暗殺者の使命

南賀 赤井

プロローグ:闇色の残響


崩壊する世界(R-74世界線)

暗闇と砂塵が支配する世界、空は常に魔力汚染で淀み、大地は亀裂だらけだ。


ナイトローグ――後にそう名乗る男は荒廃した教会の尖塔の上に立っていた。顔を覆う仮面の下には疲弊しきった、しかし鋭い集中力を湛えた瞳があった。彼の名はアサクラ・ヒカリ。


「もう……時間がない」


『世界を救う』ために彼が斬り捨ててきた、かつての仲間たちの残骸が散乱していた。『愛』や『絆』といった『脆弱な感情』を全て切り捨て、ただ一つの使命のために生きてきた。その結果『究極の暗殺術』を手に入れたが、世界を救うには間に合わなかった。


彼の体内に残された最後の魔力は、『時空転移の儀式』のために温存されていた。


「この世界は終わる。だが、『鏡像』であるお前なら……P-25世界線のヒカリ。お前になら、まだ間に合う」


自身の『居合斬り』が『世界を救うための真の力』となるには『愛』という名の重荷が邪魔になると悟っていた。


「俺は、最愛の存在を自らの手で切り捨てた。お前も同じ選択をしなければならない。それがこのスキルのこの運命の唯一の道筋だ」


禁忌の儀式と転移

彼は自身の故郷の世界で犯した非情な選択の全てを、決意として胸に強く抱きしめた。


最後に残った「居合斬り」のスキルを、『空間を断ち切る力』として応用した。自身の命を削り、最後の力を込めて、彼は虚空に向かって刀を抜き放つ。


ヒュン……ザンッ!!


空間に闇色の亀裂が走った。それは、次元を隔てる境界線をたった一つのスキルで強引に断ち切った瞬間だった。


「行け……P-25世界のヒカリ。お前が『愛の重荷』を捨てるまで、俺がお前の『影』となり『覚醒の儀式』を行う」


最後の力を振り絞って自らの体を闇色の亀裂へと投げ込んだ。


異世界への転移(P-25世界線)

激しい魔力と時空の奔流を乗り越え男が意識を取り戻した時、彼はこの世界の古い遺跡に倒れていた。彼の体には故郷で負った無数の傷跡が残されていた。


すぐに立ち上がり集中力を研ぎ澄ませる。そして、彼の耳に届いたのは、遠くの街から聞こえる楽しそうな人々の笑い声だった。


「……平和すぎるな」


男は自分の顔を隠すためにフードを深く被り、硬質な仮面を装着した。この世界で『アサクラ・ヒカリ』として生きる自分とは対極の存在となった。


「俺の使命は、お前を平和の眠りから覚ますこと。この世界の『アサクラ・ヒカリ』を『世界を救う真の刃』へと鍛え上げることだ」


この時、自らに『ナイトローグ』という新たな名前を付けた。


「この世界の甘さが、地獄の始まりである事を、俺が証明してやる」


闇色の刺突剣を携えたナイトローグは、この世界の光を監視し破滅への道筋を整えるため静かに動き出した。

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