第2話 シンデレライダー

何かがおかしい。


エレノアは思った。


父が亡くなってから、継母の様子がどうもおかしい。


それに、義理の姉たちの様子もおかしい。


だが、何が原因なのかは分からなかった。




カッ


目もくらむようなライトに照らされ、エレノアは目を覚ました。


いつの間にか眠っていたようだ。


何かの台の上に、身体が拘束されている。


「目が覚めたようね」


「お義母さん!いったいこれは…」


「ふ、ふ、ふ…」


エレノアは、必死に首を回して継母の方を見た。


継母は、外見上はいつもと全く変わらないように見えた。


いつも通り、その銀色の髪を一切の乱れなく後ろで束ね、シワ一つない白衣をその身にまとっている。


だが、やはり何かがおかしい!




直後、継母の右腕の袖が弾け飛んだ。


袖の下からは、巨大なハムと見紛うばかりに発達した腕が現れた。


「私はね…ついに発見してしまったの」


「な、何をですかお義母さん!」


「人を超えた、強力な力を得る方法を…」


フッ…


継母の異常な雰囲気が、唐突に和らいだ。


見る見るうちに継母の右腕は細くなり、本来の華奢な状態へと戻っていった。


「あなたももう、同じことができるのよ」


「ええっ!?なんですって!?」


「あなたの身体にも、私たちと同じように改造手術を施した」


「そ、そんな…。じゃあ、私のこの身体は…」


「もう、ひ弱な人間のそれとは全く別のものなのよ…ふふふ」


いつもは冷静な継母のグレーの瞳が怪しく光っている。


「アリス!シャーロット!」


継母の背後から、義理の姉たちが現れた。


いや。


もうすでに、かつての面影は彼女たちにはなかった。


アリスは筋骨隆々としたコウモリ人間に、シャーロットは手足が計八本に増えたクモ人間の姿になっていた。


「私たちはね。これから人類と戦うの。ひ弱な人間たちを一人一人改造していって、私たちの仲間に加えていくの。そしてあなたはその、最初の一人になるのよ…」


「…断る。と言ったら?」


「なんですって…?」


エレノアは身を起こした。


パン!


エレノアの身を拘束していたベルトが弾け飛んだ。


「私にも、同じことができるって言ったわね…」


エレノアは、締め付けられていた手首の皮膚をさすりながらそう言った。


間違いない。


自分の肉体には、かつてない力が宿っている。


エレノアは台から飛び降りた。


「お義母さん!強い力さえ手に入れれば、なんでも思い通りになると本気で思っているの?人には心というものがあるのよ!私はあなたの思い通りにはならないわ!」


エレノアは高らかにそう宣言した。


「くっ!」


アリスとシャーロットが、不安そうに身構える。


だが、継母は不敵に微笑んだままだった。


「こんなこともあろうかと」


継母は背後にあった大きな機械を操作した。


「きゃっ…」


エレノアの脳裏に、強い痛みが走った。


「あなたの身体には私に逆らえないような仕掛けを色々と施しておいた。観念なさい。あなたはもう、人間ではない!私たちと一緒に戦う以外に、あなたの生きる道はないのよ!」


「このお…」


エレノアは継母の背後の機械に向かって突っ込んでいった。


ガシャン!


機械は倒れ、盛大な火花を上げた。


火花は近くにあったカーテンへと燃え移り、そして更に、室内の別のものへと燃え移っていった…




ドオン…


エレノアたちが住んでいた屋敷の中で、大きな爆発が起こった。


どうやらガスに引火したらしい。


「ゴホッ、ゴホッ…」


エレノアは全身灰まみれになって外の芝生に転がっていた。


新しく得た力がなければ、とても逃げ切れなかっただろう。


「あらあら。いい格好ね。まるでシンデレラだわ」


エレノアが顔を上げると、数メートル先に継母たちの姿が見えた。


「そうね…。私は確かにシンデレラ」


エレノアは自身の灰まみれの身体を見やった。


「私はもう、人ではない。今日限り、このエレノアという名前は捨てるわ。今日から私は…」


エレノアは近くに落ちていたカーテンの切れ端を、顔に巻き付けた。


「今日から私は、シンデレライダー!どんな事があっても、あなたたちの野望を必ず止めてみせる!あなたたちの野望は、あなたたち自身が生み出した力によって絶たれるのよ!」


「シンデレライダーですって…?面白い子…」


継母の身体に、急速に力が集中していく。


「いいわ。やれるものなら、やってご覧なさい…!」


「な…!これは…!」


継母の背後で、屋敷が大爆発を起こした。


赤々と燃え上がる屋敷を背に、見たこともないようなとてつもない怪物が、シンデレライダーの前に立ちはだかった。


にやり…


怪物が不敵に微笑む。


「さあ、舞踏会の始まりよ…!」

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