第26話 「50万円とデート大作戦」

 夕日が差し込むテラスでルナは、テーブルの上にドサリと封筒を置いた。中身は、先日の『誘拐無銭』討伐報酬の残り、50万円。

「このお金で、必ずや山本様の心を掴みますわ!」

 執事兼任のマスコット・アルフレッドが器用に紅茶を注ぐ。

 ルナは鼻息荒くスマホを取り出した。以前、ストーキング中に盗み見た山本のアドレスに、震える指でメッセージを打ち込む。

『山本様。貴殿の専門知識をお借りしたい件がございます。謝礼は弾みますわ。場所は駅前のゲームセンターですの!』


***


 駅前のゲームセンター。UFOキャッチャーの前で、山本はキョロキョロしていた。

「あ、……ルナさん?」

「お、お待ちしておりましたわ!山本様!」

(あー!やまもとさまぁぁぁ……お慕い申しております……)

「専門知識って、何ですか?」

「こ、これですわ!」

 ルナが指差したのは、最新のプリクラ機。

「こ、この……『プリント倶楽部』なるものの攻略法を、ご教授願いたいのです!もちろん、これは調査依頼!報酬として、この50万円の中から好きなだけ……」

「ああ、プリクラですね!最近のは補正機能がすごいんですよ」

 山本は金の話をスルーして、目を輝かせた。

「被写界深度の調整やライティング、まさに光学技術の結晶です。やりましょう!」

「えっ、あ、はい!」

(ちょろいですわ山本様!)

 二人は狭い撮影ブースに入った。

「いいですか、ポーズはこうです!『ギャルピース』!」

「ぎゃ、ギャル……ピース……?」

 ルナはお嬢様学校育ち。そんな下世話な(?)ポーズは知らない。

「指をこうして……あ……」
(ち、近いですわ山本様!!)

「動かないでください!フレームから外れます!」

 カシャッ。

 出来上がったシールには、満面の笑みの山本と、緊張で白目を剥いているルナが写っていた。

「……失敗ですわ」

(さ、流石に酷いですわ…)

「いえ!これはこれで味がありますね!記念に半分こしましょう」

 山本がハサミでシールを切り分ける。

「は、半分こ……」

(きゃぁぁぁ!!共同財産……!それって結婚を前提にしているってことでよろしいのかしら……!?)

 ルナはシールを胸に抱きしめ、卒倒しそうになった。

「次はあれにしましょう!クレーンゲーム!」

 山本が指差した筐体の中には、可愛いぬいぐるみが入っていた。

「可愛い……!」

「取りましょう!研究材料として!」

 山本が華麗な手さばきでアームを操作する。しかし、ぬいぐるみの重心が悪く、あと一歩で落ちない。

「くっ……物理演算がシビアだ……!」

「わ、わたくしにも貸してくださいまし!」

 ルナが割って入る。

「わたくしの『愛の力』で……!」

 硬貨を投入口に入れた。……つもりだったが、緊張のあまり、勢い余って筐体を揺らしてしまった。

 ガコンッ!

 衝撃で、ぬいぐるみが穴に落ちた。

『ウィーン……不正な振動を検知しました。係員をお呼びください』

 無慈悲なエラー音が鳴り響く。

「あ」

「あーあ……」

 店員が飛んでくる。

「お客さん、揺らしましたね?」

「ち、違いますの!愛の力が溢れすぎて……!」

 結局、ルナは店員に平謝りし、山本は苦笑いでそれを見ていた。

「き、気を取り直して、次はあれですわ!リズムゲーム!」

 ルナは名誉挽回とばかりに、太鼓を叩くゲームを指差した。

「音楽ならば、ピアノにヴァイオリンと嗜んでおりますわ!お任せください!」

「おっ、いいですね!セッションしましょう!」

 意気揚々とバチを握るルナ。曲が始まると、彼女はまるでオーケストラの指揮者のように、優雅に、そして緩やかにバチを振るった。

「そーれ、優雅に……美しく……」

『不可』『不可』『不可』……『失敗』。

「はぁ、はぁ……。ど、どうですの?わたくしの魂の演奏は……」息を切らして振り返るルナ。画面には無情な『GAMEOVER』の文字。

(これは、どういうことですの?)

「いやー、すごいですルナさん!」

 山本が爽やかに笑う。

「譜面を完全無視したフリースタイル!斬新でした!面白いなぁ!」

「お、面白い……?」


***


 夕暮れの公園。二人はベンチに座っていた。

「すみません……山本様」

(かっこいいところをお見せするつもりが……)

 ルナは肩を落としていた。50万円を使うどころか、数百円使って、ただ恥をかいただけだ。

「いえ、楽しかったですよ」

 山本はプリクラシールをスマホの裏に貼りながら笑った。

「ルナさんって、堅苦しい人だと思っていましたが、意外と面白い人なんですね!」

「お、面白い……?」

「また誘ってください。あ、でもお金はいりませんからね。もう友達なんですから」

 山本はそう言って、手を振って帰っていった。

「と、ともだち……」

(面白い友達……)

 ルナはその場に立ち尽くした。山本が見えなくなると、彼女はその場にガックリと膝をついた。

「ルナ様、元気出してください。山本様なりの賛辞ですよ、たぶん」

 ルナは芝生に突っ伏して、足をバタバタさせた。

「なんでこーなるのですのーっ!!」

 ルナの絶叫が、公園のハトを一斉に飛び立たせた。50万円の入った封筒が夕風に吹かれて虚しく揺れていた。

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