第4話

 中学一年から高校一年の今まで、ぼくらは同じクラスだ。

 それは入学したあとの新入生合宿のときに決まった。

 中学受験のストレスのぶつけ場所をみんな探していたのだろう。

 三時間でクラスメイトのパワーバランスは決まり、「陰キャ」とくくられた僕たちは三日間いじめられた。

 食事のとき僕らの分を全部奪われたり、入浴時に熱湯のシャワーを浴びせられたり、着替えを全部水浸しにされたり。

 御本真由が性的暴行を加えられたと誰かが話していて、僕はこいつら全員死なせなきゃ駄目だと感じた。

 ソフトボール大会が終わったあと、僕は片づけた金属バットを盗みに行った。

 僕らはそこで初めて出会った。同じようにいじめられているなとだけ認識していた奴らは、そろいもそろって平然と人を金属バットで殴ることが出来るような頭のネジが外れている人種だった。あの早波玲さえも。

 ブルーシートを見つけたのは荒木だった気がする。僕らは肝試しのときにクラスの核となった陽キャの班、御本を襲ったグループを狙うことにした。

 捕獲グループがブルーシートをかぶせて視界と自由を奪い、執行グループは金属バットでめちゃくちゃにぶん殴る。動かなくなり声が止むまで辞めなかった。加減なんて微塵も無い、全員が明確な殺意を振るっていた。

 結果的に死人が出なかっただけで、殺したけど結果論として殺せなかっただけで、あの夜の僕らは完全に殺人鬼だった。

 当時の東京都知事、現在は衆議院議員の娘である御本真由が性的暴行を加えられた復讐として、文部科学省事務次官の娘である早波玲、旧帝大の医局の教授が父親のいーくん、旧財閥が前身の企業グループの代表、その直系の子孫である市川八雲、大手タレント事務所社長と有名女優の娘である藤宮晴日、世界的作曲家を父親に持つ荒木、銀行の決済システムや証券取引システムなど、日本の公共インフラを支配している巨大IT企業のCEOが父親である伊坂美琴、そして警視総監の孫であり警視長の息子である僕を含めた集団暴行が起きた。

 栄翔学園は超難関校であるので、確かに親が高い社会的地位に居る生徒は掃いて捨てるほどいるのだが、入学直後、まだお互いの背景をよく知らないまま「陰キャ」とくくられいじめられた僕たちの親は偶然にも洒落みたいなメンツだった。

 当然、事件は公にならなかった。教師は僕らをひとまとめにして管理する為ぜったいに僕らを同じクラスにする。

 そう。ぼくらは自覚的に徹底的に親の虎の威を借りまくり、使いこなし、振りかざして悪びれもしなかった。

 親の金で生きて、親の権力を盗む術に精通し、DNAを経由したギフトである高い知能や才能を振り回すこと。

 僕たちは全員それら全ての傲慢さと浅はかさと未熟さと幼さと残酷さと醜さを深く理解した上で、それら全てを後悔したり躊躇することは欠片も無い。

 人生は配られたカードで勝負するしかないって言うだろ?

 配られた大量のジョーカーで勝負してるよ。

 殺そう、と言った僕に伊坂美琴が応える。

「サクくんのお父さんと、サクくんのお父さんが大事にしてる同僚や後輩が不正捜査を行った証拠、これで捜査資料をゆすれると思う」

 市川八雲が言う。

「ペット用の火葬車両があるんだ。残った骨も完全に粉にしちゃえばいいんじゃねえかなあ」

 いーくんが言う。

「被害者は全員うちに搬送されてる。入院してる人にも退院した人にも聞き込みできる言い訳でっちあげたらさ」

 御本が

「さっきパパの秘書に頼んで一般公開されてる情報は全部——」

 荒木が

「拷問するなら俺の隔離されてる家にも防音室が——」

 全員の瞳は満月の無い夜のように無慈悲で黒く光って。

 雁首揃えたジョーカーが、遂に子供の一線をあっけなく越えた。

 なんで僕は殺そうなんて誘ったんだ。なんでみんな平気で共犯者なんだ。

 僕らのジョーカーは子供のおもちゃで、連続殺人なんかに太刀打ちできないって分かってるはずなのに。みんなそれが分からないほど出来の悪い脳味噌じゃないのに。

 あ、そうか。

 それはひどく簡単で。

 僕らは、友達だったんだ。

 そういう論理。

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