3
エンドロールが流れて、シオンは僕の肩を放して立ち上がった。ぱちりと音がして、青っぽい暗い部屋が一気にオレンジ色に照らされると、日常感が取り戻された。
テレビの前でしゃがみ込んだシオンは、プレイヤーを操作した。僕はソファに座りながら、プレイヤーがディスクを吐きだす音を聞いていた。
「あさひ、もう寝る?」
丸まった背中の向こうからそんな問いかけが聞こえる。今度も顔が見えないから、シオンが何を思って尋ねているか分からない。読もうとすればするほど、頭は冷静になろうとしているのに、心臓が勝手に動いてしまう。結局何も言えずにシオンの背中を見ていると、彼が言葉を続けた。
「俺は目が覚めちゃった」
そうなんだ、と口に出そうとしたけど、喉になにか詰まっているような感じがして、僕はただ喉を鳴らした。無理に横に引き上げていた口角が疲れてくると、僕はソファから立ちあがった。
「これ片付けてくる」
思いつきで僕はティートレイを持ち上げようとした。そのとき、いままでこちらを向かなかったシオンが「あーそれ」と首だけで振り向いた。
「明日の朝洗うから、そのままキッチンに置いてといていいよ」
「これくらいやるけど」
「ううん、大丈夫。ありがとう」
肩越しの微笑みに、僕は下唇を突き出して返した。肘で開けたリビングの扉を、背中でもたれかかるようにして閉めると、思ったより大きな音が鳴った。その反響に、心のささくれが深くなる。
ため息と一緒に、泣き出しそうな気配が溢れた。こういうのは、これが初めてじゃない。なんでもないことを過剰に先回りして読み取って、勝手に喜んだり傷ついたりする。そういう癖が、ある時期から染みついてしまった。そうしないと守れないものなんて、もうないはずなのに。シオンだって、きっともううんざりしてるだろう。
明かりをつけずに冷えたキッチンへ入ると、僕はティートレイを流し台の広くなっているスペースに置いた。マグカップはどちらも空だったが、ハーブティーを飲んでいたシオンのとは違い、自分のカップにはココアパウダーの塊が残っていた。このままにしておくと、明日洗うのが大変になるだろう。カップを逆さまにすると、銀色のシンクに黒い塊がどろりと落ちた。水を出せばすぐにきれいになるのに、滲んでいく様をただ呆然と眺めた。
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