第10話 リア充専用イベント
「ふわあああ……よく寝た。あ、おはよう唯斗」
「おはよう、綾香」
「もう朝ごはん食べたの? 随分早起きだね」
「そんなことないよ。むしろ最近綾香は寝過ぎだと思う」
「え〜そうかな〜」
綾香は寝巻きを脱ぎ、俺が用意した服を着用する。すっかり見慣れた光景だ。
颯太に綾香について全て話し、神様がもといた世界に戻る方法を一緒に探して欲しいとお願いした日から、1ヶ月弱が経過した。
その日以来、颯太と再び仲良くなり、顔を合わせる度に話すようになったのは嬉しいことだ。しかし、肝心の綾香が元の世界に戻る方法については、全くと言っていいほど情報が得られなかった。
当の綾香は、そのことについて悲観してる様子はなく、「このまま唯斗とずっと一緒にいるのも悪くないかも」と冗談半分で言うことも多い。そう言われるのは悪い気はしないが、だからといって何もしないわけにはいかない。出来る範囲で情報を収集しているものの、全く成果は上がらなかった。
この1ヶ月弱の間は、目立った出来事は起きなかった。今まで通り俺は大学に行き、バイトに行き、その間綾香は家にいる。どうしても寂しさが爆発した時だけ、一緒に大学に行く。この生活リズムは変わらなかった。
特筆すべき事案としては、綾香のデレが増大したことだろうか。何が引き金になったのか分からないが、とにかくデレを見せることが増えた。事あるごとに抱きついてきたり、甘えてきたりする。
断ろうとすると綾香は泣きそうな表情を浮かべるため、断ることは出来なかった。もはやツンデレではなくただのデレデレだと思ったが、綾香ほどのかわいい女子、いや神様と触れ合えるのは決して悪い気はしなかった。
「ねえねえ唯斗、聞きたいことがあるんだけど」
「何?」
「このカレンダーに書いてある、クリスマスイブって何なの? 明日、12月24日は何か特別な日なの?」
綾香は壁にかかっているカレンダーを指差しながら言った。
「クリスマスイブっていうのは特別な日だよ。イエス・キリストの誕生を祝う日が12月25日のクリスマスで、その前日だからクリスマスイブ」
「ふーん。特別な日ってことは、何か特別なことをしたりするの?」
「そうだね。家族で豪華な料理を食べたりするけど……なんていうかな、リア充専用イベントって感じだよ。この世のあらゆるカップルが、クリスマスイブにデートをして、イチャイチャするんだよ」
「リア充専用イベント? 何それ? そもそもリア充って何?」
綾香は首を傾げる。
「リア充っていうのは、リアルが充実の略で、うーんと、恋愛とか人間関係、趣味が充実してる人のことだね。クリスマスイブはカップルのためのイベントと言っても過言じゃないから、リア充専用イベントって感じ」
「カップルのためのイベント? 別にカップルじゃなくても楽しめばいいじゃん」
「うーん、仰る通りなんだけど、なかなかそういうわけにはいかなくてね。クリスマスに1人で寂しく過ごすことを、クリぼっち、って自虐的に言うことも多いんだよ。まあ、非リアにはなかなか辛い日と言えるね。あ、非リアっていうのは、非リア充、リア充に非ずって意味」
綾香は首を捻っている。納得いってない様子だ。
「よく分からないよ。別に1人でもいいじゃん。何で自虐するの?」
「まあそうなんだけど、うーん、何て言えばいいのかな」
「人間って変なこと考えるんだね。それで、まさか唯斗は、自分はクリぼっち、寂しい、悲しいとか思ってたりするわけ?」
綾香がじっと俺を見つめて言う。
「まあ、思ってないって言ったら嘘になるね。クリスマスイブに、恋人と幸せに過ごせる人は羨ましいと思ってるよ。彼女がいる颯太は、きっとデートをするだろうし」
「ふーん。じゃあさ、私が唯斗の彼女になろうか?」
「へ?」
ワタシガユイトノカノジョニナロウカ?
