6話 佐藤たろう : 起


──ずいぶん、タイミングがいいじゃない?


あの粗大ゴミは今日の昼までずっと学校に来ていなかった。別に、私たちの溜まり場が体育倉庫なんてことはクラスの誰でも知っている。だから私たちが教室にいなければここに来る可能性はたしかにある。仮に知らなくてもクラスの連中に私たちの居場所を問い詰めれば、それもまたここまで辿り着けるかもしれない。


…そこまではいい、問題は──タイミング


私たちが扉を閉め、すずめを囲んで“お昼のお食事”を始めようとした、その一瞬。

ほんのその一拍を狙ったみたいにあのバカは硬式ボールを扉に叩きつけて登場した。


来るのが少しでも早ければ私たちと廊下で遭遇していただろうし、遅ければ彼の“愛し”のすずめちゃんはもう“食べられちゃった”後だっただろう。


──けど彼は今、ここまで来た


それに──あのリュックサック。

きっとコイツはあのリュックサックの中にボール以外の“なにか”を持ってきていた。もしくは… “なにか”を入れるつもり?


──コイツはいつから私がすずめを“ここまで”追い詰める可能性を想定していた?


「…俺さ、商売しようと思うんだ」


──は?


「欲しいモノってたくさんあんじゃん?漫画だって全巻揃えたいし、欲しいゲームも山ほどある。そしたらお年玉なんかじゃとても足りない。それにウチは他のご家庭のようにお小遣いの制度もない…父さんも大して売れねぇ小説家だしケチというか貧乏なんだよ、貧乏」


──知らねぇよ


粗大ゴミが喋り続ける。


「YouTube見てたらさ。ホ…ホリ…なんだっけ…とにかく、頭良さげなおっさんが若者は起業すべきだとか言ってたんだ。若い内は失敗しても立ち直りやすいって。だから俺もちょっと商売やってみよっかなって。いい考えだろ?幸い、売れそうなモノが手元にあって──」 


「──さっきからさ!なんの話してんの?キモ話を長ったらしく聞かせないでくれる?」


──コイツに会話の主導権を握られるな


「ゴメンゴメン…ちょっとまって…

そうそう、これを売ろうと思ってんだよね」


「何それ…?」


奴はわざとらしく反省してるフリをするとポケットからスマホを取り出す。画面をひと撫でしてまるで“見ろよ”と言わんばかりに私に突きつけてきた。


——動画が再生される。


そこには——すずめを私たちが机ごと囲んで“質問攻め”してるいつもの光景が動画に記録されていた。

返事をしないと机を蹴られ、「気持ち悪い」って笑って最後にはカバンの中身を床にぶち撒ける——あの昼休みの最悪な記録。

日を分けて撮られた複数の動画もある。

それだけじゃない、“ちょっとやりすぎた日”の動画も。


「アンタなんでそんな動画持って!?─────」


「───言っておくけど俺からスマホごと奪って消そうとか機器ごと壊そうとか無駄だぞ。大事な商品だからな、家にバックアップは全部とってある。あと、金ないから壊すのは本当にやめてくれ」


すずめが虐められていた時、あなたはずっと机に突っ伏して寝ていたでしょう!?


私は教室でずっと…“ずっと”あなたを見ていたから不審な行動をしていないのはわかってる!


───いや…違う…この画角!撮っているのは佐藤じゃない!やられた!コイツ、“ひとり”じゃなかった!


私だって馬鹿じゃない、クラスの誰かが堂々とスマホを向けていたらさすがに気づく。気づけばその場で止めてる。もし“陰でスキャンダルとして消費されてた”なら、噂のひとつでも耳に入るはず。そんな話が回っていたら私が見逃すわけないし当然そこで潰してる。


つまり──

私たちに気づかれないように動画を撮り、佐藤たろうだけに渡した人間…『協力者』がいる!


佐藤たろう以外にも、私たちに逆らう奴がいたなんて!


そういうことか!佐藤は“デコイ”だったんだ!

佐藤は寝るだけでよかったんだ!

