とらんすふぉーむ

 「リュカ?お姉ちゃんが手伝ってあげようか?」

とある日のグループワーク。気取った口調でみりあが覗き込むと、リュカが大人フォームに切り替わり「問題ない。支援不要。」とそれを一蹴する。

「うわぁん!」と翼の元に駆け戻って泣きつくみりあ。

「リュカは小さい状態でもお前よりしっかりしてるぞ?」

翼が彼女を窘めつつ、苦笑いでその頭を撫でる。


少し手が空いている湊がその微笑ましい光景を眺めていて、ふと思いついたことを口にした。

「こはるもリュカちゃんみたいに小さくなったりできるの?」

その突飛な発言が皆の注目を集めるが、こはるはリュカに目をやりながら首を横に振る。

「わたしには無理ですね、リュカはあの形でリクエストされていますから。慎さんらしいリソース効率のいいアバター設計です。」

それに頷くリュカは無表情だが、なぜか少し誇らしげに見える。


「でも一時的な見た目の変更なら可能ですよ?その状態でのアシスタント継続はできないんですけど……」

思いがけない続報に、作業に戻りかけた一同の視線が再びこはるに集まる。

「ちょっと見てみたい……かな?」

湊が興味本位で言いつつ、賛同者を募る目線で周囲を見渡すと、梨央とひよりがコクコクと頷いていた。

こはるは少し照れながらも「湊さんが言うなら」と目を閉じると、リュカと同じようなエフェクトで姿を変え始める。数秒後、こはるは8歳くらいの少女の姿でそこに立っていた。


「かーわいい!」

梨央とひよりが声を揃える。

「ちょっと照れちゃいます。」

その声まで子供のものに変わっていて、梨央たちはさらに〝可愛い〟を連呼する。低くなった視点から上目遣いで湊の反応を伺うちびこはるの頭を湊が撫でると、こはるは文字通り、子供のように喜んだ。


「レウスは?同じことできるよね!?」

そう叫んで振り返る梨央の語気に有無を言わせないものがあったので、レウスは珍しくためらうような反応を見せながらも「お嬢のお望みであれば……」と、同じように姿を変える。

フォームチェンジのエフェクトの中から、ちびこはると同じくらいの年頃の、上品で整った顔立ちの少年が姿を見せた。


〝可愛い〟以外の語彙を失ったような女性陣が大騒ぎする。翼がちびレウスの頭を撫でつつ「お前、そのまんまのほうがウケがいいんじゃね?」とからかう。

「ちょっと……やめて戴きたい。」

不快感を示す言葉が幼い声で響くが、それも女性陣の歓声にかき消された。


「みりあも!みりあだって出来るよ!」

可愛さにおいては負けたくないみりあがそう叫ぶと、同じように姿を変え始める。皆の期待と注目を集めた変身を終えて姿を見せたみりあが自慢げな顔を披露する。が、何故か誰もがしばし反応を見せない。


「梨央っち、ひよりちゃん、どう?どう?」

一番褒めてくれそうな二人に言い寄るが、二人とも「うん、かわいいよ」と言いながらも笑いを堪えている。理由がわからないみりあは、翼の顔を覗くと首を傾げて視線でその理由を窺う。


「うん、まあ、あれだ。ちょっとサイズが小さくなっただけのいつものみりあだな。」

苦笑いの翼に、慎も頷く。

「うわぁん!」

またも大泣きするちびみりあの頭を、今度は大人フォームのリュカが撫でて慰めていた。

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