第17話 王女の矜持

 カルスが黄金の小鹿亭に戻ると、宿に伝言が残されており、荷物を引き払ってここに来いというような内容が記されていた。場所はベリアから出て西に少しいったエリアのようだ。先にロキシスが伝言を見て宿を引き払っていたらしく、荷物も馬車もすでにない。

 身一つでカルスはベリアを出て数時間歩くと、それほど迷わずに指定されたポイントを見つけたが、何もないし誰もいないのでしばらく待つことにした。全く状況がわからない。深夜王女たちが突然神殿に表れて騎士団と戦闘になった。周辺でうろついていたエリードの特殊部隊とカルスが遭遇して地下に転落した。何が起こっているのだ。マスター・ウリエラから伝えられた自身についての情報もあり、カルスは混乱の極みであった。

 しばらくすると、知らない男性がやって来て、皆そろっているからついてくるように言われた。連れていかれた先は、一見廃棄された廃棄された大きな農家といった趣の建物だった。外からは全くわからなかったが、中の食堂のような部屋に、王女をはじめ、全員がそろっていた。

「遅かったじゃない。カサンドラと夜デートに出かけたのに道端で出会った美女と意気投合して、カサンドラを捨てて姿をくらましたって聞いたけど。こんな時間までお楽しみだったようね。かわいそうに彼女、泣きながら夜の街を迷子になっていたいたところを保護されたのよ。」

 入るといきなり聖女に顔鞭くらった。

 とりあえず、その辺にあった皿をつかんで、お菓子をポリポリ食べているカサンドラに投げつけた。

「てめぇシャレにならん風評流してんじゃねぇよ!」

「???」

 どうやら昨晩あったことも、適当言ったこともすでに彼女の中では過去のことになっているようだ。

「で、何が起きてるんですか。状況が全然つかめてないんですが。」

 カルスが尋ねると、一人顔に覚えがなかった男がこちらに一歩出てきた。

 「まずは、初対面だから、この拠点の管理者である俺から挨拶させてくれ。反アスクレピオス組織、漆黒の乙女のリーダー、トールズだ。子供たち救ってくれて、アスクレピオスをつぶしてくれて本当にありがとう。」

「トールズは幼女だった私に劣情をいだいていた童貞で、そんな私がさらわれて悪党どもにいいようにされたトラウマを克服するためにこの組織を立ち上げ、私のイメージの漆黒の乙女と名付けてアスクレピオスに嫌がらせをすることで自らを慰めていたそうよ。」

「言い方よ!」

「それはさぞかし時間の残酷さを痛感したでしょうね。」

 こくこくとうなずくトールズ。

「で、こいつが自立型二足歩行カラクリのアウグスティヌス3世だ。」

「長いわ。今日からあなたは下僕13号よ。」

「コンニチハ。下僕13号デス。」

「勝手に改名すんなよ!で、なんですんなり受け入れてんの!?」

「喋るんですか?色々凄いですね?」

「あぁ、ベリア地下の遺跡でたまたま発見してな。マナを補充してやると動くんだ。」

「確かに、さっきまで地下遺跡を徘徊してたんですけど、似たようなのが転がってた気がします。」

「ドウセナラ、男デハナク淑女ニマナヲ補充シテ欲シイノデ、今日カラ私ハ、女王様ノ下僕デス。」

「何言っちゃってんだよ!?しかも王女様じゃなくて女王様かよ!」

「カルス君、状況を整理するために、君が宿を出てここまでのことをあらためて説明してもらっていいかな。地下遺跡を徘徊してたというのもかなり意表を突かれているんでね。」

 シュカールが華麗に話を転換してカルスに促す。

「アリエスさんと地下でしっぽりしていたの?私気づくと爆音が鳴り響く中に一人で放り出されてほんとに心細かったんだから!」

 カサンドラがまぜっかえす。

 とりあえず神殿に行けと言ったのに寝ぼけて聞いていなかった阿呆は放っておき、カルスは、神殿の異変に気付いたあとのアリエスとの遭遇や、その後の地下遺跡での出来事、マスター・ウリエラと名乗った人物との邂逅について一通り話した。

