幸福という名の、哀しみ。或いは静物画の中。

母は、私ではなく アリス ばかりを
気に懸けている。頭の中は彼女の事で常に
満たされて、他の事はまるで眼中にない、
 悲しいけれど、仕方がない。
私は愛犬の レオ に、悩みを打ち明け
慰められる日々を送る。

 この小説の、凄まじく秀逸な所は

主人公の空虚で苦しい心の機微を
描き出す、只それだけではなく…。


多くは語らない。

これは哀しみに満ちたミステリーでも
あるのだから。その仕掛けの凄まじさと
驚き、恰もKatharsisへと向かう様でいて
とても柔らかく温かい繭は、決して
瓦解しない。
        させてはならない。

 いや、させなければ。

   でもそこにあるのは、本物の

           空虚。

哀しみと驚きに満ちた優しい寓話。
同時に、ホラーでもあり
秀逸なミステリーでもある。