第二章 4話 「規則」
「途中まででも、送ろうか?」「いえ、大丈夫です!お気持ちだけもらっておきます!」「そうか、とりあえずは口裂け女からの問いかけには、先延ばす回答をすればなんとかなるはずだから、間違っても解答に近い言葉は返さないように。」
「わかりました!気をつけます!」
「あとこれを‥」白生は彼女にお札のような紙を渡す。「簡単に作れるものだけど、強力な魔除けの効果があるものだ。数日間はこれを持っておけば口裂け女も近づいて来ないと思うよ。近づかれたらさっき言った事をしてくれれば危害は加えないはずだから。」「ありがとうございます!すごいですね、白生さんは!」「え?何が?」
「だって、これ白生さんが作ったんですよね?魔術師ってこんな事も出来るんですか?」「‥‥あぁ、これくらいなら誰だって出来るよ。ほら、そろそろ帰らないと夕暮れ時になってしまう。」
「そうですね、じゃあ私はこれで!」急いで出口に向かう金雀枝。
「気をつけて。」
「もう帰るのかい、金雀枝ちゃんまた会おう。」白羽探偵は笑顔で見送る。
白羽探偵事務所を後にする金雀枝。
「翔廻、彼女に魔術師なのを教えたのか?」
「状況が状況だったんで、すいません。今回は僕が魔術師なのを教えていたから依頼に来たんだと思うし、いい方に転がってよかったです。」
「いや、別に責めてる訳ではないんだ。お前が無闇やたらに魔術を行使するとも思えんしな。」
「はい、一応気をつけてはいるつもりです。もちろん凪翔さんに迷惑はかけないですよ。」
「それでだ、さっき話に出てた怪異なんだが‥‥」
「あぁ、口裂け女ですか?」いやと白羽は遮る。
「赤舌のことだ。」「赤舌ですか?」
「赤舌とは戦闘になったのか?」「はい、今回の赤舌は魔力を持った人間を食べて力をつけていました。」「そうか。で、周りの人達には魔術の行使は見られたのか?」「いえ、赤舌が結界を張っていたので外界とは断絶していたので、周りの人達から観測されていないはずです。」「なら良いんだ。もし非魔術師に魔術の行使を見られていたら大変なことになる。協会が動き出すだろうしな。」「魔導協会ですか、お世話にはなりたくないですね。」
魔導協会、魔法使いや魔術師が集まる組織を指し、その目的は魔法・魔術の研究、管理、発展や組織に所属する者の保護である。協会の規則として魔法や魔術を秘匿するというものがあり、最低限魔法や魔術の行使を禁止している。禁止した者には協会所属の執行部隊により粛清されるから、協会に連行され身柄を拘束されることになる。いわば警察の役割もこなしている組織だ。
組織でいえば、他には魔術結社がある。
「魔術結社の輩に、知られるのも面倒だしな。良かったよ。」
「魔術結社ですか?」
魔術結社、それは形態や規模、目的や活動は千差万別で、陰ながら人助けを行う善良な結社から、殺人やテロをも厭わない犯罪的な結社、世界各地に無数の結社が存在する。形態や規模が千差万別な為、術師が集まり結社を名乗ればそれは魔術結社になるのだ。
「結社の勧誘はしつこいからな、断れば危害を加えてくる奴までいる。気をつけろよ。」
「はい」
白羽探偵は優しい笑顔をして、「まぁ、翔廻。お前に勝てる術師もそうはいないだろう。最悪お前なら追い払える。心配はしてないよ。」「そうだと良いですけど。」「安心しろ、今の術師、俺も含めて戦闘経験がある術師なんてごく少数だ。何十年前みたいに異界との境界が不安定で、幻獣やモンスターを討伐していた時代ではないからな。」
「幻獣‥‥見てみたいですね。」白生は目を輝かせる。
「まだ探しているのか、あれを」
「いつかは行けると思っているので。」
「そうだったな、その為に奇譚を集めているのだったな。」
「はい、最初は集めているだけでしたけど、今では趣味になってますよ。」
「はは、そりゃあいい。お前は何事にも興味がなかったからなぁ。」
「そうですか?そんなつもりはないんですけどね。」
「それで、口裂け女はどうするんだ。あれは簡単には祓えないだろ?」「そうですね。自分も有名な怪異と相対するのは数少ないですから。」「面白いよな、」「え?」「いやぁさ、有名なのに出会うのは中々ないってさ、面白いと思わないか?それなのに怪異は有名になっているなんてさ。」
「確かに不思議ですね。そんなこと考えた事もなかったですね。興味深いですね。」
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