師範の強権と資格剥奪
ルーク師範の強権発動
ゴールドランク昇格の緊張感が高まる訓練場で、ヒカリたちが挑戦を待つ中、ルーク師範はいつもの豪快さとは打って変わって、厳格な表情で前に立ちました。彼は、集まったシルバーランカーたちを一瞥した後、フードを深く被り隅に立っているナイトローグに視線を固定しました。
「諸君、静粛に願う」
ルーク師範は、厳かな声で場を支配しました。
「本日、この場でゴールドランクへの昇格資格を得る者がいる。だが、デュエルを行う必要はない」
その言葉に、ヒカリたちがざわつき始めます。ルーク師範は、周囲のどよめきを無視し、ナイトローグへと指を向けました。
「そこのナイトローグ。貴様は、本日をもってゴールドランクへの昇格を認める」
呆気に取られた昇格者
訓練場全体が一瞬にして静まり返りました。挑戦を覚悟していたナイトローグ自身も、内心では大いに呆気に取られていました。
(何だと?こんな簡単に、ルールを重んじる奴等の考えを乗り越えられるだと?)
ナイトローグは、自らの意思に反して与えられた称号に、不快感を覚えつつも、武器購入という目的が達成されることには、皮肉な安堵を覚えました。彼は何も言わず、ルーク師範の決定を静かに受け入れました。
挑戦者たちの激しい抗議
しかし、この一方的な宣告は、資格を得るために集まっていた他の精鋭たちのプライドを激しく傷つけました。
最初に声を荒げたのは、アサクラ・ヒカリでした。
「待ってください、ルーク師範!ふざけないでください!」
ヒカリは怒りを露わにし、前に詰め寄ります。
「ゴールドランク昇格は、命懸けのサシの対決でしか認められない、ギルドの鉄の掟じゃないんすか!俺達が命懸けで挑もうとしてるのに、なぜ、あいつだけが何の試練もなしに認められるんすか!」
タマキもヒカリの隣に立ち、激しく抗議します。
「そうや!ルールを破ったらアカンやろ!アンタが言ってた『公平性』はどうなるんや!ウチらはアイツに勝ったわけでも、負けたわけでもない!」
メリッサは、悔しさと怒りから、展開しかけた魔法陣を暴発させそうになりながら叫びます。
「ずるいですよ!だったら、私も爆撃で資格を証明するから、ゴールドにして下さいよ!」
客席で見ていたジョシュアも、顔こそ平静を保っていましたが、その瞳には強い疑問の色が浮かんでいました。
師範の絶対的な宣言
ルーク師範は、ヒカリたちの真っ当な抗議に対して、一切の感情を見せず、ただギルドマスターとしての権威を前面に押し出しました。
「黙れ!」
師範の威圧的な声が、抗議の声を一瞬でかき消します。
「この決定は、特例中の特例だ。ナイトローグは、この数日間で、ギルドの最高機密に関わる領域において、ゴールドランク上位の実力者が担うべき役割を果たし、それを超える絶対的な実力を既に証明した」
ルーク師範は、シャドウパラディン捕獲という機密事項に触れることなく、その事実だけを盾にしました。
「よって、彼の実力は既にゴールドランク上位に匹敵すると認められた。これ以上のデュエルは、時間の浪費であり、挑戦者側の命を危険に晒す行為と判断する」
ルーク師範は、ナイトローグをチラリと見て、決定を締めくくりました。
「異論は認めない。 ナイトローグ、貴様はギルド本部で正式な登録を済ませろ。お前たちは、次なる挑戦者が現れるまで、訓練を続けろ!」
ナイトローグは、周囲の挑戦者たちの敵意と嫉妬の視線を浴びながらも、ルーク師範の強権によって得た資格を携え、静かに訓練場を後にするのでした。彼の目的は、これで達成されたのです。
割り切れない感情
ルーク師範の決定は、ギルドの最高機密であるシャドウパラディン捕獲作戦の結果に基づいていることは、聡明なヒカリにも理解できました。ナイトローグの功績と実力が、ギルドのルールを超越するものであったという判断は、最も合理的で妥当なものだと頭では分かっていました。
