対「視怪」報告書十二 怪幻院にて
報告者:キタジマケント
報告日:2021年8月1日
怪幻院にて発生した一連の出来事を時系列順に記録する。
以下、研究所内にてキタジマと小之原の会話。(一部編集済み)
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小之原:手鏡は、岡野さんのものを使用しましょう。せっかくですしね。
キタジマ:せっかくってなんですか……それより、銀製の釘なんてこの研究所にありましたっけ? なさそうなら買いに行きますけど。
小之原:多分ないですね。買い出しお願いします。……必要なものが少ないのは助かりますね。羊水はサンプルがまだ残ってますし、問題は香川県までどうやって行くか、ですね……
キタジマ:新型コロナの自粛期間、まだ続いてますもんね。研究所が都内だからアクセスの良さには助かってきたんですが、まさかそれが仇になるとは。
小之原:仕方ないので、研究所の車で行きましょう。長くなりそうですね……。
キタジマ:それと、例の異界への行き方、この手順を岡野さんたちは無意識に踏んでいたってことでしょうか? そうなると座標の固定、という工程を踏まなかった彼女らが帰ってこれたのは奇跡ですね。
小之原:これもしかして記録してます?
キタジマ:はい。新しい情報が手に入ったあと、その情報に対しての考察資料は大事ですからね。
小之原:記録するなら言ってくださいよ。私変なこと言ってないよね……。
キタジマ:ああ、申し訳ないです。冒頭は編集しておきますので。
小之原:……で、座標の固定は必ずしも必要ではない、という話でしたよね。まあ、異界へ渡るための条件が思ったより簡単でしたので、ちゃんとした工程を踏まずに偶然入ってしまう、みたいな事例はありそうです。
キタジマ:もし手鏡ではなく普通の鏡でも発生すると仮定したら、深夜二時に鏡に触れるだけで異界へ渡ることができてしまうのでは?
小之原:座標指定をしっかりしていないと、そもそも開門できないんじゃないでしょうか? 岡野さんの件は本当に特殊な事例だった可能性もあります。
キタジマ:この辺の疑問も、怪幻院で訊いてみましょう。
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以下、香川県■■市にて、開門前のキタジマと小之原の会話。
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小之原:釘、抜きますよ。手鏡は大丈夫ですか?
キタジマ:大丈夫です。
(キタジマが手鏡を地面に刺す)
小之原:……これで本当に異界へ行けるんでしょうか? あまりにも単純すぎて拍子抜けなんですけど。
キタジマ:とりあえずやってみましょう。……いいですか。3、2、1で同時に触れますよ。
小之原:了解です。……3、2、1……。
(キタジマ・小之原が鏡に触れた瞬間、キタジマの録音機が突如停止する)
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以下、開通後の異界での会話。キタジマと小之原は、異界禁踏時点で意識を失っていることに留意。
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小之原:ここは……怪幻院前……のはずですが……どこですかここ?
(キタジマはまだ意識を失っている)
小之原:キタジマさん? ちょっと……意識失うんですかこれ?
(小之原はキタジマのポケットから録音機を取り出し、辺りを見渡す)
小之原:手鏡はまだ地面に残ってます。ちゃんと工程踏んだはずなんですが……怪幻院はどこにも見当たらないです。私も意識を失っていたみたいで、同行しているキタジマさんはまだ意識を失っています。
(小之原はポーチから羊水の入った瓶を取り出す)
小之原:仕方ないですね、一旦戻った方がよさそうです。キタジマさんの意識が戻り次第、帰還します。
(直後、小之原の背後から物音がする)
小之原:……「視怪」でしょうか。
桃瀬:初めまして。「怪幻院」の桃瀬美波と申します。あなたたちは「視怪」ですね? ここに来た経緯を話してもらえますか?
小之原:ちょっと待ってください。私は人間です。あなたたちからの連絡を受け取って、ここに来たんです。
桃瀬:それはおかしいですね。だってここ、怪幻院前ではありませんよ。私たちは、あなたたちが既に「視怪」となっている可能性を危惧して、もしそうなら異界禁踏後に意識を失い、怪幻院から遠いこの場所に転移するように設定しておいたんです。
小之原:あ……同行しているキタジマさんは、「視怪」です。訳あって協力関係にあります。こちらの状況も説明したいので、怪幻院まで案内を……。
桃瀬:ちょっと待ってください。彼が……「視怪」? それで、あなたは人間なんですか? 不確実な要素が多すぎるので、今ここで詳細を話してもらえますか?
