第3話

 死にてえ。ああ死にてえ。ぶち殺してやろうか。この脳味噌ごと腐れ病をぶちまけてやあろうか。

 ベッドで僕は鬱の苦痛にのたうち回る。

 ベッドサイドテーブルに置いた灰皿には山盛りのピースとウイスキー。

 酒を飲んでしまいたいが今判断力を失ってしまうと自殺他害の恐れがある。

 いーくんストアはリタリンやコンサータまで扱っている。

 ほかの薬よりも高いが塩酸メチルフェニデートはそこらの売人でもそうそう取り扱っていない。コカインや覚醒剤の方がまだ簡単に手に入るが、僕らのノリで違法薬物は大麻とLSDまでがラインだ。

 頭を壁に叩きつけて気合で起き上がり、引き出しからリタリンを取り出して噛み砕く。

 灰皿の吸い殻を窓の外にぶちまけて、ベッドに横になったままきちがいみたいに煙草を吸い続けた。

 ドーパミンがレセプターを静かに強姦し始める。殺気立ったお悩みで僕はにやにや笑っている。

 リンロン、リンロン、リンロン、リンロン、リンロン、リンロン、リンロン。リンロンリンロン、リンロン、リ。

 デスクトップからDiscordのの着信音が流れた。画面には荒木孝太郎のハンドルネーム。

 僕はヘッドセットを着けて応答した。

 「死ね」

 「おいサク、今なにしてんだ」

 「なにしてるってなんだよ死んでんだようるせえな殺すぞ」

 「レイが死にかけててもかよ」

「あ?」

「レイが殺されかけたんだよ変身バットに。今手術終わったけど意識不明なんだよ病院帰りに襲われたんだよ」

 ぼくは核爆発を起こす。

 ヘッドセットをぶん投げて思いつく限りの殺意を叫び散らかしながら家具と壁にめちゃくちゃにナイフをぶっ刺していくだからガラスケースに飾られるべきなんだ外になんか出すべきじゃないんだ世界が触っていい女の子じゃないんだ早波玲という少女は世界を殺そう窓から飛び降りようとしたあたりで鍵の開く音がして部屋に飛び込んで来た伊坂美琴が僕を羽交い絞めにするので殺しちまおうと刃先を向けたところで改造スタンガンを頭に押し付けられる。

 視界がブラクラみたいに点滅して、僕は気を失った。

 気がつくといーくんの親父の大学病院。その中で僕らが私的利用してたまり場になっている空き部屋の中のソファに僕は転がっていた。

 僕。

 藤宮晴陽。

 早波玲。

 伊坂美琴。

 荒木孝太郎。

 市川八雲。

 御本真由。

 いーくん。

 入院病棟で眠っているお姫様も含めると、全員揃っている。

 栄翔中学高等学園で「陰キャ」というカテゴリーは僕らだけのもの。

 それはみんな「この眼」になることが出来るから。

 そういう論理。

「殺そう」

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