第2話 崩壊世界で出会った少女

 校舎を出ると、辺りは静まり返っていた。


 学校の時計の針は10時を差している。


「誰もいない……」


 空は曇っていて少し薄暗いな。


 心なしか不気味に見える。


「ぎゃああああっ! 来るなぁっ!」


 なんだ!? 校舎裏からだ!


 僕は思わず校舎裏へと走り出す。


 すると、学生服を着た生徒2人とすれ違った。


「おい! 助けろよ!」


「テメェがやれよ! ボケが!」


 いがみ合いながら2人は走り去っていく。


「なんだなんだ?」


 校舎裏に辿り着くと、全長2メートルはあるワニが少女の足に噛みついていた。


「イヤ……やめて……食べないで……!」


 お、女の子が!


 僕は咄嗟にワニに向かって突撃し、ワニの上顎と下顎を掴み、こじ開けようとした。


「うおおおおおおおっ!」


「グガガガ!?」


 ギリギリと音を立ててワニの口が開き、少女の足が外れる。


 僕はそのままワニを放り投げ、校舎の壁にぶつけた。


 す、すごい力だ……あんな大きさのワニを放り投げれるなんて。


 僕は少女に駆け寄る。


「大丈夫か!?」 


「う、うん……」


 一糸纏わぬ金髪の少女は辿々しく頷く。


 うっ、可愛い……しかも美し……。


「ああっ、ダメェッ!」


 少女は悲鳴を上げるとワニが僕の左腕に噛みついてきた。


「うおおっ!」


 だが……ワニの牙は僕の肉体を食いちぎることは出来なかった。


 ふ……はははははは!


 なんだこれは!? 僕はスーパーマンになったのか!?


 興奮を抑えながら僕はゆっくりとワニに向き直り、上顎に拳を叩き込む。


「ピギャッ!?」


 ワニの上顎は破裂し、ちぎれ飛んで地面にドサッと転がる。


「す……すっごい……!」


 金髪の少女は両手を口に当てて感嘆の声を上げる。


 僕も同じ気持ちだ、マジですごい!


 そして、仰向けにのたうつワニの腹を踏みつけ、止めを刺した。


「か……勝った、勝ったぞ……僕は、勝った!」


 勝利の高揚感に酔いしれ、思わず高笑いが出そうになる。


 いけない、少し危ないヤツになるところだった。


 それに、それどころじゃない、あの子、足を噛まれてたぞ。


 僕は後ろを振り返る。


「あ、ありがとう……ありがとう!」


 金髪の少女は涙を流しながらお礼を言い、僕に抱きついてきた。


 ぐおおお! この破壊力はヤバい!


 僕は女の子と手を繋いだこともないんだぞ!


 しかも、一糸纏わぬ姿とか、このままでは色々とマズイ!


「フッ、君が無事で良かったよ。もう大丈夫だ」


 キザッたらしい台詞を吐きながら少女の頭を撫でてやる。


「足は大丈夫なのかい?」


「うん、だいじょぶ」


 実際、噛まれたはずなのに怪我をしていない。


 運が良かったのか? 釈然とはしないけど。


「にしても、着るものはどうしよう?」


 辺りを見回すと段ボールが積んであり、何か入っているようだった。


 僕は少女と一緒に段ボールに近づく。


「白いシャツか。ズボンもある」


 とりあえず、間に合わせでこれを着てもらおう。


「これを着ると良いよ」


「うん?」


 少女は怪訝な表情をする。


「いや、裸はマズいから」


「……着せて、もらって良い?」


 少女は涙目で懇願してくる。


 ダメだ……もう限界……理性が抑えられる自信がないぞ。


「わ、分かったよ」


 とりあえず、シャツを上からスポッと被せ、袖を通してやる。


「あ……これ、なんか良い……」


「はは、それは良かったよ」


 よし、耐えきったぞ、次はズボンをっと。


「コレ、なんかキライ」


 少女は履かせようとしたズボンを足でポイッと飛ばしてしまう。


「あーっ!」


 少女は裸ワイシャツ状態になってしまった。


 ま、まあ良いか。


「えっと、君の名前は?」


「名前……?」


 え? 名前が無いなんてことないよな?


「分かんない……」


「マジ?」


 記憶喪失ってやつか?


 と、とにかく、名前が無いのは呼びにくい。


 なんか良い名前は……。


「そうだな……アスカ、なんてのはどうだい?」


「……! 良い!」


 少女は目をキラキラさせながら僕を見上げる。


 ぐおお、可愛い。


 つ、次は僕の番か。


「僕は田中……」


 いや、もう僕は悟朗にあらず!