小之原:はい。申し遅れました、私は敷島研究所研究員の小之原です。キタジマさんも同じ研究員で、彼と私は共同で「視怪と人間の共存」を目指して研究をしています。まだ全然この目標は達成できなそうですが、とりあえず協力関係を結んでいます。一度私が「視怪」に寄生されたとき、キタジマさんが助けてくださったので、裏切るなんてことはしないはずです。
桃瀬:一度「視怪」に寄生された? そこから人間に戻る方法があるんですか?
小之原:はい。「視怪」が寄生時に発する精神作用に、仮死状態を作り出す効果がありまして、一度寄生されてももう一度その精神作用を受けると、寄生している「視怪」が、宿主が死んだと誤認して死ぬんです。これも、キタジマさんの協力で判明したことです。
桃瀬:まさか、そんなことが……少々お待ちください、本部に連絡します。「怪幻院」までは私が案内します。この度は大変失礼いたしました。申し訳ございません。
小之原:いえ……あと、キタジマさんの意識がまだ戻っていないんです。大丈夫でしょうか?
桃瀬:それについては心配しないでください。「視怪」だからと言って殺すようなことはしません。
(数十分後、キタジマの意識が戻る。小之原が現状を説明する)
キタジマ:説明ありがとうございます。……メールの返信で僕の正体を先に伝えておいた方がよかったでしょうか……。
桃瀬:まあ、結果こうして協力できていますし、お気になさらず。
小之原:えっと、「怪幻院」って、具体的になにをしている機関なんですか?
桃瀬:基本、「異界」についての情報を取り扱っています。異界禁踏の方法は、そのほとんどを怪幻院が管理しています。
キタジマ:「異界」とは、何なのでしょうか。
桃瀬:難しいですね……今私たちがいるこの場所のほかにも様々な世界があって、それらをまとめて「異界」と称しています。よく都市伝説で伝わっている、「異界エレベーター」もその類です。これに関してはまだ私たちも確認できていない事象ですので、真偽は未だ不明ですが。
キタジマ:「異界」の存在が発見されたのはいつごろかわかりますか?
桃瀬:怪幻院は100年以上続いている異界研究組織ですので、その時期にはもう発見されていたはずです。
小之原:100年……ものすごい歴史ですね。異界に機関を設置することで、なにか不都合はないのですか? 例えば、体調が悪くなったり、未知の怪異に遭遇したり……。
桃瀬:怪幻院が存在するこの異界は、最近までは特になんのトラブルも起きていません。それに、異界について研究するなら、異界で研究した方が都合がいいですから。
小之原:なるほど……。
桃瀬:それで、あなたたちはどのような機関で研究されているんですか?
キタジマ:僕たちの所属している敷島研究所は、怪異研究を主としています。過去にもいくつかの怪異事案を解決していまして、現在は「視怪」の情報を収集しているところです。「視怪」の影響がどの程度広がっているかご存じですか?
桃瀬:いいえ……推測するに、ネット使用者はそのほとんどが奴らの情報を目にしているはずなので、日本人口の約七~八割は既に寄生されていると思われるのですが。
キタジマ:いえ、実は、現在の日本人口の内、寄生されていない人間は残り数万人程度です。それ以外は全員、寄生されています。
桃瀬:数万人……? まさかそんなに早く拡散するとは……。
小之原:私たちは、視怪に寄生された人間をもとに戻す精神作用の解析にも至っています。あとは、それを全国民に向けて発生させるだけなんですが、これには問題が三つあります。一つ目は、人間に戻ったとき、寄生されていた間の記憶はなくなってしまうことです。これでは全国民が一斉に記憶喪失になり、パニックに陥ってしまいます。二つ目は、「視怪と人間の共存」までには至らない点です。この作戦を実行するとなると、視怪はすべて死んでしまいます。三つ目なんですけれども、花原さん、「轆轤」という人物はご存じですか?
桃瀬:「轆轤」……! まさか、あなたたちも「轆轤」の存在を知っているのですか?
