憧れだけじゃ届かない――それでも俺は英雄を目指す
海鳴 雫
森喰らう心臓(ハート)
第1話 憧れと現実の狭間で
英雄になりたい。
それは子どもの頃から、俺――リアン・クロードがずっと口にしてきた夢だ。
きっかけなんて、単純なものだった。
村を救った英雄の姿を見たあの日。
焼け落ちる家々の前で、彼は立っていた。
誰よりも勇敢で、誰よりも美しくて、そして……誰よりも、遠い存在だった。
だから俺は思ったんだ。
「いつか、あんな英雄になる」って。
◆
十五歳になった今、俺は小さな
得意武器はダガー。
小さくて扱いやすいが、威力も射程も中途半端。
仲間からは「器用貧乏」なんて呼ばれる。
それでも俺は、信じていた。
――努力すれば、英雄にだってなれる。
そんな俺に、初めて“チャンス”が訪れた。
「ボス
ギルド長の言葉に、思わず拳を握った。
夢の入口が、ようやく目の前に開かれた気がした。
◆
森の奥、濃い霧の中で、獣の唸りが響いた。
全身に黒い毛をまとい、血のような赤い眼を光らせる狼――ブラッド・ウルフ。
ボス個体と呼ばれるだけあって、気配だけで全身が凍りつく。
「……やれる。俺なら、やれる」
震える声で自分に言い聞かせた。
ダガーを構え、駆け出す。
だが、一撃目で悟る。――届かない。
速い。硬い。
刃が弾かれるたびに、腕が痺れた。
跳ね返され、地面に叩きつけられる。
息が、吸えない。
視界がぐらりと揺れる。
――英雄どころか、生きて帰れないかもしれない。
絶望が喉を塞いだ、その瞬間。
「リアンッ!!」
銀の閃光が闇を裂いた。
双剣が唸り、狼の体を貫く。
刃が交差するたびに、火花が咲く。
その背中を、俺は見上げた。
「セリア……」
俺の幼馴染、セリア・ルーミエル。
年上で、強くて、美しくて、俺がいつも追いかけてきた人。
彼女の双剣が最後の一撃を放ち、ブラッド・ウルフが崩れ落ちる。
「……また無茶したね」
そう言って笑う彼女の顔を見て、胸の奥が焼けるように熱くなった。
助けられた安堵よりも、
守られる悔しさの方が、ずっと強かった。
◆
夜。
ギルド裏の訓練場。
俺はひとり、月明かりの下でダガーを振っていた。
何度も、何度も。
手が痛み、血が滲んでも、止められなかった。
振って、振って、振って――何も変わらない。
「どうすれば……強くなれるんだ……?」
誰もいない空間で呟いた声が、虚しく響いた。
セリアのように速くなれたら。
セリアのように強くなれたら。
あのとき、俺が彼女を守れたのだろうか。
悔しさと情けなさが混ざって、喉が詰まる。
英雄を夢見た少年は、現実の壁の前で立ち尽くしていた。
それでも、諦めるわけにはいかない。
――俺は、英雄になりたいんだ。
あの背中を、追いかけたいんだ。
その夜、初めて「強くなりたい」と本気で願った。
そして、それが俺の苦悩の一日目となった。
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