「ウリエラ……。エリック、お前のパーティーメンバーだったな。」

「あぁ。ガリガリ君に興味はないがな。」

「私もお前の性癖には興味がないから真面目に答えろ。」

「俺の知っているウリエラとは少しキャラが違う気はするが、本人が肯定しているしな。話の流れ的には神に関わる何かしらの秘法の結果、別人格の影響を受けているといったところか。」

「聖女様、ウリエラは転移魔法を使えたのですか?」

「使えるわけないじゃない。っていうかそんなことが魔法で可能だなんて初めて知ったわ。」

「だな。」

「カルス君、マスター・ウリエラは部下のアリエスを連れて転移したのだね?」

「そうです。」

「なるほどね。あくまで推測のレベルではありますが、カルス君が遭遇した情報や、ロキシス君が調べてきてくれた内容を総合すると、ゴダール平原の戦役で謎だった部分のからくりも一応説明はつくところまでは情報がそろってきましたね。」

「おぉ!さすがシュカールじゃ。一家に一台シュカールじゃ。」

「一家に一台もこんなひねくれた男がいたら毎日が憂鬱になります殿下。」

「黙っていろクソマッチョ。」

 一呼吸おいてシュカールが続ける。

 「状況をわかりやすくするために、時系列で判明した事実を並べてきます。まず、ロキシス君が調べてくれた情報によると、ディアモール商会というのは、ベリア伯モンストラムが裏取引をするためのダミー商会でした。したがって、少なくとも5年前の時点で、モンストラムはアスクレピオスを通じて孤児をエリード連邦国に提供し、その結果生産される魔鉱石を受け取って利益を上げる関係を構築していたことになります。ゴダール平原の背後に突然現れたことについては、転移魔法を使えば、理論的には可能になります。私も転移魔法という規格外の魔法の存在を先ほど初めて知りましたが、2人転移が可能であるなら、魔法につぎ込むマナを際限なくつぎこめば、魔法理論上は軍の転移も可能です。」

「そんなことが現実に可能なんですか?」

「神ならざる魔導士単体では不可能だと思いますが、魔法陣を構築して、そこに膨大なマナを注ぎ込むことで可能になります。ここでポイントとなってくるのが、エリードは、マナ供給を絶ったタブラ・スマラグディナを再起動する方法、つまりタブラにマナを供給する術をもっているはずであるという仮定です。アニマ諸国全域に影響を及ぼすレベルのマナを供給する方法を持っているならば、軍を転移する規模の魔法陣にマナを供給することも現実的な話となります。ついでに言うと、3週間前にマナ供給が途絶えたはずのタブラが、直前まで動いているように見えたからくりもここにあると踏んでいます。ただ、エリード本国から転移してきたのかというと、転移先の状況確認や、草原の民とのタイミングその他を考慮すると、もっと近くから、機をみてすぐに転移できる場所まであらかじめ進軍した上で、ニールの策謀の結果を待っていたと考える方がよいでしょう。そしてベリアが最初から寝返っていたとするならば、それが可能です。ベリアとしては、戦後の立場の保証もエリードからされていたことでしょう。しかし、ベリアとして想定外だったことに、サレナ殿下が戦場を脱し、ベリアに来てしまいました。加えて殿下の連れの者がアスクレピオスを壊滅させ、エリードとのつながりが知れてしまう事態となってしまいます。追い詰められたモンストラムは王女の排除を選択。しかし、アスクレピオスの件を追っていた結果聖女様と既に接触していた漆黒の乙女の介入もあり、我々は危地を脱出して現在に至る。といったところです。まぁかなり推測も交じってはいますが。」

