役目ゼロからの返り咲き。
らいか
第1話 役目ゼロになったので追放される。
ここは帝都その郊外にあるひときわ豪華な一軒家。円卓を囲み座る5人。グループのリーダーである勇者の男性。その勇者から目を離さない。魔法師の女性。筋骨隆々で強面の戦士の男性。その筋肉に見惚れている回復術師の女性。そして、その様子を無気力に眺める雑用係の男性。
「というわけで魔族討伐の大遠征のため、この皇帝に謁見することになった」
「ついにオレたちも謁見できるまでになったか」
「ただ謁見するには、場違いな奴が1人いる」
勇者がそういうと4人は雑用係に目を向ける。
「お前ってパーティーで何の役にも立ってないよな」
「それはあなた方が強くなりすぎたせいでは?」
謁見が許可されるようなパーティーはそう多くない。今回も討伐軍のリーダーパーティーということで謁見が許された。
「生意気言ってんじゃないわよ!」
魔法師が悪態をつく。それを優しくなだめる勇者。この光景は何度も見たことがある。
「あなたがいることで、パーティーの雰囲気が悪くなるんだよ」
「それは俺を残して4人が恋人関係になったからでしょう」
「嫉妬してんのか。雑用係のお前に恋人なんてできっこねぇよ」
戦士が彼をおちょくるこれもいつもの光景だ。
「そういうわけだ。お前にはパーティーを抜けてもらう」
「それは光栄です。最近のあなた方とは反りが合わないと思っていたのでね」
そう言って雑用係は席を立ち上がり部屋を出ていく。その際雑用係は捨てセリフのように吐き捨てた。
「俺のスキルで成り上がった弱小パーティーが、勘違いするんじゃねぇよ……」
ホームを出ようと玄関の扉を開けた時、そこには上等の服を着ているが、仮面をつけている男性が立っていた。
「顔を確認したところ、君で間違いなさそうだ」
「間違いないって何がだ?」
「商品を確認してきただけだ」
男性は雑用係に手配書のような紙を見せつける。そこには彼の似顔絵が色付きで描かれていた。
黒髪短髪で人相の悪さはまるで犯罪者ようだ。黒目でむすっと口を摘むんでいる。
似顔絵の下には勇者の小洒落たサインがしてある。
「東洋人は女の方が高く売れるんだが、まぁ良いだろう」
「先祖が東洋人ってだけで俺はこの国の出身だ」
「お前の出生は聞いていない。ほら行くぞ。今夜にも競売が始まる」
奴隷商人の男性は雑用係に手錠かけて、後ろに止めてあった荷馬車に乗せる。そこには多くの男性奴隷がすし詰め状態になっていた。
奴隷商人は、彼らとは別の馬車に乗り荷馬車を先導する。
荷馬車に乗せられた商品と成り果てた雑用係に隣の男が話しかける。今日の夜空は暗雲が立ち込めていて今にも雨が降り出しそうだ。
「お前も災難だな。よりにもよって王国最強のパーティーから奴隷になるなんて」
「あいつらが帝国最強? 笑わせないでくれ。あいつらは俺のスキルで最強になっただけだ」
「そうなのか? お前のスキルって何だよ」
「この世界では人間力しかり体力しかりあらゆるものが数値化されるだろう」
「まるで遊戯みたいだよな」
「そうだな。俺はその『あらゆる数値』ってやつをゼロにすることができる。例外はない」
「ちょっとよく分からないな」
「まぁ話を聞くより、見てもらった方が早いからな」
「例えばどんな感じなんだ」
「あいつらにしてやったのは、モンスターの生命力をゼロにすることだな」
「そうすると、どうなるんだ?」
「死ぬ」
「それって最強の手柄なんじゃね。何で追い出されるんだよ」
「端的に言えばパーティーで、はぶれものになったからだな。それに俺のスキルも万能じゃない」
「というと?」
「まずゼロにしたい数値をあらかじめ把握しておく必要があるし、その対象に触れながら『このモンスターの生命力をゼロにする』みたいな感じで宣言しないとスキルは発動しない」
「それはなかなか厳しい条件だな。特にあらかじめ数値を把握ってどうするんだ?」
「勇者の奴が数値を可視化できるスキルを持ってたんだよ。例えば好感度数値を可視化することもできたはずだ」
「なるほど察しがついたぜ。つまりお前はパーティーに対する好感度が、限りなく低くなってたんだな」
