第7話 予期せぬ再会

「始まりは風だった。北から吹く風がいつもより強いと思ったけど、その日はそれだけだった。でも、翌朝には植えたばかりの種が風に飛ばされていたの。しかも、領都レヴィンにある畑全てで同じことが起こったのよ」


 飛ばされた種を見つけたり新しい種を買ったりして、それらを植えた。数日間強い風が吹かなかったから、単なる偶然だろうと誰もが思ったらしい。


「芽が出てきて安堵しても連日連夜の雨になったり、日照り続きだったりですぐに芽が枯れてしまったわ」

「……それは不自然ですね」

「えぇ、そうなのよ。おまけに魔力に敏感な人が北風に魔力がのってるなんて言い出してね。王国の北に棲む魔女……えっと、誰だったかしら」

「谷の魔女ですか?」

「そう、その魔女のせいじゃないかって噂が立ったの」


 宿屋の人は頬に手をあてる。


「先代の領主様は病で亡くなったし、新しい領主様も数年で領地運営が経営破綻して領主様じゃなくなったし、元領主様の弟さんも行方不明って噂よ。今は王都からいらしたお貴族様が管理しているけど、この街はどうなるのかしら」

「……」


 レヴィンの問題は思ったより深刻で、私は何と言ったらいいのかわからなかった。


「ごめんなさいね、旅の人にこんなこと言っても困るだけよね。明日にでもレヴィンを発って、ここのことは全て忘れた方がいいわ」

「そんな、放っておけないよ! 何かあたし達が力になれることはある?」


 お人好しなエマがお手伝いを買って出る。彼女の一言で狼の集い全体の行動も決まるのを知らないのだろうか。せめて手伝いを申し出る前に、相談してほしい。


「そうね……ここから北に少し歩いた先にある山の魔物が増えて、私達じゃ手に負えなくなったの。最近はここを拠点にする冒険者も減ってしまって……宿泊費を無料にする代わりに魔物を討伐してくれないかしら?」

「ちょっと仲間と相談させてね!」


 私の思いが通じたのかどうかわからないけれど、エマはすぐに頷かずにこちらを振り返った。


「レヴィンに着いたばかりだけど、お姉さんの依頼を受けてもいいかな?」

「もちろんだぜ! どんな魔物が出てくるか楽しみだな!」

「王都からそれほど離れていないから見慣れた魔物しか出ないと思うけど、魔物討伐は賛成だよ。路銀が少ないからね」

「私も賛成」


 特に拒否する理由も浮かばなかったので、周りに合わせて賛同する。仲間全員の意見を聞いたエマは女主人に向き直った。


「その依頼、あたし達『狼の集い』が受けるよ!」

「助かるわ、引き受けてくれてありがとう」


 街中は女主人の言った通り食料も人手も不足していた。仕方がないので、近くの村で買ったパンや干し肉を食べて一夜を明かした。


 翌日、私達は女主人が話していた山の麓に来ていた。無数の魔力を感知できるのに、人の魔力は全くと言っていいほど感知できない。本来は山に生息しているはずの魔物が街の近くにまで出没している。状況は思ったより深刻のようだ。


「魔物が群れで襲って来る可能性が高いから、こちらも離れることなく戦おう。皆、準備はいいかい?」

「うん!」

「もちろんだぜ!」

「ん」

「魔物討伐開始!」


 私達は前衛のレオを先頭に山へ足を踏み入れた。木の上からすぐに魔物の群れが襲ってくるけれど、レオの拳と私の土の矢で全員倒れた。

 カイの下調べによるとこの山に出没する魔物は全て中級冒険者でも倒せる魔物らしい。けれど、数が多いから油断することなく狩っていく。解体する時間が惜しいので、胸を一突きして魔石を得る戦い方だ。


「それにしても、魔物多くない!? ちょっと休憩がしたいんだけど」

「ソフィ、この辺りに魔物が少ないところはないかい?」

「山頂付近」

「じゃあそこに……」

「いや、通常の魔物が寄りつかないところには変異種が住み着いてる可能性がある。本当に安全な場所かい?」


 魔物の攻撃を土の壁で防ぎながら山頂を見上げて魔力を探る。不自然なほど魔力を感知できないけれど、変異種も含め魔物が生息しているわけではなさそうだ。


「多分問題ない」

「じゃあ、そこに向かいながら魔物を倒そうか」


 私達は山を登りながら魔物を討伐していく。次第に魔物は数を減らしていき、開けたところに出たときにはゼロになった。


「あれ、誰かいる?」


 山頂に魔物はいなかったけれど、先客はいた。無造作に伸びた銀髪に背中の大剣。知っている魔力を感知して、心臓がはねた。


「もしかしてルドルフ?」

「アニキじゃねーか!」


 そう、狼の集いの元リーダー、ルドルフだ。何でこんなところにいるかはわからないけれど、再会できたことは喜ばしい。けれど、どこか違和感がある。


「無事でほんとに良かったぁ」

「今までどこに行ってたんだよ?」


 エマとレオが無警戒に近づく。ルドルフの手が大剣に伸びたのを見て、カイが顔色を変えた。


「二人とも下がって!」

「え?」


 カイがエマの服を引っ張って下がらせ、レオの前に躍り出て盾を構える。ルドルフが大剣を振り下ろして火花が散った。


「エマに手を出すなんて、どういうつもりだい兄さん」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る