第4話 火曜日の夕方
男は思う。あの悪魔の娘は何なんだ?
平日昼過ぎのサウナ、割と混んでるんだな。
いつもだけどな。
久しぶりだな。
前にちょくちょく来てた頃はよ、わけのわからねぇサウナブームの前だったしよ、
男は受付から狭い階段を上がり、お目当てのサウナがある2階へ向かう。
一階のカウンターから奥はカラオケボックスみたいになっているようだが、カラオケが聞こえてきたことは無い。サウナは22時までだが、そのカラオケだけは24h営業だ。入ったことは無いけどな。
一人で歌なんざ歌ってられっかよ。
悪魔、悪魔、俺の魂が欲しいんだとよ。
やるっつってんのに、めんどくせーな。
何で俺なんかのとこに来てんだか知らねーけどな。
それにしても、この更衣室よ、ロッカーの鍵壊れすぎだろ。それによ、客もマナー悪いぃよな。床が濡れててイライラすんだよ。ちゃんと水気拭いてから更衣室に来いっての。
あいつ、魂の価値とかなんとかも言ってたな。知るかよそんなもん。なんかしらねーけど病んでるみてーだし、まぁ、悪魔だしな。
それによ、あいつはどうやらオレにしか見えてねぇみてーだ。
いよいよオレの頭もバカになってきたのかもな。
けどよ、いくら悪魔でもよ、さすがにここまでは着いてこねーよな。
ここは男の世界だぜ。(ツーン
(酸っぱい臭いがしそうだな…)
よし、行くか。ポカリ500飲んだし、銭湯準備完了だ。 サウナはある意味では、戦いなのだ。
更衣室からサウナに向かう。
気が引き締まる。
取っ手まで熱い扉を、引く。
ギイイイ、もわぁー(熱気)
−−−−−−−−−88℃の世界−−−−−−−−
ハァ
ハァ
俺は壁際のヒノキの腰掛けに座る。
股間にはタオル1枚
修行みてーに腕組み、空いてるからな、電車でなら許されねーくれーの大股すわりだ。
ピシッと伸びた背筋、眉間のシワ、無言、玄人っぽくねぇか?俺だってよ見栄を張りてぇ時があんだよ。
フンッ
ここに他の客は2人、俺より前から入ってやがるタオル頭野郎、 おいやめろ もう十分だろ?
焼け石のとこに水かけるんじゃねぇ!やめろ!
けど、「すいません、もう十分に熱いのでやめてもらえますか?」なんて言えるかよ!
こいよ、湿度!上等だ!
受けて立つぜ、この勝負!
気が付いたら客が増えてきてやがる、負けねぇぞ!
ハァ
ハァ
俺は、戦いに夢中でよ、悪魔のことを忘れてたんだ。あいつは俺にしか見えてねぇんだし、気にすることも無ぇと思ってたフシもある。
???
うおおおお!!!!お前、何入ってきてんだよぉぉぉぉ
しかも、すっぽーーーーん!?!?
おいい、俺の目の前に立つんじゃねぇ!
このピンク髪クソ悪魔あああああ
下も同じ色かよおおおおお
やべぇ、
やべぇぞ (ムクムク)
股間のタオルが持ちあがる。
他の客、タオル頭野郎(ジッ ソソソ
俺との距離が近くなる。
他の客、ペットボトル野郎(ジッ 凝視
おいっ、お前じゃねえ!お前らじゃねぇ!
うおおおお!!!
サササササ
逃げるか勝ちだぜ!退散退散!
−−−−−−−−−−省略−−−−−−−−−−
受付「あざっしたーーー!」
外、
男「おめーなー、」
悪魔っ子「仕方ないじゃない。悪魔にとって部屋はある種の結界なのよ。そこに入るには、悪魔は様式に従わなければならないの。
服を着ていたら、あの部屋には入れないわ。」
男「そうかよ。 帰るか。」
男はそう言うと、おもむろに
私の方に片手を伸ばしてきたわ。
もちろん、握ったりしない。
わたしは、病の悪魔なんだから。
ぁ、手がひっこんだわ。
自分から握る勇気は無かったのね。こういうの、ヘタレって言うのかしら。
もしかして、この男にもう少しでも勇気があれば、わたしなんかを見ずに済んだのかも。けど、そんなことは知らないわ。
わたしは悪魔だもの。
つづく
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