第二話 不良騎士、悪友と探索す
家から追い出されて五年経った。俺は今、二十一だ。
時間が飛びすぎ? いやだって面白くないぜ? しょーがないからダイジェストな。
この五年、兄貴の紹介でこの国──ラカルタ王国の王都に来て騎士団に所属したのよ。兄貴も騎士だったからな。長男ってことで、正騎士になってしばらくして帰ってきて結婚して爵位継いだけど。
んで、そのコネ使って俺も騎士団に入った。普通、つまり平民なら一兵卒スタートだけど、貴族のコネで従士スタートだった。
けど、正直なところ嫌々だ。五年経って正騎士なった今でも嫌。けどまぁしょうがない。働かないと飯が食えんしな。ニートの時と違って。
定番の冒険者はだって?
無いよ。
いやまぁ、正確にはある。けど、前世の異世界ファンタジーにあるような冒険者じゃない。どっちかって言うと前世にあった冒険者だ。遺跡を調べたり、前人未踏後に踏み入ったりな。そうそう、インディーでジョーンズなアレ。
正確な歴史は知らんが、いつの間にやら変化というか分派した。今、前世での異世界ファンタジーのような冒険者チックな戦闘職は傭兵って呼ばれてる。
じゃぁそれやればいいじゃん? 馬鹿言え、アレ言ってしまえば日雇い労働だぞ。命が懸かる分、報酬はある程度出るが、常に募集が掛かるわけじゃないし、報酬が良いのは奪い合いになる。無ければ他所の国にも出張らなきゃならんのだ。
現代感覚で言えばネット喫茶に住みつつタ◯ミーやってるフリーターと変わらん。
いや、たまに非合法な依頼もあるみたいだし、国家間公認の闇バイトかな。副業程度なら良いが、本業にするのはあんまりにもノーフューチャーだろ。どっちにしろ生業にするもんじゃねーよ。俺は安定志向だ。ついでに言うと休みはしっかり休むし遊ぶタイプ。スキマにバイト? 疲れるからヤダ。
で、十六で騎士団に入った俺は、いきなり正騎士なった訳じゃない。伯爵家の次男だからって何でもスキップできるわけじゃないんよ。
つーか後継者でもない次男なんか、平民と変わらん。多少の後ろ盾があるぐらいで、それだって実家と仲良くないと実行力がない。
俺? 絶縁こそされてないけど、頼った所で兄貴は冷たいだろうな。うん、後ろ盾なんかない。ハッタリ程度にしか使えんな。
結局、従士からコツコツとキャリアの積み上げよ。途中で戦争に巻き込まれるし、ありゃ酷かった。
まぁそん時の武功で途中から正騎士になったが、それ以降の昇進は拒否ってる。褒美を与えないと示しがつかないって言われても、じゃぁ夜遊びするから金だけ寄越せって言ってる。お陰で不良騎士とか銭ゲバ騎士って渾名が付いた。解せぬ。
理由? 俺が前世でサラリーマンやってたって言ったろ? 二十年もやってりゃ、中間管理職ぐらい経験するさ。
しかもここは近世ナーロッパ。俺の実家を見りゃ分かるが、ガチ貴族がいる。
おわかりいただけただろうか。
つまり、僕は悪くないと宣う自己中の塊であるクソ団塊と、それに甘やかされたプライドしか誇るものの無いカス団塊ジュニアと、二言目にはハラハラハラ論破! と呪文詠唱するZ世代なんか目じゃないぐらいロクでもない連中のオンパレードだ。
しかも権力側だから、そいつらが法律。つまり司法立法行政が揃ってハラスメントしてくるの。そんなのを管理にする立場になりたい? 本気で? 俺は嫌だ。冗談じゃないね。何が悲しくてこっちの世界でも氷河期世代みたいなことせにゃならんのだ。
だから意地でも拒否した。
流石に飯は食ってかにゃならんから騎士を辞める気はないけど、辞めるってカードをチラつかせることすら辞さなかった。
そのために嫌々ながら戦争行ってわざわざ他の連中差し置いて武功を積んだからな。手柄首目当ての連中からはそれなりに恨みは買ったが、我儘を通すためにはまず実績よ。
文句? 言われたし喧嘩も売られたよ。全員、貴族らしく決闘に持ち込んでギリギリ再起可能までボコったけど。お陰で暴虐騎士って渾名が付いた。解せぬ。
迷ったのは叙勲かな。爵位貰えるかもー、みたいな話が出てさ。それは流石に迷った。一端の独立貴族になったら、法衣でも恩給出るから。人一人暮らしてくならそれで十分じゃね? って、そう思うよな?
