第2話 大地とともに育つ子
エルト・ファーロンは、幼い頃から土と共に育った。
三歳で鍬を振れば地面が砕け、五歳で土の声を理解し、七歳で魔獣を撃退した。
村人は彼を土の申し子と呼び、本人はただ畑が好きな少年だった。
――だが、その才能は、やがて村に収まらなくなっていく。
十歳
王都から来た役人に見出され、エルトは農村から旅立つ。
「農業以外の世界も、見てみたい」
胸の奥で芽生えたその感情が、少年を新たな舞台へ押し出した。
王立アグリア学園は、あらゆる職業の基礎を育てる場所だ。
剣士科、魔法科、錬金科、牧畜科、竜操科、薬草科。
そしてもちろん、農業魔導科も存在する。
身体強化魔法を扱う教師が、測定結果を見て目を疑った。
「エルト君……筋力、魔力量、精神力、すべてが成人騎士並み……いや、それ以上だ……?」
エルトは首をかしげて答える。
「畑仕事で鍛えられたんだと思います」
教師陣は言葉を失った。
剣術訓練
木剣を渡されたエルトが一歩踏み込んだ瞬間、地面がクレーターのように陥没した。
「土を固めて動く癖があるのかな……」
農作業で培った足場作りの感覚が、常識外れの踏み込みを生んでいた。
魔法授業
水よ湧けと唱えれば、訓練用の畑全体が潤い、
芽吹けと念じただけで、教室の植物が一斉に発芽する。
「え、これ……範囲魔法? しかも制御できてないのに自然発動?」
教師の顔が青ざめた。
エルトは人懐っこく、同級生たちはすぐに彼を好いた。
中でも、後に彼の人生を左右する三人がいる。
リシア。魔法科の天才少女。土魔法に強い興味を示す。
ガルド。戦士科の怪力少年。エルトを唯一の目標と認める存在。
ミーナ。農業科の努力家。エルトに土壌改良を学び、成績を大きく伸ばした。
彼らに囲まれ、エルトは学園生活の楽しさを知っていった。
年を重ねるごとに、エルトの中で別の感情が芽生えていく。
(戦士って、どんな景色が見えるんだ?)
(魔法を極めれば、もっと畑を豊かにできるのかな?)
(錬金術や薬草学も、農業に使えるのか……?)
学べば学ぶほど、農業の外にある世界が広がっていく。
才能は全方位に適応し、何をやっても突出してしまう。
教師たちは頭を抱えた。
「エルト君……君はいったい、どの職業を目指すんだ?」
「全部気になるから、全部やってみたいんです」
その返答に、教師は崩れ落ちた。
十五歳
学園では十五歳になると、職業を選ぶ結晶儀を受ける。
一生の道を定める、重要な儀式だ。
エルトが水晶に触れた瞬間――。
ボンッ!!!!
水晶は音を立てて爆発した。
《判定不能。特異点認定》
《大地系適性:S+++》
《武技系適性:S》
《生命魔法適性:S+》
《錬金適性:S》
《農耕魔導適性:測定不能(神性反応)》
教師陣は、満場一致で告げた。
「エルト、君は自由に生きなさい」
エルトはあらゆる職業の基礎を極め、
他の学生が一生をかけても届かない領域に立って卒業した。
だが――彼が選んだ道は、ただひとつだった。
「僕は……村に帰るよ。畑が好きだから」
友人たちは涙ぐみながら彼を送り出す。
「エルト……絶対にまた会おうね!」
「世界はお前を放っておかねぇぞ!」
エルトは笑いながら馬車に乗り、故郷へと帰った。
彼は祖父の畑を継ぎ、土地を広げ、
村の食料自給率を爆発的に向上させ、周囲の領地までも潤した。
魔獣が来れば鍬一振りで吹き飛ばし、
天候が荒れれば大地魔法で畑を守り、
土壌が疲れれば新たな改良術を生み出す。
それでも――エルトは戦わない。
彼はただの農夫だった。
村のために働き、作物と向き合い、静かに日々を重ねていく。
二十八歳
その年の春、村に王国の使者が訪れた。
「エルト・ファーロン殿。
国王陛下がお呼びです。
あなたの農業魔導が、国家を救うかもしれない」
「……え? 畑の話で国が救えるんですか?」
エルトは首をかしげ、鍬を手にしたまま王都へ向かうことになる。
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