追放次男な不良騎士は文化汚染後の異世界に夢を見ない
黄泉坂登
序章 ままならない転生事情
人生ってのは、ままならないもんだ。
楽な方へ楽な方へ生きてきたのが、そんなに悪いんだろうか。いやさ、別に努力しなかったわけじゃない。ただ、人間、誰しも好んで苦労を背負い込みたいやつなんか、奇特だろ?
俺もそうさ。別に有名人になんてならなくて良い。普通、普通でいいんだ。高望みは身を滅ぼすから。
普通にサラリーマンやって、普通に稼いで、普通に結婚して、普通に子供育てて、普通に年食って、普通に死ねりゃそれで良かったんだ。
けど、人生ってのはままならない。
普通のサラリーマンは代わりが利くってんで全然稼げないし、結婚しようにも上昇婚ってのか? 男をATMとしか見てない女ばかりで、それでも無理して結婚して子供育てりゃろくすっぽ小遣いはなくなるし、粗相した子供を躾をしたら虐待だの騒がれるし、挙げ句嫁は他所に男作ってトンズラ。
裁判で争ったがしっかり親権だけは持ってかれてって養育費を払う羽目になった。日本の法律はクソだ。後は弁護士も貧乏人には冷たい。おかしいだろ、俺、不倫されてんだが? 被害者はこっちだぞ。
そのまま歳食ったら若い頃シャカリキに働いた無理が祟って生活習慣病で、気づいた時には糖尿、更には多分、脳卒中でぶっ倒れた。
多分、ってのは朝、目が覚めたら頭ぶん殴られたような痛みで倒れたからだ。意識を保てたのは数秒だったが、昔テレビで見た脳卒中の症状にそっくりだったのは覚えてる。
四十年ちょっと生きての感想。
くっそつまんねー人生だったわ。前世。
そう、前世。俺は今、異世界転生してる。
赤ん坊スタートの強くてニューゲーム。
よっしゃー! チートだ! ハーレムだ! 夢にまで見たハイファンタジーだ!
そんな風に喜べるのは、ガキだけだ。一瞬だけ喜んだのは、まぁ男はいつまでも少年ハートを持っているから、と言い訳しておく。
少なくとも、俺にチートはない。ついでにこの世界、魔法はあるが俺に才能はない。つまり、使えない。まぁ、適正はないが魔力はあるから、魔道具は使えるんだがな。多少鍛えたから常人よりは多いけど、そんだけだ。
そしたら次に思いつくのは知識チートだな。この世界の文化水準は、大体近代だ。そろそろ産業革命入るんじゃないかな? ってぐらいの文化水準。鉄道とかあるぜ。後、飛空船が近隣諸国で開発されてるって話もある。
スチームパンク、期待するだろ? 俺もした。
だから前世知識使って無双しようと思ったんだよ。けどさ、普通のサラリーマンやってた人間の知識って、思ったより役に立たないわ。と言うか、ブレイクスルーできる専門知識がない。
例えば鉄道だ。この世界だと、魔法設備で蒸気機関やってるわけだが、これを電気にして電車に変えようとした場合、モーターの仕組みを何処まで一般人が理解してる? 多分、大体がフレミングの法則で止まってんじゃね? 異世界にネットはないから調べ直しも出来ないし。
営業兼務してたヒラ事務だったからブルーカラーは専門職じゃないし、得意なことと言えば強いて言えば事務作業だが、そもそもこの世界パソコン無いし。
事務だったら数字得意でしょ? 馬鹿言え、この世界の連中、スマホパソコン無いからインド人みたいに数十桁単位の掛け算を暗算するぞ。なんで手を振ってんだろな? って思ったら、アレで頭の算盤弾いてやがった。しかも正確。
現代日本人って、簡便化に慣れすぎて実は能力低いんじゃね? と遠い目をしたわ。ぱりっとしたスーツに憧れたからホワイトカラーを目指したが、こんなことならブルーカラーで土方やってた方がまだ役に立ったわ。
ああ、そうそう、算盤で思い出した。
この世界、算盤があるんだよ。そう、あの珠じゃらじゃらのアレ。そうそう、子供の頃、皆がローラースケートにして遊んでたアレだよ。
スチパンヨーロッパ風にゃ似合わんな? と思ったよ。で、色々調べてたら気付いた。
この世界、既に転生者がいた。
そりゃそうだ。ここに俺って事例がいるんだから、前例がないって方が珍しいだろ。と言っても、今の時代は分からん。
調べて分かったのは、大体三百年ぐらい前、丁度魔神大戦の頃に最低でも一人はいたってこと。そいつ、商会作ってたみたいで、だから大抵の知識チートはやりつくしてるんだ。
誰だよ、折角の異世界に日本人放流した馬鹿。ハイファンタジーっぽい異世界が無駄にジャパニライズされてんだが?
まぁ、その後、世界巻き込んだ魔神大戦って大戦争してるから、文化の進みは近代程度だけど。前世で言うなら、1800年前後。産業革命の頃かな。それに魔法がくっついてる感じ。
でだ。長々と話したが、俺はそこで萎えたよ。いや、色々吹っ切れたのかな。不貞腐れたとも言うけどさ。
考えてもみろ。
街を歩きゃ飯屋にラーメンあるわ、屋台にハンバーガーあるわ、本屋覗けば薄い本から百合本BL本まであるわ、設備調べりゃちっちゃな村でも上下水は完備されてんだぞ。
なんというかな、異世界の風情台無し。完全に文化汚染されてんだもん、転生者に。知識チートもする気失せるわ。
だからさ、まぁそれに乗っかる形でダラダラ生きることにしたのよ。運良く貴族の次男坊に生まれたからな。兄貴のスペアよスペア。兄貴が健在なら楽でいいね。
前世じゃ自分のことですら苦労したのに、統治者とか絶対無理。俺はお一人様でいい。まさしく独身貴族。目指せ、スローライフってな。
立身出世を夢見る若造なら地獄の環境だが、こちとら酸っぱい思いしかしてきてない元おっさんだ。何もしなくても誰かが飼ってくれるってんなら是非にってなぐらい楽園。
楽園、だったんだが──。
「待て! 待ってくれ兄貴!」
「ラース。何度も言わせるな。お前をこの家から追放する。──勘当されないだけありがたく思え」
俺は今、
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