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午後も仕事を淡々とこなす。

こないだまで毎日のようにトイレで吐いていたのが嘘みたいだった。

『アレ』を見ても不快感が湧いてこない。

ただ、ディスプレイ上に映し出された図像であるとしか認識できなかったので、作業は随分と楽だった。


そう思えばそうなるんだよ。


雨飼さんの言葉が頭を巡る。

本当に、催眠術か何かのようだった。

何故そうなるのか自分でも分からない。

無意識下の操作。

あれほどに職業適性の高い雨飼さんならば、容易くやってのけるのではないか。

ましてや、ディスプレイ越しに見た『アレ』にさえてられる僕のような人間に対してであるなら、尚更。


美しいものを持っていれば、それだけで。

そう信じていたいと思った。

事実、実感としてそれが目の前に現れているのならば、そうなのだ。何も疑うべきところがない。僕の世界はあのときから確かに変質した。それ以前の感覚を思い出すことが出来ない。


そういえば、雨飼さんから万華鏡を貰ってから一度も覗いていないと思った。

それが美しいものであると、僕は一切疑わなかった。

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