寝る姿を見せつけて!私たちの目を少しでも惹きつけていればよかったんだ!

協力者が撮影しやすいようにするための!

それだけでコイツの役目は終わってたんだ!


「この動画!誰が撮ったの!?」


「企業秘密」


「……ッ。」



…でも


だから、なに?


たしかに、今回の出来事は“してやられた”と言わざるを得ない。


でも、それぐらい――なんてことない


そのために 真谷ヨウマ がいる。

あいつの家はすずめちゃんちほどではないとしてもこの町ではかなり顔が利く。

この学校にも『献金』をしているらしい。

いじめがバレても、校長ごと“丸め込む”ぐらい簡単だ。


―そのとき


「───マイ、俺ここで抜けるわ」


「───ヨウマ!?」


「あ!? どういうことだテメェ!!」


レオが跳ねるように怒鳴る。


たしかに佐藤の言うとおり“だった”な。

真谷ヨウマはあの朝のことを思い返し、そう思った。

──二日前。土曜日の早朝

佐藤たろうは、周囲の家より一回り大きい真谷家の玄関チャイムを遠慮もなく押した。


「なんの用だよ」


眠そうな声のヨウマに、たろうは淡々とスマホを掲げる。


「これ。ちょっと見てほしくてさ」


画面には、例の“教室のいじめ動画”。


「へぇ…こんな動画撮ってたんだ。やるじゃん佐藤。

んでなに?先生にでも報告すんの?それとも親に?さすがに親に言うなら止めるけど、父さん俺に激甘だからなぁ…」


「いや、親に見せるわけじゃない」


たろうは静かに言った。


「会社のホームページに載ってた、社長のメールアドレスに送るよ。草松工務店に」


「…なんだと?」


そうだ、真谷ヨウマ。

お前の家は金も権力も持ってるんだろう。

確かに、俺一人くらい簡単に踏み潰せるのかもしれない。

──でもな

現実の“金持ち”ってのは漫画の悪役みたいに、誰も逆らえない絶対王者じゃない。

社会全体を見渡せば、お前らの会社だって経済社会の歯車の一つにすぎない。

“上”にも、“横”にも、“後ろ”にも、いつだって虎視眈々と隙を狙ってる競合企業がいる。


「草松工務店は、真谷建設と○○の受注で揉めてる最中なんだよな?

こんな動画、たしかに“ただのいじめ動画”かもしれない。でも、敵からしたら……利用価値ぐらい、いくらでもあるんじゃないか?」


「……お前、どこで草松工務店の名前なんか知った」


「別に。この辺のことちょっと詳しい大人ならすぐわかるよ。例えば、ちょっと“わるい人”とかね

…で?どうする?俺の言うこと聞かないなら、リアルタイムで送信するけど」


「…待て、わかった。要求はなんだ」


「一つ、鈴木すずめから手を引くこと。いじめが露見しても安藤マイらの味方をするな。

二つ、安藤マイが、いよいよ“鈴木すずめをどこかに連れていく”って動き出したら迷わず俺に連絡すること」


「…わかった。要求を飲む」


「ありがとう。話が早くて助かる」


真谷ヨウマ…コイツは虐めにも極力参加せず傍観することが多かった

どうせ安藤マイは真谷ヨウマに利用価値を見出して一緒につるんでいたのだろうが、真谷ヨウマも安藤マイを所詮利用していたにすぎないのだろう

それはおそらく暇な学校生活に刺激を求める、暇つぶし程度の話

彼は親の会社をいずれ引き継ぐ身だ。線引きがわかってる。だからこうすれば従ってくれると思った。


「それに…ヨウマもどの道気付いてたんじゃないかな」


「…?なんの話だ」


「安藤マイについて行くのは“割に合わない”って」


───そうだな、“これ”は割に合わない


ヨウマは体育倉庫で、すずめが本当に“危なかった”あの瞬間を思い出す。

そして、言葉もなく真谷ヨウマは体育館裏を後にした


「なんなのアイツ!?信じられない!」


マイは状況を理解できず怒鳴っている


たろうはまた口を開く


「それにしても、ユウタ…いや、マイベストフレンド…俺は悲しいよ。俺たちはあんなに屋上で熱く将来の夢を語り合った仲なのに」


「な、なんだよいきなり…別にお前と友達じゃねーだろ」


ユウタは困惑している


「何言ってるんだよユウタ!