けど、アレもらうと色々動き辛くなんだよなー。地味に付帯義務が多すぎるし。前世で一家離散してんだ、こっちは。義務とか責務とかで柵作られるのはもううんざり。こっちの責任じゃなくても責任取らされるとか勘弁。今世は自由に生きたい。
だから今の俺は、立場としてはヒラ騎士。従士も付けるって話も来たけど、武功を盾に拒否。部下とかいらん。面倒くさいし。ちょっとぐらいの事務作業なら自前のスキルでできるし、部下つけられても小間使いにもならん。
何? 自分で育てりゃいいじゃん? はっはっは、人事権を持ってない人間が頑張るとどうなるか知ってるか? 頑張って部下を育ててそろそろ使えるようになってきたな、これでラクできるぜ、と思った頃に上の胸先三寸で引き抜きされるんだ。
挙げ句、お詫びに代わりの人員だって事前評価最悪の使えねーのが回ってくる始末。そう、最終処理場にされるのさ。いわば駆け込み寺。賽の河原よりひでーや。
俺は前世の経験でそれを知っていた。だから拒否し続けた。管理職なんか真っ平ごめんだ。
そんなことを続けてたらもう腫れ物扱いよ。
小庶民であった日本人の頃なら、多分居心地悪くなっただろうけど、こっち来てからもう二十一年だし、戦争で人殺しも経験したしな。肝も座ったよ。
力こそパワー、暴力は全てでないにしても大体を解決するってのは身に沁みてる。
けどまぁ、暴れすぎてちょっと今、面倒なことになってる。
「なぁ、おい。本当にここで合ってんのか?」
「道を違えた覚えは無い」
前を歩く一人の騎士に声を掛けたが、そっけない返事が帰ってきた。
正騎士の癖に、ちょっとひょろっとした男だ。黒髪のマッシュルームみたいな髪型。名前をウルツ・バルドウィン。従士以来の腐れ縁だ。
バルドウィン伯爵家の三男で、一旗揚げに王都に出てきただけあって、やたら出世欲が強い。けどひょろっちい外見の通り弱っちい。俺が小突いたら倒れるようなモヤシだよ。挙げ句、剣も槍も弓も才能がない。
だがコイツは何と言うか、悪運と悪知恵と
今、俺とウルツは最近見つかった遺跡の先行調査に赴いている。何でも、ちょっと前にあった長雨で地すべりが起きて、新しい遺跡が出現したんだと。
俺達の前に入った学者達もいたんだが、そいつらが中の魔獣に追っかけられて逃げ帰ったことで、実力のある奴が必要ってことで俺達が呼ばれた。
「あー…………どうしてこんなことに…………」
「貴様が第二騎士団相手に大立ち回りするからだろう」
「俺が暴れてる間、お前も
二日前の話だ。
その日は訓練の日で、適当に流してウルツと酒場で早めの一杯を引っ掛けてたんだが、第二騎士団の連中とカチ合った。
ウチの王国の騎士団、全部で五つあるんだが、第二騎士団は主に貴族連中で構成される。つまりまぁ、前述したハラハラ軍団よ。職場の嫌味な上司か、学生さんならカースト上位にくっついてる自分じゃ何も出来ない金魚のフンを想像してくれ。一人ぐらいいるだろ? それが画面いっぱいにいる感じ。どうよ、萎えるだろ?