 新たな肉体に生まれ変わったんだ、名前も新たにしよう!


 僕はかつて、ゲームで主人公に付けていた名前を思い出す。


「僕はアルディオス……アウター・アルディオス。」


「アルディオス……アル……君……」


 アスカは辿々しく僕の新たな名前を呼んでくれた。


 ──改めて、アスカを見てみる。


 腰まである自然なストレートロングの金髪に幼く整った顔立ちにパッチリとした金色の瞳。


 透き通るような高い声と白めの綺麗な肌は神秘的で、まるで天使のようだ。


 身長は160少しみたいだ。


 幼い顔立ちとは裏腹にグラマラス気味な体つきで、白いシャツのみを着たその姿は体のラインがハッキリと浮かんでおり、恐ろしい程の萌えを放っていた。


 ダメだ……このままでは僕は萌え死んでしまう。


 すると、アスカは泣きそうな顔でお腹を押さえだした。


「お腹、すいた……」


「え?」


 そう言えば、僕も少し空腹だ。


 何か食べるものは……。


 僕とアスカはワニの死骸に目をやる。


「おいしそう……」


「確かにワニは食べられるけど……」


 だけと、生ではちょっとな。


 僕はふと、落ちている木の板に目をやり、拾い上げる。


「う~ん?」


 アスカは首を傾げながら僕を見つめる。


「いや、何となくなんだけどね」


 僕は超高速で木の板同士を擦り合わせる。


 すると、木の板はたちまち燃え上がる。


「わぁっ!」


 アスカは目を丸くして驚いた。


「おお! 上手くいった!」


 炎が消えない内に周囲から枯れ木を集め、どんどんくべていく。


 アスカは僕の真似をし、木を拾い集めてくれる。


「ありがとう、助かるよ」


「どう……致しまして?」


 アスカは顔を赤らめ、顔をポリポリかいている。


 僕を萌え殺す気なんだろうか?


 冗談はさておき、さっそくワニを焼いてみよう。


 ワニを剣で切り分け、木の枝に刺して焚き火で焼いていく。


「あ……いい匂い……」


「本当だ、香ばしい匂いがしてきた」


 アスカは体操座りで焼かれていくワニ肉を眺めている。


 ぬぬ、萌えやら愛らしさ、この状況の高揚感とかが混ざって複雑な感覚だ。


「おっと、そろそろ焼けたかな?」


 試しに少し食べてみよう。


「う、美味い!」


「ホント?」


 アスカも続けてワニ肉にかぶり付く。


「お……おいしい~っ!」


 アスカは目を輝かせ、夢中でワニを平らげていく。


 どんどん焼かないと、すぐに無くなりそうだ。


 焼いたワニは鶏肉に近い食感だが、脂が多く甘味と旨味がとても強い。


 もっとも、このワニが本来のワニと同じなのかは分からないけど。


 ──気が付けば、僕とアスカはワニを完食していた。


「すごい食欲だな、僕の3倍は食べたぞ」


「お、お腹が空いてたから、つい……ね」


 アスカは恥ずかしそうにモジモジしている。


 少し聞いてみよう。


「アスカは、どうして学校にいたんだい?」


「分かんない、目が覚めたらワニが目の前にいて」


「そうか」


 やっぱり、記憶喪失なんだろうか?


「アル君は、どうしてワタシを助けてくれたの?」


「可愛かったから」


「えっ……可愛い?」


 またも、アスカは顔を赤らめる。


「あとは、メチャクチャ強くなったから助けられたのもあるかな。ともかく、ワニをぶちのめした時は高ぶったよ」


「そ、そうなんだぁ……」


 げ、少し引かれたかな?


 肉体が変異したことで心にも影響が出たからか、ストレートに物を言ってしまってる感覚だ。


「アル君は、なんか良い……一緒にいると、落ち着く……」


「うおっ!?」


 今のは効いた……クリティカルを叩き込まれたぞ。


 さらに、アスカは僕に身を寄せてきた。


「う……お……」


 鼓動が高鳴る……全身の血が沸き立つ……。


 僕は思わずアスカの肩に腕を回そうとした。


「おおー? なに俺らが目ぇ付けた女盗んでんだテメェ?」


「このインチキ野郎が、頭のおかしい格好しやがって、とっとと出すもん出せやコラ!」


 いきなり不快な言葉をかけられ、冷や水を浴びせられた気分になった。

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