…あれ、そういう設定だったか。お前の母さんに会うための」


「は?」


「ユウタ…あんまり学外の友達と外で遊んでばっかりじゃダメだぞ?まだ小さい兄弟だってたくさんいるし家事を手伝ってあげなきゃ。

俺、1週間前ぐらいからユウタがいない間にお邪魔してたんだよね。親友のユウタくんのおうちに行って『友達1周年記念日』のサプライズの準備をしたいってお前の母さんに相談してたんだ。兄弟と遊んであげたらすごい喜んでくれて今はもうお前の家族と仲良しだよ

サプライズしたいからお前のウチに行ってることはまだ内緒にしてくれって母さんにお願いしてたけどな」


ユウタには思い当たる節があった。

ここ1週間、母さんはなぜか俺が外で友達と遅くまで遊んで帰っても機嫌が良かった。

まだ2歳の弟がなぜか「桃太郎」の本を何回も読んで欲しいとねだってきた


「そういえば…どうして今日俺が学校に遅れたと思う?」


「な、なんだよ…」


「お前の母さんに、お前の学校での生活を記録した“例のサプライズ用のDVD”を渡しに行ってたからだよ。サプライズの日まで見ないでねとは言ったけどどうだろうなぁ…」


「…」


「ワンチャン、家事しながら見てるか?」


「…おい!!!!」


「走れよユウタ、母さんを不幸にするな。お前が家族を守るんだ」


「くそぉ!!!!」

  

うおおおおおおおお、と

ユウタは親友の声を聞いて走り出した。

あれ?LINEでもして母さんに連絡すればいいのでは?とたろうはちょっと思ったがもうとっくに遠くに見えるユウタの背中を見て諦めた




──よし、これで不安材料は排除した

後ろ盾のヨウマとガタイのユウタ

あいつらは普段、すずめの虐めに傍観していることがほとんどだったがいざアクションを起こした俺が真正面からぶつかることになれば、この二人は“割に合わない”相手だった。



