第13話 副水路の拡張と、増える見回りの必要
副水路へ向かう道を歩くと、
湿った風が頬を撫でた。
水路の音が昨日よりもはっきりしている。
それだけで、領地全体の空気が軽くなったように感じる。
マリアが隣で微笑んだ。
「ここまで流れが戻るのは、本当に久しぶりです」
「副村にも届いているか確認しよう」
視界が淡く表示を出す。
『副水路:流量安定
副村到達:可能性 高』
良い兆しだ。
◇
副水路に到着すると、
昨日まで流れていなかった場所に、
白い筋のような水の線が続いていた。
アズベルが驚いたように息を漏らす。
「……すげぇ。
本当に副村まで届くぞ、これは」
ドランも感慨深げに言った。
「これで第二村の畑も生き返る。
領地全体の収穫が一段階増えるぞ」
視界の表示が変わる。
『農地復旧率:+14%
領民満足度:微上昇』
水は嘘をつかない。
流れが戻れば、人も戻る。
俺は副水路から村へ向かう小道を確認した。
道は狭く、木々が多い。
そして──足跡が増えている。
アズベルが近づき、跪いて地面を触った。
「……ここ数日で、通った人数が増えている。
ただの村人じゃない」
「何人だ?」
「三、いや四……。軽い足取りと重い足取りが混ざってる。
見回りの兵じゃないのは確かだ」
視界に淡く文字が浮かぶ。
『街道周辺:人の流入 増
目的:不明
治安リスク:上昇』
嫌な気配だ。
「盗賊か?」
俺が問うと、アズベルは首を横に振る。
「いや……盗賊にしては規則的すぎる。
この足跡は“偵察”のそれだ」
マリアが不安そうに口を開く。
「偵察……?
グレイスに何のために……」
アズベルは地面を指差した。
「見ろ。
同じ方向から来て、同じ方向に戻ってる。
これ、完全に“道の確認”だ。
位置と間隔も揃っている。素人の足跡じゃない」
視界が小さく震える。
『外部要因:増加
領外組織の可能性:中』
外からの干渉が強くなっている。
副水路が復旧したことで、
グレイスが“狙う価値のある領地”になった、ということだ。
俺は判断した。
「アズベル、見回りを一人増員する。
街道に近い場所を重点的に見ろ」
「了解した」
「ただし──兵は増やしすぎるな。
内政が止まれば、復興が遅れる」
アズベルは短く頷く。
「分かっています。
最小限で動きます」
◇
副村へ着くと、
村人たちが水桶を持って歓声を上げていた。
「見てくれ! 本当に水が来たんだ!」
「これで畑を捨てずに済むぞ!」
その顔には、疑いも不安もない。
ただ、純粋に“救われた”という表情だった。
視界に文字が浮かぶ。
『領民感情:信頼 → 結束へ移行始まり』
水が人をつなぎ、
土地をつなぎ、
領地をひとつに戻していく。
俺は村人の声を聞きながら、アズベルに言った。
「……水が戻ると、情報も人も流れ込む。
良いものも、悪いものも」
「その通りですな。
ここからが本番でしょう」
副水路の音が、遠くまで響いている。
その音の裏に──
別の“何か”が近づいてきている気配が、確かにあった。
水は戻った。
土も動き始めた。
だが、
次に揺らすのは“外の人間”かもしれない。
それでも進むしかない。
領地が息を吹き返すなら、
避けられない段階だ。
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