第2話 冤罪

 駅に着くとホームは人で溢れていた。この時間帯は多くの社会人や学生が利用する。

 

 僕は1限目に遅れる届けをして、病院に向かう。昔していたサッカーで靭帯をケガしてしまい、都心に近い総合病院で診てもらっている。


 朝の凛子の件があって胸中不安だったが、ボーっとしてた訳ではない。

 そんな折、急に僕の手を掴み、女子高生が叫んだ。


「この人、痴漢です」


 突飛な出来事に驚いて否定が遅れた。すると若いスーツを着たサラリーマンと思われる男が僕を取り押さえ、降りる筈だった駅の一つ前で降ろされた。


 連行され、来た駅員室で警察の取り調べを受け、女子高生が涙を流す傍らで、僕は無実を訴えたが疑いは晴れなかった。


「君は若いが、高校生だ。社会では立派な大人とみなされんだよ。」


「違うんです。僕は…やってない!」


 通勤ラッシュもあって目撃者はいなかった。自己弁論も霧散した。


 迎えにはお義母さんが来て、涙ながら女子高生に謝った。


 駅員室を出た直後、僕は頬を殴られ


「しょう…あなたには失望しました。」


 信じてくれなかった…。見知らぬ女を信じた…。僕はこの人の事を本当のお母さんと思ってたのに…。


 血の汚さが垣間見えた気がした。でもこれはここだけの話だ。この人の本性を知ったが、これからうまくき距離を取ればいい。そんな風に思っていた。


 自宅謹慎が言い渡され、今日は学校に行かずに引きこもった。


 時間も夕方になり、佐那が帰って来た。


 いつものようにおかえりと言うと無視された。なんで無視するんだ!


 追い縋るように佐那を追いかけたが


「話しかけないで!この犯罪者!」


 そう言って、佐那は自室に行ってしまった。

 

 心臓が冷たくなるような感じがした。どうして佐那が今日の事を知っているんだ。まさか…僕を知る誰かが触れ回ったのか?


 もう少しして姉さんが帰って来た。一縷の糸を手繰るように話しかけると


「あの幼馴染に行くならまだ理解できたんだけど…もうアンタは家族でも何でもない」


 姉さんは餞別に教えてくれた。SNSで僕が突き出される所をアップされていたんだと。


 深く絶望した。拡散されたいたのもそうだが、誰も僕がしていると疑ってなかったのだ。当然、凛子も知って…。最悪のシナリオが頭に浮かんだ。


 インターフォンが鳴って、モニター見ると凛子が立っていた。


 逸る気持ちを抑えながら、玄関を出て幼馴染を見る。僕の好きな人だ。


「凛子、違うんだ!僕は痴漢なんてしていない!」


「う…うぐ、ぐすん、信じたいよ…?でも、だったらあの動画は何?」


「連れていかれてる所を撮られただけなんだ!そ…それに僕は、俺は凛子、君が好きなんだ!他の女の子にそんなことする訳がない!」


 こんな形で告白するとは思わなかった。言った自分も驚きだが、凛子はもっと驚いてる様子だった。


「私も好き…、どうして今言うの?…。こうなる前に言ってくれてたら信じれたのに…」


 嬉しいはずなのに、胸にはぽっかり穴が開いた気がする。冤罪に後押しされ、告白して両想いになれたのに、彼女の信用を勝ち取るために自分の恋心も利用した。


 「少し、考えさして欲しい…」そう言って、凛子は帰った。


 夜になり、父さんが帰ってきて事情知った。父さんなら本当の家族なら信じてくれるはず!


「しばらくお前の顔は見たくない」


 僕は家を飛び出した。

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