「──もういいわ」


低く、乾いた声が前方から響く


「アイツらもバカだよな。もう動画撮られてんなら、いつでもこっちをどうとでもできるってことじゃねーか。今さらびくびくしても仕方ねぇよ」


そうだよ、レオ


「────コイツ、潰すぞ」


言葉と同時に、レオが一歩前に出る。

スイッチが入ったように空気が変わる。

レオのすぐ後ろについて行く形でタイチがついて行く。



マイとレオ、タイチの家庭も簡単に調べたが、

一つわかったことは彼らの家庭はヨウマやユウタのように失うものがない。

ただその場のテンションと短い衝動で生きている、ちゃんとした“不良のご家庭”だった。

きっとレオは後先考えずに今、この瞬間だけを見て全てをかなぐり捨ててでも俺を潰す気だ。最悪の場合、少年院にでも入る気なのだろう。


──その目が、完全に俺を標的として捉えている


── 一瞬、安藤マイが笑ったような気がした



レオが踏み込んだ瞬間、その場の空気がひりついた


「──────死ね」


低い姿勢から跳ね上がる蹴り。

素人が受ければ、一撃で倒れる角度と速度。


しかし──

たろうはわずか半歩、身体を引いただけで衝撃のほとんどを流した。


レオは間髪入れず、今度は頭を狙う高い蹴りを繰り出す。リーチの長い脚が弧を描き、空気を裂く。


普通なら避けられない。

だが次の瞬間、理解できない光景が起きた。


たろうがその足を掴んだのだ。


「──────あ?」


レオの表情が止まる。

蹴り足を片手で捕まえられるなど、路上の喧嘩ではまず起こらない。

掴まれたレオの身体が不自然に背中側へ傾く。

重心を失う。


その動作は技というほど複雑ではない。

しかしタイミングは完璧で、

レオの膝裏が払われた形になった。


「ぐァっ!?」


レオはまるで自分から倒れに行ったかのように、顔面から地面に崩れた。


「えっ、なに、は?」


タイチが呆然として言葉を失う。


────今だな


レオが起き上がる前に、たろうはすでにタイチのほうへ向かっていた。

攻撃の流れを読んでいるかのような、淀みのない移動。

タイチは反射的に後ずさったが、その“逃げ腰”が、逆に隙を生む。

たろうの踏み込みに迷いはなかった。


「ぎぃ"ッ!」


拳がタイチの顔面に直撃する。

鋭い音とともにタイチの身体がよろめき、尻餅をついた。


────なにか衝撃があったな、鼻が折れたか


タイチが顔面を両手で覆っている。

包んだ手のひらから血が滲み出ている。


「なに…これ」


マイは状況を理解できないまま固まっていた。


地面に叩きつけられたレオだったが、

数秒の沈黙のあと、荒い息をついて身を起こした。

レオの目に宿ったのは、先ほどまでの軽い苛立ちではなかった。

もっと原始的な、獲物に喰らいつく肉食獣の目だ。



「なんなんだ……てめぇ……。もう一回、潰すッ!!」


殴り慣れたストリートスタイル。

肩と腰が一直線に力む“素人の喧嘩のフォーム”だ。


「(コイツ…!)」


普通は、気づかない。

だがレオは路上の喧嘩を何度も経験してきた。

“殴り慣れた人間”だけが分かる違和感があった。


たろうが構えたフォーム、

肩の高さ、重心の落ち方、手の角度……

どれも格闘技に無縁の、素人のそれではない。


レオが舌打ちとともに踏み込む。


拳が振り下ろされる。

速度は速い。

全体重を乗せた一撃。


しかし、たろうはそれを受け止めなかった。

真正面から向かい合ったまま、

ほんの数センチだけ身体をずらした。


レオの拳は空を切り、肩の筋が軋む。


「(間違いねぇ…!コイツ…!)」


レオのフックが空を切り、

腕が伸び切ったその一瞬──

たろうの低い姿勢から繰り出された蹴りが、

レオの脛の外側へ鋭く叩き込まれる。


「ッ……!!?」


────間違いねぇ!コイツ、“技術”を持ってやがる!


レオ…お前は知らないだろうが、

俺はこの1週間、ただ寝ていたわけじゃない。

ヤクザは、実際には映画や漫画のように“百人殺し”とか“暗殺拳法”とか“武術マスター”とか…そんな人たちは存在しない

実際には、日頃から酒を飲んでるせいか腹が出た中年のサラリーマンに見間違えるか、喧嘩するにも介護の手助けが必要な老人がほとんどだ


じゃないと、脅し文句なんて“虚勢”は存在しない 


…でも、腐っても暴力組織ではある

中には、人並み以上には格闘技を使える人間も存在しなくはない

鈴木総業の、黒いシャツ黒いネクタイ黒いスーツに身を包んだモサモサ髭のコワモテのおっさん…黒蜜(くろみつ)がそうだった。

俺は放課後や土日はほどんど鈴木総業に出向いて黒蜜に総合格闘技を基本とする基礎を教えてもらってたんだ。

だから土日にお前たち“不良の子”がすずめを呼び出していなかったのはわかった。


レオ…俺は賭けたんだ

お前があの時、俺を睨んだ眼に、俺は隙を見た

お前は俺に“虚勢”を張ったんだろう?

