星の海を渡る日
寝目野秋彦
第1話
「お父さん、どうして誰かが住む星を攻めなくちゃいけないの?宇宙には誰も住んでない星がたくさんあるのに」
特に珍しくもない、宇宙にありふれた会話だった。まだ初等教育も修了していない幼子が、総攻撃前の戦艦内に待機している父親へニュートリノ通信で尋ねた。
「宇宙にある星の八割は赤色矮星なんだよ。大半は変光星だから、激しいフレアで宇宙船の機械や私たちのDNAを壊してしまう。なにより星系全体の質量が少ないし、水素の採取に適したガス惑星もあまり存在しないんだ」
個性のない軍服を身に着けた男性は遠隔面会可能時間を利用し、好奇心旺盛な我が子へいつものように優しく説明した。
「なら、レグルスとかベガはどう?すごく明るいから資源もきっと多いよ!」
「O型、B型、A型の主系列星は明るすぎて、きっと離れていても宇宙船が焼けてしまうだろう。重力が強すぎるから惑星は少ないし、寿命も太陽と比べたら遥かに短い。私たちが住めるのは残り少ないF型、G型、K型となるね」
穏やかな声で諭す父親に、息子はなおも問い続けた。
「じゃあ、住みやすい星を目指して旅を続けるのは?」
「光に近い速度で移動しても加速と減速を考慮する必要があるから、最短でも数十年、場合によっては数百年かかるね。たとえ空間跳躍が実現しても、開拓に適した星は時代が進むほど先住者が増えていくだろうし、旅が長引けば宇宙船が故障する確率も高くなる」
沈黙する我が子に、軍人は一言だけ伝えた。
「だから……これも仕方ないことなんだよ」
通信が切られた数分後、艦隊は総攻撃を開始した。数千のガンマ線砲と反水素ミサイルが発射され、数百億の人々が溶けてゆく。
特に珍しくもない、宇宙にありふれた光景だった。
星の海を渡る日 寝目野秋彦 @Akutamaru1004
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