「で、俺たちはこれからどう動く。」

「既に北領騎士団が敵であることが判明した以上、 エデン奪回の基本となる軍がなくなりました。ニールの援軍は、あくまでこちらが挙兵した場合の支援であり、そもそも挙兵できなければ支援もありません。したがって、先日の三つの方針の内、自軍の増強の部分を根本考え直す必要があります。代替案としては、南方大陸のかく乱行動の中で、すでにタタル帝国に一度敗北している国を乗っ取り、軍を起こす方法が考えられます。もちろん現地の状況により具体的な候補を慎重に選定する必要がありますが。エリードに調査に行くロキシス君と、ミスルに策動をする私の役割は前回定めた分担通りで行くべきかと考えます。」

「殿下、いかがですか?」

 エリックが、主君の意向を確認する。サレナは、しばらく目をつぶって考えていたが、やがてゆっくりと口を開いた。

「わらわは反対じゃ。」

 少し間を置いて続ける。

「エデンを落とされ、残された北領に裏切られ、他国まで逃げて行って国を乗っ取って帰ってきた王家を、民はどう思うだろうか。裏切ったのは北領じゃ、王家が逃げるのは筋が通らぬ。明らかに筋が通らぬことを正面から否定できぬ王家など、すでに存在価値を失っておる。わらわは、考えるのは苦手じゃ。無責任な発言になるかもしれん。じゃが、この状況でわらわがただ一人の王家としてするべきは、ベリアの非を正すことだと思うのじゃ。」

 その場にいた者がみな、それぞれに王女の言葉について考える。少しして、エリックが顔を上げ、シュカールに語りかけた。

「シュカール。殿下の御意思はすでに示された。実現方法を考えるのはお前の仕事だ。俺は、お前が決めた作戦の中で剣をふるうだけだが、王女殿下のお気持ちに全力で応えたいと思う。」

「シュカールさん。漆黒の乙女も協力しますよ。俺らの敵はアスクレピオスだったけど、黒幕が領主だったってなら、そこを討つまで活動を終えるわけにはいかねぇ。戦力にはならないが、地道に活動したおかげで、行政官とか軍に関係のない庶民は、たいがい味方につけられると思うぜ。」

「私はシュカールがどう決めようと、モンストラムの玉をすりつぶして飲ませるだけだから関係ないわ。」

「まったく貴様らは……。殿下、殿下のお気持ちは承知いたしました。殿下の志を汲めず目先の作戦案を立案したのは私の不徳の致すところです。……少し時間をください。必ずやベリア奪還の策を上奏いたします。」

 シュカールが地図や図面をトールズから受け取り思案する中、他の面々はそれぞれ自由に過ごす事になった。

 まぁ、皆寝不足だったので、昼寝したんだけど。トールズだけは、シュカールと細々話し合っていたようだ。

 ともあれ、夕飯の頃には皆起き出してきて、シュカールから作戦が説明された。

「作戦というほど大層なものではありません。要は兵をいかに殺さず頭をすげかえるかという話ですから。サレナ殿下には、正門に堂々と行っていただいて、敵の兵力をそこに釘付けしていただき、その隙にカルス君達にモンストラムを討っていただく斬首作戦で行きます。」

「そううまくいくもんかね?」

 ロキシスが疑問を呈する。

「うまく行くための仕込みを、明日から1週間ほどいたします。作戦後の混乱を最小限に抑えるために、北領騎士団の中に味方も作っておきたいところですので、そこは殿下にもご協力いただきます。」

「了解なのじゃ!」

「すでに話はしてますが、トールズには市中に赴いていただき、市民を大々的に味方に巻き込んでください。当日は、ベリア外郭第二層あたりから王女殿下と共に正門まで行進していただきます。」

「任せとけ。」

「カルス達は、前日に神殿に潜入していただき、正門で騒ぎが始まったら、我々が脱出してきたルートを使って城塞に侵攻していただきます。図面を見ながら説明しますのでこちらに。」

 シュカールから、当日の作戦についてに詳細な説明を受け、その日はお開きとなった。

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