(理屈じゃ、ルーク師範の判断は正しいんすよ。あの男は、ギルドの常識とは別の次元の存在だし、ゴールドランクの地位が、彼の目的達成の道具として必要だっただけだ)
しかし、ヒカリの「師範たちに認められ、正々堂々たる実力で昇格する」という強い思いと、ナイトローグに「利用された」という悔しさが、その理屈に心が追いつくことを許しませんでした。
「……納得できるわけがないっす」
ヒカリは、ルーク師範の前に一歩進み出ました。
「ルーク師範。特例は認めますが、俺は、このまま引き下がるわけにはいかない」
その声は、先ほどの抗議の時よりも遥かに静かで、そして重いものでした。タマキやメリッサが驚いてヒカリを見つめます。
「俺に、ゴールドランク上位とのサシの対決の機会を与えてください。ルール通りに、俺が勝利すれば昇格し、負ければ次の機会を待ちます」
ルーク師範は、腕を組み、静かにヒカリを見つめました。
「……まだ言うか。お前がここで勝っても、昇格枠は一つだ。ナイトローグで埋まったぞ」
「それでもいいっす。俺は、己の力が、そのゴールドランクに相応しいのか、この場で証明したい。そうでなければ、あいつが持っていった『資格』が、ただの『恩赦』で終わってしまう」
ヒカリの強い意志を受け止め、ルーク師範は深く息を吐きました。
「そうか。お前のその『意地』は、確かに認めるべきものだな」
エリス師範代の登場
ルーク師範は、客席に座っているジョシュアとエリアに目配せした後、一人の人物に声をかけました。
「エリス師範代。済まないが、引き受けてくれるか」
その言葉で、訓練場の一角に立っていた、優雅で神秘的な雰囲気を纏うエリス師範代が、ゆっくりと前に進み出ました。彼女はリーネ師範代と同じく指導者の立場でしたが、その実力は、現行のゴールドランカーたちとは比較にならないと噂されていました。
エリス師範代は、ヒカリを見て微笑みました。
「ええ、喜んで。あなたの『異質性』、私もこの目で見てみたいと思っていたわ、ヒカリ」
その場に居た全員が、息を飲みました。ゴールドランクの挑戦を受けるべき相手が、指導者であるエリス師範代だったからです。
ルーク師範は、ヒカリに向かって、重い事実を告げました。
「ヒカリ。この場で、お前の対戦相手となるエリス師範代は、ゴールドランクではない」
ルーク師範は、その場にいる全員に聞こえるように、はっきりと宣言しました。
「彼女は、マスターランクだ。ゴールドランクの上の上を行く、このギルドで最も危険な最強ランカーの位置にある存在だ」
師範からの最後の忠告
ルーク師範は、ヒカリの肩を掴み、その瞳に強い光を灯しました。
「よく聞け、ヒカリ。お前が持つ『平和の重荷』の力、そして『居合斬り』で発現するその『無から有を生み出すような能力』は、通常のゴールドランカーでは測れない。下手な相手と戦わせれば、お前の力が暴走するか、相手の命を奪いかねん」
ルーク師範の言葉には、ヒカリの力が持つ危険性と規格外性が込められていました。
「お前の力は、この世界ではそれだけ異質だと言うことを、このエリス師範代との戦いで明確に理解しておけ」
ヒカリは、マスターランカーであるエリス師範代を前にして、初めて自分の力が、ギルドのルールやランクシステムを逸脱した存在であることを痛感しました。
「……分かったっす。命懸けで、その異質さを理解させてもらいます」
ヒカリの瞳に、迷いは消え、ただマスターランクに挑む者としての、純粋な闘志だけが宿ったのでした。
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