お前は確かに喧嘩慣れしている

でもそれはきっと、“不良の喧嘩”の範疇だ

自分より格下の弱者かあるいは同レベルの不良か…

だから、俺は“技術”を学ぶことにした


俺はこの1週間、

たくさん格闘技の練習をして、たくさん筋トレして、たくさん走って、たくさん食べて、たくさん寝て(学校で)

今の俺がいる。

それがこの結果だ

俺は賭けに勝ったんだよ、レオ


ガンッ。


「ぐあぁッ!!!!」


レオは叫び声をあげた。

2度目のカーフキック、

先ほどより深い衝撃が、

レオの脚の骨にまで刺さるように響く。

足が一瞬、身体の重みを支えきれず折れかける。


「(これはヤベェ…!一旦引くしかない…!)」


レオは瞬時に判断した。

レオは痛みで崩れたふりをし、

大げさに後ろへよろめく。

そして、振り返りざま

背中を見せて必死で地面を蹴って走り出す。





──が、

その背後でわずかにレオの膨らんだ黒いパーカーのフードの膨らみをたろうの手が捕らえていた。


「げホッ…!?」


逃げるための勢いで布が引き延びる。


「喧嘩にパーカーは不向きみたいだな」


「ッぐ……! 離せ……離せよ!!」


レオが必死に腕を振りほどこうとした瞬間──

たろうは静かに後ろへ体重を引いた。


レオの身体は大きく仰け反り、

パーカーが引き延ばされる音とともにそのまま仰向けに倒れ込んだ。


「グァッ…!」


背中が地面を叩き、衝撃で肺から息が漏れる。


地面に倒れたレオの胴体の上に、たろうの影が被さった。


ガヅッ!


たろうの拳がレオの顔面に落とされる


「ガッ…!やめろ…!」


──殴る。


「いっ…!やめっ…!」


──殴る。



どうしてこうなった、俺は…何を間違えた。


レオは考える。


妙な確信がある。コイツは…佐藤たろうは、つい1週間前まで喧嘩とは無縁だったはずだ


──殴る。

 

「(コイツ…ちゃんと筋肉付いてんじゃねぇか…)」


そうだ。コイツは、きっと、この1週間

筋トレと格闘技の練習を死に物狂いで練習したんだ


──殴る。


安藤マイは体育館裏の壁際で

恐怖した顔でこちらを見つめている


…だが、それだけでここまで強くなるものなのか?


──殴る。


「(さっきから反撃しようと殴ろうとしてるが、全て手で払われちまう…。これも“技術”か)」


俺たちの戦力は間違いなく揃っていたはずだ


“悪意”で屈服させるならマイ、

“力”で脅すなら俺、

従わせるだけならタイチ

ガタイで威圧するならユウタ

“いざという時”のためのヨウマ


だけどどうだ、この現状は。

俺たちは分断され、俺は無くす術なく潰されようとしている。


──殴る。


「ゲボっ…!も…もう…やめ…!」


──殴る。


レオの顔が横へ弾け、口の端から赤い筋が飛ぶ。

たろうの右手が、赤く染まる。


そうか…そういうことだったのか


──殴る。


「(コイツ… ハイになって…)」


──殴る。


「…ずみ"ま"せ…も"う"……ガァ"ッ‼︎」


──殴る。


コイツは…


佐藤たろうは 俺たちより “暴力” の才能があるんだ

 


──殴る。


「ごめんな"ざぁ"い"い""い"い""い"い"!!!!」


高木レオの叫びは、最後まで響かなかった。


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たろうは立ち上がり周りを見渡す。

顔面血だらけで気絶した高木レオ。

未だに顔を自身の鼻血で汚れた手で覆って、

呻き声をあげている小久保タイチ。


「(べつに鼻が折れたぐらいまだ喧嘩はできるだろうに…まぁ、喧嘩したことないだろうししょうがないか)」


まったく…


一瞬、鈴木すずめに対する彼らの横暴を思い出す。



「どうやら俺の力のほうが強いみたいだな…クソ野郎」



たろうは、レオの血で濁った右手を一回見てから

体育館裏の壁際…安藤マイに目を向けた。


「ひっ…!」


佐藤たろうは、安藤マイに向かって歩き出した。






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戦闘シーンは、ロクデナシ宇宙の『High School Monster』を聴きながら書きました


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