吸精鬼(ライフスティーラー)
二コラ神父。
西方の神の伝道師。冒険の傍ら、身寄りのないこども達に文字を教えている。癖のかかった金色の髪と甘いマスクの虜になったご婦人も多いと聞く。
身をかがめた俺の頭上で空を切る
赤黒く汚れた法衣に白目を剥いて硬直した表情。肌だけが薄ぼんやりとした光を放ち、薄暗い迷宮に白く浮かび上がっている。その姿に生前の面影をすでに失っていた。
緩慢な動きを避けることは造作もない。
立ち上がりざま、短剣で神父の右脇腹を抉ると、紫色の臓物がどろりと零れ出て、神父はたまらず膝をつき、そして倒れた。
倒れた肉体から薄ぼんやりした光が消え、ただの死体に戻る。
―
まずいな。と、俺は舌打ちをする。
この部屋には数体の死体が散乱している。俺は神父のいたパーティを再び思い出そうとした。
すると、部屋の入口で倒れていた大柄の死体にぼうっと淡い光が灯り、鎧の音をガシャガシャ鳴らしながら起き上がった。同時に俺の記憶の底から一つの名が蘇る。
巨人殺しのガランドル。
神父のパーティのリーダー。身の丈7尺を超える大男。一対一で巨人を組み伏せるほどの豪傑。恐ろしい二つ名に反し、本人はあけっぴろげで朗らかな人好きのする性格。酒場では何度も飲み交わした仲だ。
フルフェイスの兜に隠されて、人懐っこい顔は見えない。だが壊れた操り人形のような哀れな動きから、むしろ顔が見えなくてよかったと安堵する。
かつて巨人をも屠った巨体が、長剣を四方八方に振り回す。単純な動きだが、速い。ギリギリで避ける度、背中を冷たいものが流れる。俺の短剣では間合いに入ることすら叶わない。
打開策はないか…思案する俺に部屋の隅から何かの声が聞こえる。一旦、巨人殺しから身を引き、部屋の隅へ走る。1人の死体の下に真っ白い長剣が隠されていた。
まるで何かと共鳴するように、鈍い音を立てるその剣は、死にまみれた部屋にありながら血に汚れることもなく純血を保っている。これならいけるかもしれない。
俺は白い剣を手に取った。
初めて手にする剣なのに、以前から自分のものであったような懐かしさを感じる。俺の力が剣に伝わっていく。
一瞬剣に呆けていた俺に、巨人殺しの刃が振り下ろされた。しかし、不思議と焦りはない。
俺は剣に導かれるまま、両手を振り上げると、巨人殺しの両腕を切断し、返す刀で左肩から袈裟斬りに切り下ろした。熱したナイフでバターを斬るかのように鎧ごと巨体が両断される。
悪く思うなよ。
と、その時、体全体の力が抜ける。
少し疲れたか?思わず膝を付き、そのままうつ伏せに倒れてしまう。少しだけ眠ろう、と思い俺はゆっくりと瞼を閉じた。
静まり返った部屋で、指から離れない剣だけが淡くぼんやりと光を放っていた。
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