第32話『光冠のリュオス=アマル』

光柱が突き刺さった瞬間、世界が一度だけ無音になった。


風が止まり、影も止まる。

鼓動でさえ乱れる。


その中心に──


白金の光が“形”を帯びていく。


ガルザスが目を細めた。


「この感じ……」


ライゼルが息を呑む。


「嘘だろ……マジかよ」


影の奥で、神将級五体がわずかに膝を折った。

忠誠でも、恐怖でもない。

ただ“格”の差を前にした本能だった。


光が収束し、ゆるやかに立ち上がる“ひとつの影”。


ただ光そのものをまとった、“冠”を思わせる輝き。


金でも銀でもない、太陽の色。


男が静かに空を見る。


その声は、穏やかで、古く、美しかった。


「……よくも、我が星の神気を吸う。」


ネヴラの動きがわずかに止まる。


男は続けた。

わずかに眉をひそめながら。


「ぬし、ここがどこかわかっておるのか?」


その言葉は怒号ではない。


静かで、淡々としているのに──


大気が一段震える。


ルナリアが息を飲む。


「あれが…」


リュミエルが震える声で囁いた。


「太陽の神子……光冠こうかんのリュオス=アマル!」


光の男──


リュオスはゆるく首を傾けた。


「乱暴は好まぬが……星を汚す者は、見過ごせぬ。」


ネヴラが外套を揺らし、言葉の代わりに黒い神気を逆流させる。


大地がたわみ、空気が裂けた。


だがリュオスは一歩、前に出ただけだった。


その一歩で──


黒い神気は霧散した。


まるで触れもしないうちに、存在が否定されたかのように。


ライゼルがかすれ声で呟く。


「なんだよこの化け物みてぇな強さ……」


リュミエルが震える。


「“格”が違いすぎる!」


リュオスは彼らに目も向けず、ただ静かにネヴラを見つめていた。


「ぬし、よほど空腹らしいな。だが──他所でやれ。」


その声は柔らかい。

しかし拒絶は絶対だった。


ネヴラが外套を広げた瞬間──


光が弾けた。


一切の予備動作もない。

ただ瞬きするより早く、ネヴラの外套の端が燃え落ちる。


初めてだった。

これまで一度も乱れなかった気配が、ほんの一瞬だけ揺らぐ。


ネヴラが目を細め、低く呟く。


「……貴様、何者だ。」


同時に──


周囲の大地が軋む。

ネヴラが再び神気を収束させ、全力の一撃へ向けて体勢を整えた。


その動きをリュオスはただ静かに見つめていた。


風がひとつ揺れる。


リュオスはゆっくりと右手を上げ、柔らかな声で言った。


「よい。引かぬというなら少しばかり遊んでやろう。」


ネヴラの外套が大きく翻る。


次の瞬間──


戦場の空気が一斉に震えた。

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