因みに俺とウルツは第一騎士団。極端に実力主義なので貴族も平民も混ざってる一番脳筋軍団。力こそパワーなので、個人の強さがあれば風通しは良い。無ければ地獄の体育会系だが。
まぁそんな属性同士だから、当然仲が良くない。とは言っても、普段はそんなんでもないんだ。顔を合わせりゃ挨拶ぐらいはするし、第二騎士団にも話をする知り合いはいる。
そりゃまぁ、何のかんの同じ国に仕える騎士だしな。しかも直近で戦争やってるし。派閥争いを背景にした憎い憎いでバチバチやって仲間割れとかアホらしい。旧日本の陸海軍じゃあるまいし。
けど、第二騎士団の副団長、ヘクター・テンラブルってのがもう生粋の貴族主義者でな。相手の身分が下と見ると、狂犬みたいに噛みついてくるのよ。
一応、伯爵家ってんで、俺とウルツとは同格だが、どうも前の戦争で手柄を立てたのが気に入らないらしい。事あるごとに「成り上がり者」だの「野良犬」だのと突っかかってくる。
で、その時も絡まれてぶっ飛ばした訳だな。うむ。やはり暴力は正義。異世界は話が早くて良いね。楽だし。
ただ、場所が悪かった。普段、俺達騎士は城に詰めているんだが、城内はヘクターの悪行は知れ渡っているのでぶん殴ってもまたかで本人含めて済む。けど、それを知らない民衆がいる城下町でやったもんだから、貴族としてのメンツもあって引くに引けなくなった訳だな、アイツ。
つまり、酒場で大乱闘が始まった。俺も椅子のホームランバットで無双してたんだが、後日、総代──全騎士団の取り纏めに呼び出されて説教を食らい、罰としてウルツと二人で先行調査してこいって言われて、とりあえず奥を目指して今ココ。
「ぶつくさ言ってないで足を動かせ」
最初は人工物っぽい雰囲気だったのに、段々と洞窟っぽい風景に変わっていくのを不思議に思ってると、ウルツが呆れたように言った。
「おいおいウルツ。こちとら娼館の予約キャンセルしてんだぜ? 愚痴の一つも言いたくなるわ」
「喧しいわ風俗狂いの万年発情猿。年柄年中女の尻を追いかけおって。酒に煙草に女にギャンブルと、何処まで悪徳を積むのだ貴様」
「うるせーわ童貞貴族」
「どっちがだ素人童貞」
『おん?』
遺跡の真ん中で、殴り合いが始まった。
「あー、やめだやめだ。ここでお前とやり合っても疲れるだけだ」
「ふん。気に食わんが賛成してやる。とっとと調査を終わらせて帰るぞ」
この馬鹿、腕っぷしは弱っちいが回避能力に関しては俺以上なんだよな。黒髪と相まってちょこまかとゴキブリみてぇな奴だ。まぁ、こっちもコイツのヘナチョコパンチは当たらんが。
つまり、千日手で無駄に疲れるだけだ。それを分かっててもやるのは、何と言うか腐れ縁だからだ。挨拶代わりみたいなもん。
そんな風にじゃれ合いながら洞窟を進んでいくと、再び人工物っぽい小部屋に出た。四方十メートル程度の部屋だ。真ん中には石板が鎮座していた。
「これは、何の文字だ…………?」
「ふーむ…………」
ウルツが眉を潜めるので、俺も覗いてみる。そして思わず食い入るように見入ってしまった。
「読めるのか? 王立学院の学者でも解読できなかったようだが」
「…………昔どっかで見た字だな。ちょっと待ってろ。解読してやる」
俺が硬直していると、ウルツが尋ねてきた。それで我に返った俺はそう誤魔化して石板を見る。
そこにはこう書いてあった。
『朝は四本足、昼は二本足、夕方は三本足。答えはなーんだ?』
ご丁寧にも、
「答えは『人間』」
俺が答えを口にすると、石板を挟んで向こう、小部屋の壁がズズズっと音を立てて動いて道が出来る。開き切ると、効果音が鳴る所まで仕込んでいる辺り、色々と察した。
「何だ今の音は!?」
「え◯らのごまだれまで再現してやがる。こりゃ、確定かな…………」
この遺跡、絶対日本からの転生者が作ったもんだろ。しかも多分、同年代だ。
「何がだ?」
「こっちの話。行くぜ」
首を傾げるウルツを伴って、俺は奥へと足を向けた。
さて、鬼が出るか蛇が出るか、どっちかね。
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