花でしか喋れない彼女
狂う!
第零章:花言葉は、嘘をつかない
花は、言葉を持たない。
それでも人は、花に想いを託してきた。
嬉しいとき、悲しいとき、
愛しい人に何かを伝えたいとき……声にできない想いを、花に乗せて。
古来、国や文化を越えて花言葉は育まれてきた。
ある国では「バラ」が誇りを意味し、
別の場所では献身や激しい愛を指すこともある。
たとえば、カスミソウ。
その小さな花に込められたのは、「清らかな心」や「永遠の愛」。
見た目とは裏腹に、想いはどこまでも深く、しつこく、消えない。
だからこそ……花言葉は、ときに呪いにもなる。
想いを花に託した者が、どんな心を抱いていたのか。
それを知る術は、花言葉しかない。
そして、花は決して、嘘をつかない。
~~~
俺が最初に彼女を意識したのは……正直、覚えていない。
気づいたときには、視界の片隅にいつもいたからだ。
名前は、柚花(ゆずか)。
クラスメイト。隣の席。無口。目が合うとキョドる。
でも不思議と印象に残る。……というか、目が離せないというか。
それなのに、話しかけるとあからさまに固まって、俯いて、
「……ぅ、……ん」
みたいな声を出す。聞こえるような、聞こえないような。
顔は整ってて、ちょっと赤みのある茶髪を三つ編みにしてる。
地味っていうわけじゃないけど、目立つタイプでもない。
でも、席を立つときもノートを取るときも、なんか、動きが丁寧なんだよな。
……なんというか。
距離をとろうとしてるようで、近くにいたがってる感じ。
俺と柚花は、別に友達ってわけじゃない。
会話も、あってないようなもんだ。
でも、隣に座って半年。
ちょっとした沈黙に慣れてしまったせいか、
彼女の言葉にならない何かを、なんとなく感じ取ることが増えた。
たとえば、
俺が誰かと喋ってたら、背後からの視線が妙に熱いとか。
前の席の女子にプリントを渡しただけで、翌日なぜか俺の机に落書きがされてたとか。
……偶然だと思いたい。でも、気づくと視線の先にはいつも、柚花がいた。
まあ、考えすぎかもしれない。
あいつはただ、静かな子なだけで……
そのときの俺は、本気でそう思ってた。
まだ、花が置かれはじめる前のことだった。
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