地竜(アースドラゴン)
この世界には四種類の竜がいる。
そして
この中で地竜は、生物として他の3種と大きく異なっているのだが、その理由がわかるだろうか?
他の三種は一生を竜として過ごすが、地竜はそうではない。
地竜は遥か昔、地上を統べたという竜人族の末裔なのだ。
悠久の時を生き、地竜に変化できる竜人族は、知識の上でも力の面でも地上の覇者であった。その栄華は人の想像が及ばないほど永きに渡っていたという。
しかし、あまりに長過ぎる寿命は彼等の最大の欠点でもあった。竜人は変化を好まず向上心や野心に乏しい。生殖能力も極めて低かった。
いつの頃からか現れた人類は、またたく間に繁殖し、火を得て、道具を発明し、国を創り、軍隊を組織し、竜人を殺して土地を奪った。
そうしてわずかに残った竜人族は、人が足を踏み入れることが困難な、砂漠の果てにある岩山の上の神殿に逃れ、静かに最期の時を待っているという。
しかし、一族の中には先細って消えるだけの慎ましい一生に反発する者もいた。人に虐げられた屈辱を抱えて永劫の時を生きれば、終わりなき怒りと憎悪で気が狂ってしまう。
彼等は心を失う前に自らの意思で不可逆に竜へと変化した。本能のまま獣として生きる道を選んだ彼等が人の姿に戻ることは二度とない。
これが地竜の成り立ちである。
大地を統べる地竜は、他の竜とは比較にならない超自然的な力を持つ。全てを包み込む母なる大地―この星―の力。
竜は大地の龍脈から吸収した生けとし生けるものの邪気を体内に溜め込み、放出する。闇の炎は、生物の身体を恐怖で強張らせたまま焼き尽くす。その禍々しい力から地竜は暗黒竜とも呼ばれ太古の時代から恐れられていた。
古の伝承では、かつて地竜の王が地上を支配しようとした時、地竜王と袂を分かった竜人族の長は人間の若き英雄と同盟を結び、英雄は長から託された神竜の牙で、地竜王を滅ぼしたという。
迷宮深層に棲む理性を失った地竜は、伝説ほどの力は持たぬものの、人が到底太刀打ちできるような存在でないことは確かだ。
獣になった哀れな地竜は、絶滅の運命を目前にした孤独で哭いている。人には聞こえないか細い声で。彼等の嘆きが聞こえる度、私は正気を失って発狂しそうになる。
もはや文字を書くのも困難になってきた。私も迷宮の奥で、けものとして、なかまトトモニ、サイゴ、ノ、トキ、ヲ
―手記はここで途切れている―
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