第1話『神子たちの黎明』

世界が静かに目覚める朝。


天を走る風が、まるで歌うように森を揺らし、光が大地に降り注いだ。


その光を浴びて、神子しんしたちが姿を見せる。


「今日も訓練日和だな」


最初に現れたのは、


大地を司る巨躯の神子──ガルザス。


山のような体からは柔らかな神気が溢れ、足下の地面がほのかに脈動している。


「朝から張り切りすぎだよ、ガルザス。こっちはまだ眠いってのに」


空からふわりと降りてきたのは、


風と雷をその血に宿す俊英──ライゼル。


その身にまとった神気は、気紛れな雷光のように揺れていた。


彼の着地に合わせて、空気が軽く震える。


「あなたたち、本当に毎朝そうやって騒がないと気がすまないの?」


白い衣をそよがせながら歩いてきたのは


生命の流れを司る──リュミエル。


穏やかな微笑みを浮かべ、二人をやんわりと見上げる。


その後ろで、


「むしろ騒いでもらった方が観測がしやすい」


と静かに言葉を落としたのは


秩序の神子──セリオス。


繊細な神気が常に周囲の“均衡”を保っており、歩くだけで空気が整うような錯覚を与えた。


四人が並べば、それだけで壮観だった。


彼らはまだ若く、完成しきっていない。


だが、この時点で既に人間はもちろん、多くの神獣でさえ震えてひれ伏すほどの力を備えていた。


「ガルザス兄さん、今日は対抗戦だから……手加減してね」


おどおどと声をかけたのは、


月光のような静けさをまとった少女──ルナリア。


控えめに立つ彼女の足元には、影がゆらりと揺れた。


「手加減……する。多分」


ガルザスの曖昧な返事に、ライゼルが笑い転げる。


「する気ないだろ!」


「……まあ、怪我したら私が治すから」


リュミエルが溜息まじりに言うと、セリオスは額を押さえた。


「あなたたち、せめて試合開始前から秩序を乱すのはやめてほしい」


「おいセリオス、その口ぶり、まるで“保護者”みたいだぞ」


「私は事実を言っているだけだ」


笑いと軽口が響く平和な朝だった。

この時点では、誰も疑わなかった。

この日常がずっと続くと。


……だが、


風が不意に揺らぐ。


ライゼルの表情がわずかに硬くなる。


「今、空……震えなかったか?」


「気のせいだろう」


ガルザスが肩をすくめる。


しかしセリオスは眉を寄せ、周囲の神気を観測した。


「……わずかだが、確かに“ひずみ”がある。昨日よりも強い」


「昨日も?」


リュミエルが目を丸くする。


セリオスは頷いた。


「空の奥で、妙な揺らぎが続いている。今はまだ微弱だが……放置するには、少し気味が悪い」


影のような不安が落ちていく。


ルナリアがそっと空を見上げると、まるで星が一つだけ瞬きの仕方を変えたように見えた。

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