「あぁゼロだ。あいつら自分たちの評判を上げるためなら何でもしたからな」
「まぁ奴隷商人と繋がっている奴に、まともな人間はいないよな」
そんな2人の話し声を掻き消しように激しい雨が降り始めた。周囲には雨の降りしきる音と馬の闊歩。それからときおり鞭の音が響く。泥水の独特な悪臭が鼻をつく。
いつ終わるか分からなかった奴隷たちの旅も、とある豪華なお屋敷の裏手門抜けると荷馬車が止まった。
「ここからは歩きだ。さっさと降りろ」
奴隷商人の手下らしき人物が奴隷たちに離れの地下牢まで行くように指示をする。
傘なんて贅沢はもちろん許されない。奴隷たちは雨に打たれながら1列で離れを目指す。だが一貴族の屋敷なだけあって、離れまでは相当な距離を歩かされた。
そうして離れに着くと、奴隷達は裸にされ、身体検査を受ける。
「お前か。今回の目玉商品は、なかなか良いスキルを持っているじゃないか。さすが帝国最強だっただけのことはある」
審査官は手元の書類と見比べながら皮肉たっぷりそう言った。
「俺が目玉か。せめて高く売れて欲しいもんだ」
「口答えするな」
身体検査を終えた者は、地下牢へ詰め込まれる。その牢屋にはカギが掛けられて奴隷たちの逃げ道を塞ぐ。奴隷の中には何人か子供の姿もあった。その内の一人が彼に話しかける。
「ねぇお兄ちゃん。ぼく、お金の勉強してこなかったからきょうばい? なんて分からないよ」
男の子の奴隷が恐る恐る聞いてきた。
「分かった教えてやるよ。まずこの国のお金は、使われている材質で単位が変わってくる。価値が低い順に、銅貨はアルムの銀貨はべリング。金貨はクラン。銅銀金紙の順に10枚集まると材質のランクがアップすると考えたら良い」
「ぼくのお父さんは工場で働いてたよ」
「職種にもよるが、銅貨100アルムつまり銀貨10べリングあれば君の生活は安泰だっただろうな」
「そうなんだ。それならぼくの値段はいくらなの」
「それはまだ決まっていない」
「どういうこと?」
「それが競売での買い物の仕方だからだ。主催者が、はじめに売りに出す金額を提示して、その商品を欲しい客が時間内に自分の出せる金額を提示し続けて商品の価格を上げていく。最終的に1番の高値を提示した人が、商品を買うことができるって仕組みさ」
「よくわからない」
「奴隷……使用人の給与は紙幣のユースが最低条件で、文字通り庶民の俺たちには手が届かない代物なんだよ」
「おいそこのガキ出番だぞ」
「バイバイお兄ちゃん」
「君によりマシな運命が訪れることを願っているよ」
そんな風に次々と出品されていく奴隷たちを半分くらい見届けた頃、彼の順番が回ってきた
競売会場はまるでディナーショーでもやっているかのように活気に溢れていた。しかし皆高貴な服を身に纏いながら、仮面をつけて誰の顔もハッキリしない。それが不気味で蝋燭の小さな灯りだけが会場を照らしており薄暗い。
「さぁ続いては、今夜の目玉商品です。帝国最強のあのパーティーから出品された。スキル持ちの男性奴隷です。初めは紙幣1000ユースからです」
目玉商品というだけあって会場は大いに盛り上がっている。
「2000!」
「3000!」
「5000!」
「8000!」
ドンドンと値段が釣り上がっていく光景を彼は内心、皮肉りながら見届けていた。
「10億!」
その競り声に彼も含め会場の全員が声の主の方を見た。その声は明らかな女声で男性しかいない会場に一輪の花が咲く。
「他にありませんか。ではその方にハンマーが落ちます」
ハンマーの甲高い音が会場に鳴り響く。
そして奴隷には不釣り合いな豪華な部屋で新しい主人と対面する。
「これから君の名前はレオンだ。よろしくレオン」
それは上品で清涼感の感じる青年の声だった。
「アンタ女だろう。この競売は見たところ女人禁制に見えたが、男装してまで潜り込む必要があるのか?」
「その話は馬車でしよう」
そう言って男装令嬢は、まるで婚約を申し入れるように片膝を床に付けて、レオンへ手を差し伸べた。
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