感じがする。今思えば仕事ばかりでお母さんと遊んだ記憶が一切ない。まぁそのおかげでこうして暮らせてるんだけど。いつの間にか深夜0時を回ってた。それなのにお母さんは帰ってこない。あいつらと一緒にいたからかいつも通りのリビングは静かで寂しさを感じる。机の上にはたくさんの教科書とワークの山があった。妹は中3で受験の勉強をもう始めていた。

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