「普通」じゃない私たちは歌をうたう
花咲 千代
ランキング
――いい?アイドルなんだから、いつも笑ってなきゃなんだよ?
どれだけ鏡の前にたっても、最近は上手く笑えない。
「なーにへこんでんだよ」
後ろからいきなり降ってきた声に、思わず肩がびくりと震えた。
「……なんだ、ガーベラか」
「じゃなかったら誰だよ」
私立星街学園高等部芸能科の一年A組。
右を見ても左を見ても芸能人ばかりのクラスは、全員揃うことすら珍しいほどの売れっ子の集まり。
かくいう私、
「何見てんの?」
クラスメイトの
事務所が同じな訳でもないのに、暇だと私のところにやってくるんだから、鬱陶しい。
背も高いから圧もある。
「勝手にスマホ覗かないでよ」
「まだ見てないっての」
ガーベラは、今波に乗っているロックバンド、「スターキラー」のメインボーカルだ。
クラスでも意外と少ない金髪(しかも地毛)で、堂々としたスター気質。
派手なピアスまでしてくるんだから、正直気に触る。
「お、MV再生回数のランキング!しょっちゅう見てんね」
「そーよ、なんか悪い?」
「別に?」
一人だけムキになっているのが馬鹿みたい。
ガーベラは、綺麗な金色の髪の毛を耳にかけて、勝手に私のスマホをスクロールする。
日に当たると光る髪も、ライブの照明を反射する目も、ギラギラのネイルも。
「いいな……」
かっこいい、と思ってしまう。
きっと、ずっと堂々として生きてきたからこのスター性なんだな、と。
「何がいいって?うちのバンドが日向のグループよりランキング高いこと?」
「……は?」
初耳の新情報に、慌ててスマホの画面に目を戻す。
「Pop Love、Pop Love……」
Pop Loveというのは、私がセンターを務めるアイドルグループのことだ。
デビュー前から人気は絶好調。
「うわ、十二回差」
ランキングには、二十二位にスターキラー、二十三位にPop Loveがランクインしていた。
「こないだは五位だったのに〜」
なんなら、デビュー曲の「高嶺の
一日だけだけど。
「まぁ、いいんじゃねぇの?音楽番組のオファーも来たって聞いたけど?」
「そういうことじゃないんだってば」
そういうことじゃない。
別に、ずっと一番がいいって訳ではないけれど。
いや、もしかしたらそうなのかも。
人が真剣に悩んでるってのに、ガーベラは「いつか同率とかなってみたいな」なんて呑気なことを言っている。
「で、そういうことじゃないって?」
「――わかんない」
「んだよ、それ」
ガーベラはクスリと笑う。
歌ってる時の、ガナリの効いた強い声とは大違いだ。
そういえば、私は意外とガーベラについて知らなかったりする。
このクラスはみんな芸名だから、本名なのかすらわからない。
「で、何へこんでたわけ?」
ガーベラはコテンと首を傾げる。
その度に、綺麗な金色の髪の毛がサラリと流れていく。
「なんか、納得いってなくて」
「何に?」
「それは――――」
私がなりたかったのは、これじゃないから。
ガタリ、と大きな音がした。
驚いて、開きかけた口を閉じる。
クラスの面子も、音のした方に視線を向けた。
「……誰だっけ、あの子」
一人、クラス中の視線を集めて立っているのは、長い前髪で目元を隠した女子。
いつもクラスの隅で、本を読んでいる子だ。
声も、ほとんど聞いたことがない。
「確か、ゲーム実況やってるVtuberかなんかの……」
そうこう言っているうちに、彼女はこちらに歩いてくる。
何かした覚えはないのだけれど。
「思い出した、
彼女――沙羅は、タン、と足音を立てて私の前で止まる。
ふわりと揺れた髪の隙間から、蛍光灯を反射する大きな瞳が見えた。
「葵井さん、これ知ってる?」
「――へ?」
沙羅が差し出してきたスマホには、公開されたばかりのネットニュースが載っている。
見出しは、『Pop Loveメンバー二人にパパ活疑惑か⁉︎音楽番組はオファー取り下げ!』
その瞬間、私のスマホはブーとうるさいくらいに電話を告げた。
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