今し方綾香が発した言葉が脳内でリフレインされる。聞き間違いじゃない。心臓の鼓動が高鳴り、頬が熱くなり、体温が上昇していく。
何とはなしに発した言葉だったのだろうが、俺の様子を見て自分の発言の重大さを自覚したのか、「べ、べ、べ、別に深い意味はないから!」と綾香は叫んだ。頬が赤く染まっている。
「これは、あの、えっと、その、普段めちゃくちゃお世話になってる唯斗に恩返しが出来たらというか、唯斗が羨ましいと思っていることを叶えてあげたいというか、そう思ってるだけだから! 超絶優しい私が、唯斗のために言ってるだけだから! 特に深い意味はないから! 勘違いしないでよね!」
「…………」
「そ、そう! クリスマスの間だけ! クリスマスの間だけ、唯斗の彼女になって、唯斗にいい思いをしてもらいたいなぁって思ってるだけだから! 勘違いしないでよね!」
「…………」
「ちょ、ちょっと! 黙らないでよ! 黙るのは卑怯だよ! なんとか言ってよ!」
ぷりぷりと怒る綾香に、「ごめんごめん」と俺は両手を合わせて謝った。
「めちゃくちゃ嬉しくて、言葉が出てこなかった。クリスマスの間とはいえ、綾香が彼女になってくれるのは、本当に嬉しいよ」
「ほんとに? 嬉しいの?」
「当たり前じゃん」
「そっか、よかった……じゃあ、クリスマスデート、しよっか!」
「うん。明後日のクリスマスの日はバイトがあるから、明日、クリスマスイブにデートしよう」
「わーい! デート! デート!」
綾香はぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいる。俺は高鳴る胸をそっと手で抑えた。
まさか、綾香とクリスマスデートが出来るなんて。リア充専用イベントと忌み嫌っていたクリスマスを、まさか自分が楽しめる立場になるなんて。
綾香と一緒に遊びに行けたら、と思ってなかったと言えば嘘になる。しかし、綾香は神様だし、美貌と猫耳を隠すために常にマスク、サングラス、帽子を着用させながら遊ぶのは忍びなかったので、本気で遊びに行けるなんて思ってなかった。
綾香の方から誘ってくれたなんて。嬉しい。本当に嬉しい。天にも昇るような気持ちだ。
「大丈夫? なんかぼーっとしてるけど」
「う、うん、大丈夫だよ。あまりにも嬉しくて、ちょっとぼーっとしちゃった」
「そんなに嬉しいんだ。なんか、こっちも嬉しいな。それで、初めてのデート、どこに行く?」
綾香はきらきらと目を輝かせている。俺は腕を組み、考えを巡らせた。
どうしよう。まさかこんなことになると思ってなかったので、何も考えていない。
「綾香、どこか行きたいところはある?」
「人間の世界のことはよく分からないから、唯斗に任せるよ。唯斗が行きたいところなら、私も楽しめると思うから」
予想通りの答えが返ってくる。デートプランは男が決めるんだぞ、しっかりしろ、という颯太の声が聞こえた気がした。
さて、どうするか。恋愛の先輩である颯太に相談することも考えたが、デートは明日とかなり差し迫っているし、折角の綾香とのデートプランくらい自分で決めたかった。
「綾香、ちょっと待ってて。どこに行くか、調べながら考えるから」
「うん!」
俺はスマホを取り出し、クリスマスイブ、デート、という単語で検索をかけた。瞬時に膨大な情報がヒットする。
「やっぱりイルミネーションが定番か。じゃあ、取り敢えずイルミネーションは見ようか」
「イルミネーションって何? わ〜、綺麗!」
綾香はスマホを覗き込み、イルミネーションの画像を見て嬉しそうに声を上げた。
「イルミネーションは、まあこんな感じ。光を楽しむ催し物って言えばいいかな。すごく綺麗だよ。興味持ってくれた?」
「うん! イルミネーション見たい!」
「じゃあ、綺麗なイルミネーションが見れる場所を探してみようか」
調べると、最寄駅から10駅ほど移動した駅の近くにある、遊園地に隣接する巨大な商業施設で、大規模なイルミネーションのイベントが行われることが分かった。その商業施設内には、映画館やゲームセンター、無数の飲食店や様々なお店があり、さらに遊園地が隣接しているため、丸一日いても楽しめそうだった。
「綾香、最寄駅から数駅移動した駅の近くにある、この場所に行こう。ここでは色々なことが出来るから、きっと丸一日楽しめると思う」
「え、丸一日ってことは、朝から晩までずっとデート出来るってこと? やった〜! 嬉しい!」
綾香は頬を緩めた。釣られて俺も笑った。なんだか、幸せな気持ちになった。
恋愛初心者なりに、綾香と相談しながらデートプランを立て、そしていつもより早めに家を出てアルバイトに向かった。
アルバイトをしている途中、俺の頭の中は明日のデートのことで頭がいっぱいだった。まさか、綾香とデートに行けるなんて。考えただけでも心が躍る。
あっという間にアルバイトは終わり、帰宅して風呂に入り、夕食をとってベッドに体を横たえた。
「唯斗。私、明日のデートすっごく楽しみ。デートって行為にずっと憧れてたんだよね。忘れられない思い出にしよ」
背中越しに綾香の声が聞こえる。綾香と一緒のベッドで寝るようになってかなり経つが、さすがに見つめ合うようにして寝ることは出来ていない。それはちょっと、心臓に悪すぎると思うから。
「俺も楽しみだよ。頑張って綾香のこと、リードするから」
「そんなに肩に力入れなくていいよ。唯斗が私をリードして、私も唯斗をリードすればいいじゃん。お互いにリードし合えば、Win-Winだよ」
「そうだね。じゃあ、おやすみ。また明日」
「うん、おやすみ。また明日」
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