第41話 次のイベントが始まった



 二日目のイベントが開始された。

 競技内容は魔法制御だ。


 皆の前の魔焔塊が激しく炎をあげている。その暴れ狂った炎の制御は、誰にとっても困難なものだった。皆、火力を弱めることに必死なようだ。


 うまくいっている者はいなかった。さっき手本を見せたセゾは、化け物クラスの魔導士なのかもしれない。


 魔焔塊の炎がレナーシャの顔面を襲う。


「ぐひゃ」


 変な声をあげた。係員が寄ってきて回復魔法を施した。レナーシャは早々に棄権扱いとなった。


 おかげで棄権者の第一号は免れたものの、僕だって魔焔塊の炎を前にして、何もできちゃいない。結局はこのままアピールできずに終わるのだろう。


 おや、待てよ。


 このまま皆が何もできないまま時間切れになれば、レナーシャ以外の全員が引き分けってことじゃないか。うん、これはいい! これでいい!


 ところが――。


 炎の安定化に一歩近づいた参加者がいた。炎の強弱については不安定なままだが、四方八方に噴き乱れる火柱を抑え込んだのだ。


 あちゃー。全員引き分けはナシか。


 でもまあ、今回はビリじゃない。レナーシャには感謝しなくちゃ。


 とはいえ、僕に魔法は無理だとしても、一生懸命やっている姿をみせておかねばなるまい。両手を前方に突き出すポーズを取り続ける。


 しばらくすると両手が疲れてきた。やはり前に突き出したままは辛い。仕方なく片手ずつとすることにした。


 飽きてきた。あくびが出そうになった。しかしその瞬間、魔焔塊の炎が真横に噴き出し、僕の体を襲った。


 レナーシャのときと同じだ。でも炎は僕に届かなかった。見えざる怨力の壁が防いでくれたのだ。


 だけどアッタマきた! ビックリさせやがって!!


 僕は魔法【制御】ではなく、魔法【放出】を行なう。


 クソクソクソぉ~。この石、破壊してやるっ。


 それでもやはり魔法は苦手だった。僕は潜在魔力量F級。波動弾も雷撃も火炎弾も出てこなかった。


 時間が経ち、冷静さを少し取り戻した。


 さっき僕はなんで火炎弾なんて撃とうとしたんだろう。魔焔塊の炎がますます火力を高めてしまうのに。などと思っていたら、突如として僕の手から火炎弾が発射された。


 おいおいおい、ちょっとちょっと。今更すぎるよ。火炎弾を放とうとしてから、だいぶ時間が経ってるじゃないか。


 火炎弾――この人生で三度目の魔法だった。


 しかも強烈な大々々々魔法だった。


 魔焔塊に命中。炎と炎がぶつかり合った。炎は反応して強大なものとなった。周囲の参加者が一時的に逃げ出すほどだった。


「あいつ、馬鹿か。火炎弾を放つなんて!」

「火力を抑えるどころか、逆に勢いを激しくしてどうする」


 そんな声が聞こえてきた。

 ――だが奇跡が起きた。


 巨大になった炎は消えてなくなった。

 どうやら僕の火炎弾が魔焔塊を焼き尽くしてしまったようだ。


 セゾが走ってやってきた。なくなってしまった魔焔塊を確認する。


「ありえん!! 上質の聖水がなければ、決して消えないはずの魔焔塊じゃ。それが何故? 魔焔塊の魔素を使い切るほどの火炎弾じゃったと? 何かの間違いじゃ。間違いにきまっとる」


 あれ? これって……。

 僕は主張する。


「ねえ、これ、僕の勝ちじゃないの? 一応、火力は一定でしょ。火力ゼロがずっと続くってことだから」


 セゾは無言を貫いた。

 しばらくして時間終了。



 退場口ではバモイが待っていた。


 またもや僕は手を引っぱられた。そしてセゾのもとへと連れていかされた。


「彼のパフォーマンス、いかがでしたでしょうか?」


 バモイがおそるおそる尋ねると、セゾは首を左右させた。


「大半の者は彼を認めておらぬ。ワシも含めてな」


 バモイは笑顔になった。


「逆に言えば、認めてくださった方々もそれなりにいる、ということですね」


「まったくワケがわからぬ。じゃが……グリヤ魔法学園はとんだ生徒を送り込んでくれたものじゃわい」



 陽が高くなった。そろそろ昼食の時間だ。


 バモイから飯を誘われたけれど断った。

 僕には約束があったからだ。


 郊外のベユンバーケ屋敷に行き、美味しいスープをご馳走してもらうのだ。


 お腹が空いたので急いだ。


 屋敷の前までやってきた。

 門を越えようとしたところで――。


「お待ちなさいっ」


 聞き覚えのある声。

 振り向くと、そこにいたのはレナーシャだった。


 回復魔法を施されていたけど、もうすっかり元気そうだ。病院へ行くほどでもなかったか。でもここは会場からずいぶん離れている。


「どうしてこんなところに?」


「あなたが怪しい動きをしているからに決まっているじゃない。実際、こんな郊外にまでやってきて」


 僕は思わず体をのけぞらせた。


「わっ、怖いな。ストーカー? すっごく気持ち悪いから、尾行とかやめてほしいんだけど」


 レナーシャが目を剥く。


「何が気持ち悪いのよっ。ストーカーじゃないわ! だいたい、あなたは廃墟の屋敷に侵入して、何するつもりかしら。泥棒なの?」


「約束があったんだ。スープをご馳走してもらうことになってて」


「嘘おっしゃい。こんなボロ屋敷に住人がいるわけないじゃない」


 それがいるんだよな。生きた人間じゃないけど。

 とにかく何を言っても無駄だろう。


 レナーシャを無視して、門を潜る。建物の前に立ち、ドアを開けた。主人らしき人がいて、乳母らしき人がいた。きのうと同じだ。


「まさか……人が住んでいたなんて」


 驚きを含んだ声でつぶやいたのは、レナーシャだった。

 僕についてきちゃったのか。


 レナーシャにも霊が見えているようだった。

 しかも生きた人間だと勘違いしているらしい。


 執事長が正面の階段からおりてきて、深々と頭をさげる。


「お待ちしておりました……おや? ご友人もごいっしょでしたか。大歓迎でございます。さあ、お食事の用意はできております。こちらへどうぞ」


 彼は丁寧な口調に戻っていた。


 きのうと同じテーブルについた。ちゃっかりレナーシャもいる。食い意地張ってるなあ。


 メイドがやってきた。


 右目は早くも完治したようだが、それは肉体ではなく霊体だからこそだろう。


 さっそくスープをいただく。


「うんめえええ!」


 どんな肉入りスープよりも美味だった。


「あら、美味しい」


 レナーシャも満足そうに舌鼓を打っている。

 メイドが退室したあとで僕に尋ねてきた。


「ここってなんなの? あなたのご実家?」


「ううん。亡霊屋敷だよ」


「えっ!?」


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