序章:第2話 絶望の到来
ひとしきり子供たちと遊んだ後、私たちは簡素なシャワールームで体を清め、小窓のような所から出てくる栄養食を食べ、寝支度を済ませていた。
子供たちを寝かしつけ、私とアロマは眠たそうな目をこすりながら、一緒にベッドに入り横になる。
私が寝入ろうとしたその時、アロマが問いかけてきた。
「ねぇ……リツ……自由って、あるのかな?」
私がアロマの方を向くと、彼女は少し泣きながら私に問いかけていた。
ここに来てからずっと、自由とは程遠い暮らしをしてきた。自由など考えたこともなかった。
私は返す言葉が見つからず、ただアロマを抱き寄せた。
「……ごめんね。リツ。私、お姉ちゃんなのに……」
私は、静かに涙を流すアロマを困りながらも抱き締め、そのまま眠りについた。
夜更けすぎ。
私たちは、絶望を味わうことになる。
「ゴッ……ゴゴゴ……」
重厚な何かを引きずるような音が鳴り響き、私たち全員が跳び起きた。
すぐさま音の正体へと全員が注目する。あの重くて頑丈そうな鉄の扉が、開いていたのだ。
開いた扉の先は、灯ひとつない、静かな暗闇が広がっていた。私たち五人は、その暗闇に抱く謎の恐怖心から、声も出せずに硬直していた。
突如、私の視界を何かが掠めた。「ゴギッ」という鈍い音がした。
私は音の方向を恐る恐る向いた。巨大な口だけの化け物が、暗闇から長い首のようなものを伸ばし、ユウを食い荒らすように捕食していた。
「え……」
私は何が起こったのか分からず、ただ子供が食い荒らされる光景を、アロマと二人で震えながら見ていた。
すると突然、「イヤァァァァァァ!?」という金切り声のような悲鳴が聞こえ、私はハッと正気に戻された。
悲鳴がした方を向くと、リカとミクが泣きながらこちらへ走って来ていた。
私とアロマが双子に手を伸ばし、二人の手をそれぞれ掴む。
「ブチッ」。
突然、掴んでいた双子の手が軽くなった。
私とアロマの手には、ダランと垂れ下がったリカとミクの手と腕だけが残されていた。口だけのバケモノは、グチュグチュと気色の悪い咀嚼音を立てながら、双子の身体を捕食していた。
私は恐怖と絶望でその場から動けずにいると、アロマが私に覆い被さった。アロマは震える声で言った。
「大丈夫……大丈夫だからッッッ……」
突然、その声が途切れた。生暖かい感触で、私の手と顔が濡れる。「ア……ロマ……?」
私は、下半身しかないアロマだったものを見ながら、呟くように名前を呼んだ。
上から、また気色の悪い咀嚼音が聞こえてくる。頭上を見上げると、化け物がアロマらしき肉塊を咀嚼していた。
「あ、あぁ……ァァァァァァ……」
悲鳴にもならない恐怖で掠れた声を出しながら、私は鮮血のシャワーを浴びた。
化け物がひとしきり捕食を終えると、私を見下ろすように、口しかない顔で覗きこんだ。甲高い声が、無機質な部屋に響く。
「フシのノロイをウケタ者がミツカッタ。タベルのにコマラナイ。ダカラ、ミンナタベタ。オマエはフシのノロイの子。イチネンゴ、オマエはフシとナリ、ワタシがエイキュウにホショクしツヅケル。ソレマデハ……オマエはクワナイ……ワカッタ?」
化け物は一方的にそう告げると、暗闇の中に絶望を残し、消えていった。
私は血に濡れた体で、恐怖と絶望に、その場で震えるしか無かった。
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