小之原:なんと、同じ問題に直面しているようですね。私たちは、実際は「轆轤」によって作られた化け物を轆轤と称しているのですが、奴は視怪に寄生された人間を宿主にしてその数を増やします。
桃瀬:ええ。そしてそれだけでなく、奴らは異界の安定度を著しく低下させる……まだ奴らは異界から出る方法を知らないようですので何とかなっているのですが、異界から出てきてしまったらもう、日本は終わりです。
小之原:異界の安定度を低下させる……そんな影響もあるのですね……実際に観測したことはありますか?
桃瀬:異界調査の際に何度か。まだ数は少ないですが、脅威であることに変わりはありません。
小之原:それに……これはまだ調査していないのですが、「視怪」による影響は日本だけに留まっているのでしょうか? もし世界中に広がっているのだとしたら、かなり危機的な状況です。
キタジマ:「視怪」の情報拡散能力に上限はおそらくありませんが、純粋に個体が海を渡って日本の外まで行くとは考えにくいです。現時点では、日本人口のことのみ考える方向で良いかと思います。
小之原:なるほど、確かにそうですね。……そういえば、異界の外とのコミュニケーションはどうしているのですか? メールは遅れるようですが……
桃瀬:怪幻院内部に、外部と連絡ができる装置がありまして、普段はそこから連絡しています。……見えてきました、あれが怪幻院です。
キタジマ:……思ってたより大きいですね。
桃瀬:異界に関する資料室だけで、怪幻院の六割は埋まっていますね。それくらい、歴史のある機関なんです。
(三人は守衛所を通過する)
桃瀬:お疲れ様です! 花原さん、怪幻院まで、三名でお願いします。
花原:ん? あれ、三名? 向こうに転移されたって聞いたから、てっきり視怪に侵入されたのかと思ってた。
桃瀬:いや実は、協力していただけることになったんですよ。
(桃瀬は花原に事情を説明する)
花原:え! すごい。私は花原彩って言います。ここの守衛やってまして、一応研究職でもあります。
小之原:小之原日香里です。敷島研究所から参りました。
キタジマ:同じくキタジマケントです。よろしくお願いします。
花原:じゃあ、美波ちゃんと一緒に入り口まで、これ付けてってください。
(花原さんが通行証のようなものを小之原、キタジマに渡す)
小之原:これは?
花原:ただの通行証ですよ、中に入ったら、これを見せれば守衛を一度通った証明になるんです。
キタジマ:ありがとうございます。では……。
花原:はい、どうぞこちらへ。
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以下、怪幻院内応接室での会話。
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小之原:初めまして、敷島研究所から参りました、小之原日香里と申します。本日はよろしくお願いします。
キタジマ:同じくキタジマケントです。よろしくお願いします。
久瀬川:はい、よろしくお願いします。私は久瀬川瞬と申します。怪幻院全体を管理していますので、当院に関する質問があれば何でもお答えしますよ。
(8分29秒、現状説明のため中略)
久瀬川:私たちの推測ですが、轆轤は活動圏を徐々に広げています。そうなると、「視怪」であるキタジマさんが真っ先に狙われてしまうことになります。今後、異界調査の際は小之原さんだけで行った方がよさそうです。
キタジマ:……そうですね。リスクは冒せません。
久瀬川:こちらで収集した情報資料を共有しますので、帰りに保存していってください。インターネット回線はこちらの端末から設定できますので、終わり次第守衛の花原に返却をお願いします。
小之原:ありがとうございます。それと、一つ聞きたいことがありまして。
久瀬川:なんでしょうか。
小之原:過去に、異界で「視怪」の存在が確認された事例はありますか?
久瀬川:……あります。大抵は既に死体となって転移されますが。
小之原:それはどうやって確認を?
久瀬川:ここから半径10㎞を観測できる生体反応レーダーを導入しています。転移などで急に発生した生命体の反応を、レーダーで観測して情報室にデータが転送される仕組みになっています。
小之原:……六年前、岡野咲という人物が誤って異界に立ち入った事例があります。彼女が異界へ入ったときの場所は沖縄県ですが、座標の固定をしていなかったので、ここら辺に転移されたと見ているのですが、どうでしょうか。
久瀬川:六年前となると、さすがに覚えていませんね……来訪履歴は情報資料として残っていますので、後ほど確認の方をお願いする形で大丈夫でしょうか。
小之原:はい、ありがとうございます。
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久瀬川さんとの会話の後、正式な手順を踏んで、キタジマと小之原は現実世界に帰還しました。
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