第17話 黒い箱が開けられた
三人組を殺せばいいのに、と僕はジュナに提案した。
「馬鹿なこと言わないで」
と、呆れた目をするジュナ。
「自信持ちなよ。ジュナの魔力なら簡単なはずさ。成功率は100%だよ。あの三人を殺したって、僕は口外しないから大丈夫」
「そういう話じゃないでしょ」
僕の提案は受け入れられなかった。
三人組の目が僕に集中する。
「なんなの、そっちの用務員」
「あたいら三人を相手に殺す? できっこないじゃん」
「ちょっとさあ、懲らしめてやろうよ」
三人組は互いに首肯すると、僕とジュナを見て笑った。
「この学校で一年間みっちり学んだ成果を見してやんよっ」
鼻ピアスの生徒の手から、火球弾が飛んできた。
以前の授業でジュナが軽く火傷し、服を焦がされたときと同じものだ。しかし不意打ちのような前回とは異なり、ジュナは迅速かつ冷静に対応するのだった。水流弾を当てて火球弾を打ち消す。
火球弾は構えてから発射までの時間が長く、見た目の威力もしょぼい。一方、ジュナの水流弾は素早く、狙った場所だけを正確に撃ち抜いていた。
魔法の腕前は、どう見てもジュナの方が上だった。
「火系魔導って……。火事になったらどうするの?」
ジュナの言うことは、もっともだ。もし火事になったら、僕たち用務員に余計な仕事ができてしまう。
しかし彼女たちはジュナを無視。今度は三人で攻撃してきた。それでもジュナの魔法には及ばなかった。実力差は歴然としていた。三人の顔が険しくなる。完全に劣勢だということを自覚したのだろう。
そんなとき、三人組の一人がある物を見つけたようだ。
「ねえ、これって」
棚に置かれた黒い箱のことだ。
「魔玉って書かれてるけど」
「そんな貴重なものが道具室に?」
「いい! これ使えるじゃん」
三人組が喜んでいるけど、魔玉ってなんだろう。
「ねえ、ジュナ。魔玉って知ってる?」
「ええ、もちろん。魔力を増幅させる不思議な石。それを使用されては手も足も出なくなるわ」
鼻ピアスの生徒が黒い箱を抱える。
「あんたら覚悟しな」
そう言ってフタを開けた。
僕たち、覚悟しなくちゃならないのだろうか。
ところが箱から出てきたのは――。
ハチの大群だった。
きゃああああああああ
どうしてハチが箱から出てきたのかは不明。
三人組が悲鳴をあげながら逃げ惑う。
危険な大群に対し、魔法対応の余裕はないようだ。
「あれはホラービーね」
ジュナがポツリと言った。
詳しく聞いてみると、ホラービーはこの地域一帯に住むハチの一種で、猛毒を持つ上に、攻撃性がすこぶる高いらしい。
こっちの方にも数匹が飛んできた。ジュナが落ち着いて対処する。指先から白い風が生じ、それらのハチを飛ばした。
「いまのは何?」
「氷葬風。氷系と風系の合わせ魔法で、ホラービーを凍死させたの」
ジュナは三人組の周囲を飛ぶハチに向け、同じ魔法を放った。大群は強風に壁に打ち付けられ、そのまま凍死したようだ。
床に尻をつけて呆然とする三人組。助けてくれたジュナに感謝の言葉はまだない。三人とも顔が風船のように膨れあがっていた。
「あの三人の顔、痛そうだね」
「ホラービーの怖いところは、猛毒による命の危険や激痛とかではないの。運悪く顔を刺されれば、信じられないほど腫れあがってしまうこと。回復魔法や薬もほとんど効果がなくて、腫れが引き始めるまでに少なくとも半年、完治までには一年以上かかるみたい」
それは気の毒に。
三人の顔はさっきよりも膨れあがっていた。まるで被り物をかぶっているようだ。人間、ここまで顔が大きくなるとは。これが半年も続くのか。
「痛っ」
ジュナも腕に刺された。まだハチが一匹残っていたようだ。
ペチンっ
てのひらでジュナが物理的に殺した。
「大丈夫、ジュナ?」
「ええ。刺されたのが顔じゃなかったし。ホラービーの毒じゃ腕は腫れないから」
黒い箱の中にはハチの巣があった。
ジュナがさきほどの魔法で殺虫。もうこれで安心だ。
ガラッとドアが開いた。
誰かが道具室に入ってくる。
見たことのある顔だけど、誰だったか。
思い出した。生徒会長だ。
エーラの入学初日に声をかけてきた人だ。
そうそう、あのとき……。
自分より美しい人が大嫌いなエーラが、生徒会長の手をパーンと払ったんだ。
生徒会長の目が、三人組を見つけた。
「まあ、あなたたち。お面を被ってふざけるのはやめなさい。道具室の物を面白がって触らないこと」
彼女たちの顔はさらに膨らんでいた。お面だと思うのも無理ないかもしれない。生徒会長は話を続ける。
「それより……。魔玉を一緒に探してもらえないかしら」
魔玉!?
ハチの入っていた黒い箱に、そんなことが書かれてたっけ。
ジュナがその箱を差し出す。
「箱には魔玉と記載がありますが、中身はハチの巣です」
「きゃっ」
生徒会長が箱を落とす。
「魔玉のような高価なものが、本当に道具室にあるでしょうか」
ジュナが尋ねると、生徒会長はとんでもないことを言うのだった。
「あるはずよ。研究のために借りようとしたのだけど、紛失してしまったの。すると特待生のエーラさんが教えてくれたわ。ここで見たって」
すべて理解できた。
――どうして魔玉と書かれた箱に、ホラービーが入っていたのか。
もちろん決まっている。犯人はエーラ。自分より美しい生徒会長の顔を、あの三人組のようにしたかったからだ。
さすがは姉者。やることがクズの中のクズだ。
でもエーラの悪巧みは失敗。
生徒会長は、三人組に感謝した方がいいだろう。
そのあと魔玉は見つかった。
別の箱に入っていたのだ。
三人組は病院へ行った。
ジュナも腕を刺されたので、念のため医務室に向かった。
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