9話


「お前を殺すのは、あいつらだ」


 殺意を向けてきた以上、本来は俺自身で手を下さなければいけなかったのかもしれない。


 ただ、流石に今の俺にそこまではできない。


 どうせ結果は同じなのに、卑怯だとは思う。


 でも、まだそこまで踏み込めないのだ。


「っ……!! クソがァ!! 調子乗ってられんのも今だけだぞ陰キャ野郎!! てめえより強いモンスターなんて、いっぱいいんだからな! てめえなんかすぐ殺されるに決まってる!!」


 もはや助からないと悟ったのか。不良は命乞いをやめ、そんなことを言ってきた。


 別にその強いモンスターを直接その目で見たわけではないだろう。


 ただ憎しみから根拠もなくそうなって欲しい。そう思って言っただけのはずだ。


 だが、こいつの言っていることはおそらく正しい。


 今の俺より強いモンスターなんて、いくらでもいるはずだ。


 だが、俺は生き残ってみせる。


 そのためには、強くならなければならない。


「ブモォオオオオ!!!」


 オークたちが走り出す。


 そして、二手に分かれた。


 一方は俺に、もう一方は不良の方へと向かう。


(ファイアーボール)


 俺が魔法を放つと、オークの1体に直撃。爆発で近くにいたオークを巻き込み、もう1体撃破した。


 そしてその余波で、他のオークたちも傷を負う。


 さらにもう一発。


 今度は3体倒した。


 ドロップアイテムが落ちるが、今は気にしている余裕はない。


 たとえ、明らかに魔石とは違うものが落ちていたとしても。


(アイシクルランス)


 敵が接近してきたので、氷の魔法に切り替える。


 氷の槍を1本ずつ2回放ち、2体のオークを倒した。


「やめろ!! 来るなァ!!」


 と、叫ぶ不良の声が聞こえてくる。


「ぎゃあ!! やめぁあああああああ!!!!」


 不良が悲鳴をあげる。


 ……自分の戦いに集中しないとな。


「ブモォ!!」


 近づいてきたオークをバットで殴打し、一撃で葬る。


 別のオークを蹴り飛ばすと、そいつは周囲のオークを巻き込んで吹っ飛んだ。


 さらにバットをオークに叩きつけ、1体倒す。


「ブモォ!!」


 流石に数が多い。


 オークの拳が俺の顔面に入る。


 そのパワーは常人の域を超えていた。不良の金属バットの一撃よりも威力が高い。


 だが、俺には効かなかった。


 反撃でバットをオークに叩き込む。


 倒れ伏すオーク。


「ブヒィ!!」


 形勢が不利だと判断したのか、残り少なくなったオークたちが逃げ始めた。


 周りに障害物のないこの場所では、背中を向けた敵は恰好の的だ。逃がすつもりはない。


(アイシクルランス)


(ファイアーボール)


 魔法を撃ち込んで、逃げたオークたちを仕留めていく。


「そっちもか」


 もしやと思って見てみると、不良を甚振っていたオークたちも逃げ出していた。


 とはいえ、まだ大して距離は離れていない。


 これならいけるか。


 俺は全力で走り、逃げたオークたちを追う。


「ブヒィ!!」


 ファイアーボールで1体を仕留め、もう1体はアイシクルランスで。


 魔法で攻撃し、次々と倒していく。


 しかし、すべてを倒すことはできず、いくらか逃がしてしまった。


「終わったか」


 今回は数が多かったが、まったく苦戦することなく敵を倒すことができた。


 レベルも上がり、収穫の多かった戦いだと言える。


「あいつは……」


 不良の姿を探してみるが、見つけることはできなかった。


 既に死んで、その骸は消えてしまったのだろう。


 あいつを助けようと思えば確実に助けることができた。


 直接手を下したわけではないとはいえ、あいつを死に追い込んだのは間違いなく俺だ。


「……ふぅ」


 胸の動悸がうるさい。


「後悔してるのか?」


 それは違う、と自信を持って断言できる。 


 元々生きてる価値のないクズではあった。加えて俺に殺意を向けてきた時点で、あいつは死ぬべきだった。


 ただ、そんな奴でも命を奪うという行為はここまで重いものなのか。そう今更ながらに実感しているだけだ。


 でも、これがこの世界で生きていくってことなんだよな。


 最早秩序も法律も、何も俺を守ってはくれない。


 自分の身は自分で守る必要がある。


「さて。いつまでも気にしていても仕方ない」


 ドロップアイテムを回収するとしよう。


「ドロップアイテムといえば……」


 魔石はもちろんそうだが、他に気になるものが。


「これは何だ?」


 布で包まれた、四角い物体。


 手に取ってみると、柔らかい感触だ。


 布をめくって中を見てみる。


「肉……?」


 オークからドロップしたものだからといって、別に気持ち悪い見た目だったりはしない。


 スーパーで見かけるような、普通の豚肉のような外見だった。

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