第二章 3話 「若王子」

白羽探偵事務所で作戦会議していると同時刻。


「はぁー、白生が予定なかったらよかったんだけど。くそぉ、暇だなぁ。」


講義も終わり、大学からの帰り道。普段通りの道を歩く平凡明がそこにはいた。


白生とは大学で出会い、知的な彼に惹かれ声をかけたことによって友人となる。初めはクールな印象を持った白生にあまり自分の心からの会話が出来ずにいた。出会って数日は、探り探りの会話のキャッチボールをしていたが、白生の意外な茶目っ気な一面を見てから気を許すようになり、馬鹿話もできる間柄になる。白生も平のそこはかな明るさに警戒心を時、すぐに気を許すようになる。


奇譚や伝承を収集することに熱中する白生にとって、現世との関わり方は明らかにドライな所がある。それは異界からの来訪者、怪異や妖怪といった妖との出会いによって浮世離れした経験をしているからだ。現世での人間との関わりより、奇譚を収集することや探偵事務所での仕事をする方が有意義なことだと思っている面もあるが、幼少期より魔力を持っていたため、害を為す存在に狙われた経験をし、周りの人間に被害を合わせる事を極端に嫌う白生は、友人を作り被害を合わせるより周りの人間とは距離を置き、被害を合わせない予防線を張ることを無意識に行なっていた。しかしそれも中学に入る前までだった。年齢を重ねる毎に魔力の使い方や、魔術の修練を行い戦闘技術を磨き、周りの人間を護れる力を手に入れていったのだ。それでも心の奥底では人との関わりは極力控え、省エネで対応していた。なので、白生にとって友人と呼べる人間はかなり少ないのである。


そんな彼と友人となった平。平凡な毎日を過ごす彼が、非現実な日常を暮らす白生と交わるのはかなりの奇跡と言っていいだろう。


そんな平は、絶賛暇を持て余していた。白生の急な予定により、遊ぶ事もできず、トボトボ歩き帰路に着くしかなかった。



「おじさん暇なの?」何処からともなく子供の声がする。


「うん?」といい周りをキョロキョロ観察する。



「こっちこっち」と両手を振る少年に目を向ける。


少年は恐らく小学生低学年くらいの年齢だろう。少年はあまり見かけない格好をしていた。道着のような装束のような格好に何か蛍のような優しい光を纏っているような不思議な感じがする少年がそこにはいた。


先程まで見ていた景色に唐突に現れた男の子に少し驚いたが、優しい笑みを浮かべる平。


「おいおいボウズ、俺はまだおじさんじゃねぇぞ。これでもまだ10代なんだぜ?」と自分よりも遥かに年下に見える子供に若さをアピールする。



「おじさん、意外と若いんだね!」邪気のない笑顔をする子供。「だからおじさんって呼ぶな、俺は平凡明だ。ボウズはここで何してんだ?」

「おじさんこそ、オイラのことボウズって呼ばないでよー」「じゃあボウズはなんて言う名前なんだ?」「えーとね‥‥」と言い少し考える様子を見せる彼に平は「知らない人はあまり、教えない方がいいか?」と優しく問いかける。

「オイラの名前は若々にゃくにゃくだよ!」

「にゃくにゃく?」聞き慣れない名前に多少困惑したが、「若々かよろしくな。」と挨拶をする。


「こっちこそよろしくねおじさん!」と相変わらずおじさん呼びはやめないようだった。


「それで若々はこんなとこで何してんだ?近くに遊ぶ場所なんてないだろ?迷子か?」「うんとねぇー暇だから散歩してたんだ!」「そうなのか、小さいくせに渋い遊びしてんだな。」「それで、おじさん暇そうだったから話掛けたんだ。」猫のような顔で笑う若々。「正解、俺は今暇してんだ。よくわかったな!」と子供にヨイショする。

「オイラは、何でもわかるんだぁ。」「へぇ〜そりゃあすごいなぁ。」



「オイラ暇だからさぁ、一緒に遊ぼうよ!」


「しょうがねぇな、俺も暇だし付き合ってやるか。でも暗くなる前に帰すからな。」


「やったーありがとう、おじさん!」


親子にも見えるやり取りをする二人を陽がスポットライトのように照らすのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る