第4話 ブラウニーの多忙

 私はブラウニー。家妖精だ。家事全般を担当している。結構忙しい。朝はまず朝食の準備。


 最初に白湯を出す。


 白湯は聖水を薄めたもので、身体を新鮮にしてくれる。主食は大麦の乾燥シリアル。それぞれの好きなだけ、深鉢に取ってもらう。もちろん手づかみで。食事は基本的に手づかみで食べる。ナイフを使うのは、肉の塊を切るときだけだ。


 ドライフルーツやカボチャの種、クルミなどのナッツもふんだんにある。それも好きなだけ取って、指で混ぜて、啜る。牛乳かヨーグルトをかけて食べるとおいしい。私は夕食の残りで作ったスープも添えるようにしている。


 食後はヨモギと各種ハーブのお茶。クッキーを山盛りにする。若い二人は食欲旺盛なので、クッキーも毎回欠かせない。


 牛乳は我が家のエンプティダンジョンのダンジョントレードで買っているが、それ以外のほとんどは、家の菜園の収穫物か森の恵みだ。


 朝食後はエズモンは薬師、ドーリッテは鍛冶の仕事を始める。どちらの工房も準備万端だ。私が整えてある。ガリウスは午前中は薬師工房に、午後は鍛冶工房で働く。私はガリウスのいない方で仕事がある。


 私に映像記憶というスキルが買い与えられた。エズモンとドーリッテがガリウスに残す上級薬師や上級鍛冶師としての技術を彼等が実演し、私が映像記憶で記録する。映像記憶は念話のようなもので、紙などを介さず直接脳内に伝わる。


 二人は私にガリウスへの技術伝承を託したのだった。


 この間ヴェーナは自分のアトリエで絵をかいたり、自分の工房で糸紡ぎをしたり、染色をしたり、布を織ったりと仕事をしている。この家は全員忙しいのだ。


 夕食までの間に10時、12時、15時にお茶の時間を設けている。お茶の時間は30分くらいで、仕事に集中している時はすっぽかしても問題はない。でもほぼ全員揃う。夏は冷たい飲み物、冬は暖かい飲み物。それを甘くして飲むためのハチミツとメイプルシロップを用意してある。


 普通は15時で仕事は終わる。集中しても17時までというのが、この家のルールだ。15時から夕食の18時までは各自の自由時間。昼寝をしても良し、散歩するもよし、談笑するもよし、近くのモンスターを倒すのも良しである。


 18時の夕食は私の最も力を入れている食事だ。そのために菜園の管理、モンスター討伐、森での採取をしていると言ってもいいほどだ。


 まず自家製のワインを出す。山ぶどう、マタタビ、コクワ、ノリンゴ、イチイなどそれぞれ美しい色で味も良い。夏は中庭で豪快にモンスター肉を焼いても良い。冬はシチューだ。


 モンスター肉は、基本的に邸の周囲で獲れるものが主だ。ほとんどは私が夜に狩ったものだ。角ウサギ、イノシシ、オークなど、それぞれ風味や食感も違っておいしい。魔の森川で罠で獲れる魚や川エビも食べる。


 豆を含む野菜類は菜園で作っている。森で採れる山菜も豊富で、塩漬けした保存食は、時間経過のないダンジョン倉庫に大量に備蓄している。買うのは塩と鶏肉、卵、牛乳、チーズくらいだ。


 ガリウスとヴェーナは仲が良い。彼等は私の思惑通りなった。


 動くミニゴーレム制作。


 それに夢中になっている。私は材料の乾燥した木の枝を大量に用意してある。衣服を作るのに適した端切れは古着から、髪の毛はフォレストウルフの毛を紡いである。私はガリウスを魔道具士に誘導している。


 私はガリウスに、実用的な魔道具をねだっている。魔石コンロ、魔石ランタン、魔石アイロンというメジャーな魔道具を始めに頼んだ。市販のものより効率的で、美しいものができた。美しさはヴェーナのデザイン力が貢献している。


 この家にはお風呂がある。いつでもお湯が出る魔石給湯システム。キッチンでもお湯が出せるようになった。薬師工房で必要な回転式魔石粉砕機はキッチンでも活躍。鍛冶工房で必要な鞴は魔石送風機に。これは居間や寝室の扇風機にもなる。


 しばらくしてガリウスには初級魔道具士のジョブスキルが生えた。これでガリウスの3つ目の職業は魔道具士に決定した。


 魔道具士用の工房を作成。


 素材として金属類が必要になる。そう予測した私は、夜間のモンスター討伐を減らし、近辺の鉱石採掘を始めた。


 最初のマスター、イレイガとの経験が役に立った。


 イレイガは、ズドーライン王国西部のトリアエス近辺を、隈なく歩いていた。そして多くの鉱脈を発見していた。そのほとんどは量が少なく、鉱山経営としてはペイしない。しかし個人が採掘するには多すぎるほどの埋蔵量があった。


 私はイレイガに付いて歩いて、鉱脈の位置を正確に把握していた。イレイガは私に命じて単独での鉱石採掘をさせることもあったのだ。私は記憶をもとに様々な鉱石、ついでに粘土を持ち帰った。鉱石はその場で選鉱している。


 さすがに私では精錬はできない。精錬してくれたのはドーリッテだ。ドーリッテはガリウスに、多様な鉱石の精錬の技を伝えた。そのおかげでガリウスは上級鍛冶師になることができた。


 ガリウスが上級鍛冶師。


 この年齢で信じられないほどの快挙である。


 すべてうまくいっているように見えるが、一つ問題があった。ヴェーナのデッサン力に致命的欠陥があらわになってきたのだ。それは魔道具の設計図を作るときに美しいが、何か歪である感じがすることでわかった。


 ドーリッテの見立てでは、ヴェーナの空間把握力に弱点があるということだった。対処もドーリッテがしてくれた。ドーリッテは何かとてつもないスキルを持っていて、それを封印して生きてきたらしかった。


 聖紋編集スキル?


 そんな聞いたことのないスキルらしかった。詳しくは分からないが、能力値を書きかえることができ聖紋が描けるらしい。ただあまりにも万能ですぎるので、限定的な聖紋を2つガリウスに伝授した。


 1つは見えない能力値まで含めて、すべての能力を平均化する聖紋。しかしこれだけでは弱点は無くなるが、長所も消えてしまう。対処法があって、お金で能力値スクロールを買えば、自動的に減らされた能力値は回復する。


 もう一つはおまけである。5歳でもらえる生活3魔法は火魔法、水魔法、浄化魔法に限定をかけたものだそうだ。その限定を解除する聖紋。


 ガリウスはこの二つの聖紋をヴェーナに適用し、ヴェーナは弱点だった空間把握力を高めて、正確な空間認識ができるようになった。


 数年後、エズモンとドーリッテは相次いで亡くなった。


 笛を吹く人。


 二人はともに笛を吹く人にすべてを捧げて死んでいった。私にはそれが誰のことなのか分からない。二人は何かの神?を信じていたのだろうか。

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