第14話 同居が始まった
同居することになったユマは、グリヤ魔法学園の生徒ではなかった。新人の助教員だ。すなわち生徒に教えたり、魔法研究する立場にあるそうだ。しかも僕より一歳年下らしい。
この国では十四歳にならなければ、魔法大学はもちろんのこと魔法学園にも入学できない。だから特別奨学金で外国の魔法大学に入学し、たった二年で卒業してきたのだという。
——つまり、めちゃくちゃなエリートというわけだ。
ユマが僕に問う。
「あなたは学園の新入生?」
「違うよ。用務員として雇われたんだ」
「なるほど。それで借上げ住宅にいるわけね」
しかし会話が弾んでいるわけではない。
依然として彼女の表情は硬いまま。僕を警戒しているのだろう。
そして奇妙なことを訊いてくるのだった。
「ちなみに、子供の頃、神官に潜在魔力量をみてもらった?」
「神官じゃなくて聖女に見てもらったんだ。F級だって」
「F級?」
「そうだけど、おかしい?」
「ううん、学園の生徒じゃなければそんなものかもね」
ここでようやく安心した表情を見せるのだった。
「いいこと? わたしに何か変なことすれば、死を見ることになるわ。わたしS級だから」
S級といえばエーラと同じだ。極めて珍しいと聞いてたけど、やっぱりいるもんなんだな。でも……。
「変なことすればって何? どんなこと?」
「へ……変なことは変なことよ」
それがわからないんだけど。
「具体的に言ってもらわないと困るな。僕がユマの魂を食べるとか?」
転生してからは人間の魂を食べなくなった。食指がぜんぜん動かなくなったからだ。
「魂を食べるってなんなのかしら。ワケのわからないことを言うのね」
「知らないの? 殺すっていう意味に近いかな。変なことって違うの?」
「違うったら!」
「じゃあ何? ちゃんと言って」
「それは……エッ、エッ、エッチなことよ」
そう答えながら、耳まで真っ赤になっていた。
「なーんだ。それなら大丈夫。いままでずっと双子の姉と過ごしてきたけど、エッチなことなんて一度もなかったし」
「姉弟ならば当たり前でしょっ。とにかく変なことしてきたら、絶対に殺すんだから!」
新たな同居人はその童顔に似合わず、ちょっと怒りっぽい人のようだ。
眠りについた深夜――。
「きゃあああああああああ」
突然の悲鳴に飛び起きた。
いったいなんだ?
大声のヌシはユマだった。
「真夜中にどうしたのさ、ユマ。安眠妨害はやめてくれないかな」
ユマがガタガタと震えている。
「あわわわわ……。出た、出たの」
「何が出たの」
「お化けよ、幽霊!」
ユマには亡霊が見えるようだ。
エーラもそうだった。どっちもS級だからか? ただエーラの場合、亡霊を見てもまったく気にしていなかった。
この世界において、亡霊の存在を信じているのは子供くらいだ。一般的な大人の常識としては、存在しないことになっている。そのくせ怪談話とかで盛りあがるのが好きだったりするのだ。
「お化けなんかで騒がないでよ」
「騒ぐわよ! こ、こうなったら……」
ユマのてのひらに大きな炎が生じた。
「何やってるのさ、ユマ」
「跡形もなく消し去ってやるわ!!」
わっ、この家が火事になる!
大家に怒られちゃう。これはまずい。
咄嗟に怨力で炎を消した。
手元の炎が無に帰すと、ユマは目を大きく見開いた。
「消えた? 何何何何何何何何っ、どーいうこと!!」
魔力で何度も炎を出そうとするが、僕の怨力でそれをさせなかった。
ユマの言うとおり、この借上げ住宅には亡霊がいた。腰の曲がった老婆の霊と、帽子を被った小さな少年の霊――その二体。老婆は柱の影から顔だけ出して覗きこみ、少年は天井付近で膝を抱えてしゃがんでいる。
しかしユマの最初の炎を見て、どちらも逃げていってしまった。
「ほら、周りを見てよ。まだ霊はいる?」
「い、いなくなったわね……」
「うん。じゃあ、おやすみ」
僕は再度ベッドに戻り、横になった。
ところが――。
ん? なんだろう?
ああ、亡霊がまた戻ってきたのか。
でも亡霊にしては奇妙な感じだ。どうして僕の手を握る?
……と思ったらユマだった。
「僕のベッドに入ってきて何してるのさ。エッチなことって、ユマがしてきてるじゃないか!」
「エッチなことじゃないわ! さっきお化けが出たんだもん。仕方ないじゃない」
などと、ユマは声を大にして反論。
「仕方なくないから。早くベッドから出ていってよ」
「無理無理無理。文句はさっきのお化けに言って」
手が震えている。ひどく怯えているようだ。
そんな強く握ったら痛いよ。
迷惑な人だから殺してしまおうか。
でも……。
僕は亡霊を呼び寄せやすい体質だ。つまり僕のせいとも考えられる。だから勝手にベッドに入ってきたのも、勝手に手を握ってきたのも、僕は我慢して許してやることにした。
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