第13話 副水路の拡張と、増える見回りの必要

副水路へ向かう道を歩くと、

湿った風が頬を撫でた。


水路の音が昨日よりもはっきりしている。

それだけで、領地全体の空気が軽くなったように感じる。


マリアが隣で微笑んだ。


「ここまで流れが戻るのは、本当に久しぶりです」

「副村にも届いているか確認しよう」


視界が淡く表示を出す。


『副水路:流量安定

 副村到達:可能性 高』


良い兆しだ。



副水路に到着すると、

昨日まで流れていなかった場所に、

白い筋のような水の線が続いていた。


アズベルが驚いたように息を漏らす。


「……すげぇ。

 本当に副村まで届くぞ、これは」


ドランも感慨深げに言った。


「これで第二村の畑も生き返る。

 領地全体の収穫が一段階増えるぞ」


視界の表示が変わる。


『農地復旧率:+14%

 領民満足度:微上昇』


水は嘘をつかない。

流れが戻れば、人も戻る。


俺は副水路から村へ向かう小道を確認した。


道は狭く、木々が多い。

そして──足跡が増えている。


アズベルが近づき、跪いて地面を触った。


「……ここ数日で、通った人数が増えている。

 ただの村人じゃない」


「何人だ?」


「三、いや四……。軽い足取りと重い足取りが混ざってる。

 見回りの兵じゃないのは確かだ」


視界に淡く文字が浮かぶ。


『街道周辺:人の流入 増

 目的:不明

 治安リスク:上昇』


嫌な気配だ。


「盗賊か?」

俺が問うと、アズベルは首を横に振る。


「いや……盗賊にしては規則的すぎる。

 この足跡は“偵察”のそれだ」


マリアが不安そうに口を開く。


「偵察……?

 グレイスに何のために……」


アズベルは地面を指差した。


「見ろ。

 同じ方向から来て、同じ方向に戻ってる。

 これ、完全に“道の確認”だ。

 位置と間隔も揃っている。素人の足跡じゃない」


視界が小さく震える。


『外部要因:増加

 領外組織の可能性:中』


外からの干渉が強くなっている。


副水路が復旧したことで、

グレイスが“狙う価値のある領地”になった、ということだ。


俺は判断した。


「アズベル、見回りを一人増員する。

 街道に近い場所を重点的に見ろ」


「了解した」


「ただし──兵は増やしすぎるな。

 内政が止まれば、復興が遅れる」


アズベルは短く頷く。


「分かっています。

 最小限で動きます」



副村へ着くと、

村人たちが水桶を持って歓声を上げていた。


「見てくれ! 本当に水が来たんだ!」

「これで畑を捨てずに済むぞ!」


その顔には、疑いも不安もない。

ただ、純粋に“救われた”という表情だった。


視界に文字が浮かぶ。


『領民感情:信頼 → 結束へ移行始まり』


水が人をつなぎ、

土地をつなぎ、

領地をひとつに戻していく。


俺は村人の声を聞きながら、アズベルに言った。


「……水が戻ると、情報も人も流れ込む。

 良いものも、悪いものも」


「その通りですな。

 ここからが本番でしょう」


副水路の音が、遠くまで響いている。


その音の裏に──

別の“何か”が近づいてきている気配が、確かにあった。


水は戻った。

土も動き始めた。


だが、

次に揺らすのは“外の人間”かもしれない。


それでも進むしかない。


領地が息を吹き返すなら、

避けられない段階だ。

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