10話

「これは……食えるのか?」


 オークの外見は、一言で表すなら豚人間といったところ。


 豚の成分がかなり多いとはいえ、一応は人型の存在だ。


 それを食べるとなると、やはり多少の抵抗は感じてしまう。


 ただ、食べられる可能性は十分あると思う。


 創作物だとわりとモンスターの肉を食べる展開はあったからな。


 いや、というよりこれが食べられないとなると、かなりマズいことになるかもしれない。


 モンスターの死体だけじゃなく、人間の死体も消えることがわかった。


 そこから考えると、動物(植物)の死体だって消える可能性は十分にある。


 既存の食料は大丈夫だろうが(そうでないと家に食材が残っていたのはおかしい)、もしそうなると、今後新しい食料を手に入れるのは難しくなる。


 食料というのは、基本的には死んでいるものだからな。


「まあとりあえず、これは食えると仮定しておくか」


 俺は魔法でオーク肉(今後そう呼ぶことにする)を凍らせた。


 既に春は完全に過ぎ去り、夏になりつつある。


 肉はすぐダメになる。


 安定して食料を得られる状況ではない以上、こうして保存が効くようにしてストックしておくべきだろう。


 俺はオーク肉を持ってきた鞄の中に入れた。


「次はコンビニだな」


 持ち運べる量に限界はあるが、次にいつ機会があるかわからない。


 できる限りのものを確保しておきたいところだ。


 コンビニの中に入ると、やはり明かりはすべて消えていた。業務用の冷凍ストッカーなど、設備もすべてダメになっている。


 店内はかなり荒されていたが、商品は無事なものも多い。


 不良たちが残した鞄も4つぐらいあって、中にはぎっしりと食料が詰め込まれていた。


「悪いが有効活用させてもらうぞ」


 元々あいつらから食料を奪おうなんて気はなかった。


 だが、あいつらはもういない。


 それならば、これは俺が貰ってもいいだろう。


 というか、今更だけどこれって泥棒なんだよな。


 まあでも、こんな世の中になってしまった以上、こうしなきゃ死ぬだけ。


 人間として超えちゃいけない一線はあると思うが、これについては仕方ないと思う。


 そうして、俺がどれを持って帰ろうか吟味していたときだった。


「平石君?」


「相川先輩?」


 知り合いと遭遇した。


「久しぶりだね……」


 相川咲あいかわさき


 俺の2学年上の先輩で、現在は高校を卒業して大学生。


 美人ではあるものの地味なタイプで、友人は少なめ。昼休みはいつも図書館にいて、本を読んでいた。


 俺も昼休みはよく図書館に行っていたから、顔は知っていた。


 まあお互い積極的に人と話すタイプではないから、喋るまでに随分時間がかかったっけ。


 それでもふとしたきっかけで話すようになり、卒業まで昼休み限定ではあるが、ときどき話したりする仲だった。

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