(まだ6話)最強の農夫は、他職業でも無双していく。

すぱとーどすぱどぅ

第1話  大地とともに育つ子

 王都から馬車で三日離れた辺境、丘と川に挟まれた小さな村ファーロン。

 魔物も出る土地だが、土の質が良い“恵みの谷”として知られていた。


 この村で、エルト・ファーロンは生まれた。


 生まれた瞬間から、ちょっと普通じゃなかった。


「おぎゃああああ!!」

――と泣いた勢いで、布団ごと揺れ動き、産婆を驚かせ、

翌日には握っていた土の塊が芽吹いていた。


 村人たちは口々に言った。


「この子、土の神様に愛されてるんじゃないか?」

「いや、土いじりが好きな赤ん坊だろ……?」

「なんで土を握っただけで芽が出るんだ!?」


 本人はもちろん知らない。


三歳 ――最初の鍬(くわ)


 三歳になった日、父が小さな木の鍬をエルトに渡した。


「よし、エルト。ゆっくりでいいから畑を触ってみな」


「うん!」


 エルトは無邪気に鍬を振り上げ──。


 ドガァッ!!


 軽く振っただけで地面が深々とえぐれ、父と母が目をむいた。


「おいおい……三歳でこの筋力はどうなってるんだ……?」

「ねえあなた、これ……本当に人間の子よね?」


 エルトは首をかしげながら、掘れた穴に落ちていた種を拾い、何気なく土に埋めた。

 すると翌朝、芽が通常の三倍の速度で伸びていた。


 力も、成長速度も、人と違った。


 だがエルトは、まだそれに気づかない。


五歳 ――


 エルトの畑には秘密があった。


 彼は、土の声がなんとなく分かるのだ。


(この辺り、ちょっと乾いてる……水あげたほうがいいな)

(こっちは栄養足りてない。牛糞と麦わらを混ぜたやつ入れよう)


 五歳児とは思えない判断だった。

 父も母も驚きつつ、深く問いただすことはしなかった。


「エルトが言うなら間違いない」

「なんか……本当に土の神様の子どもみたいだよね」


 その噂は村に広まり、


「エルト君、こっちも見てくれないかい?」

「うちの畑も見てほしい!」


と、近所の大人たちが相談に来るほどだった。


 エルトのひと言で、村の収穫量は毎年増えていった。


七歳 ――


 ある日、畑に大きなイノシシ魔獣が現れた。


 村人が逃げる中、エルトだけが冷静だった。


(畑を荒らすのは許さない……!)


 足音、風の向き、魔獣の体重。

 エルトは本能で“動きの癖”を読んだ。


 そして手にしていた鍬を構え――。


 バキィィィッ!!


 一撃で魔獣を吹っ飛ばした。


「エルト!?」

「七歳で魔獣を!?」


 村人が口をあんぐり開ける中、エルトは鍬を見つめながら呟く。


「鍬って、案外戦いやすいんだね……」


 そこで彼の中に、うっすらと、


(戦士ってどんな感じなんだろう?)


という興味が芽生え始めた。


九歳 ――


 魔獣が出ればエルトが追い払い、

 畑の問題があればすぐに改善し、

 村の子供たちの力試しでは誰も勝てない。


 剣を握らせれば木を両断し、

 杖を持たせれば自然魔法が暴発し、

 走らせれば大人の狩人より速い。


「エルトは何者なんだ……?」

「農家じゃ収まらないぞ、あの才能……」


 しかしエルトは笑って言う。


「僕は農家だよ。畑が好きなんだ」


 そう言い切るが、心の奥には小さな疑問があった。


(……もし僕が畑以外をやったらどうなるんだろう?)


十歳 ――


 ある日、王都から一人の役人が村を訪れた。


「――ファーロン村のエルト・ファーロン君だね?」


「はい。僕です」


「君を王立アグリア学園へ推薦したい」


 エルトは目を瞬かせた。


「学園……? 畑の学校なんですか?」


「もちろん農業魔法も教えるが、それだけじゃない。

 戦闘、魔法、錬金、騎乗術……職業の基礎をすべて学べる。

 君ほどの才能を村に置いておくのは、国の損失だ!」


 父と母も驚きつつ、誇りを抱いていた。


「行ってきなさい、エルト」

「おまえなら、きっといい経験になるよ」


 エルトは畑を見つめながら考え――やがて頷いた。


「……分かった。行ってみる!」


 こうして、少年は畑を飛び出し世界へ向かう。

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