『渇望の少女と嘲笑の魔導書(グリモワール)』
異邦綴
序章:第1話 永久の始まり
私はこの謎の施設に幽閉されている。此処はどこかも分からぬ場所の**「食料保管庫」。無機質な鉄でできた部屋に、私たち子供を閉じ込めるにはあまりにも重厚な鉄の扉がそびえ立っている。外の世界のことは何もわからない。ただ一つ、理解していることは、集められた子供たちは、得体の知れない異形の怪物**が捕食するための食料だということだけ。
少女は願う。胸の奥底で、血を吐くような強い渇望を抱き続ける。
「自由になりたい……」
これは、自由を追い求めた少女の、渇望と代償の物語である。
「おぉ〜い……起きてぇ〜。朝だよぉ〜」
起こす気があるのか無いのか、おっとりとした優しい子守唄のような声が聞こえてくる。私は眠気と葛藤しながら、粗末なベッドの上でゆっくりと起き上がる。
眠い目をこすっていると、目の前に優しい聖母のような少女が顔を覗き込んできた。アロマだ。
聖母のような少女は私に言った。
「やっと起きた!いつもリツは起きるのが一番最後だね!」
「誰の子守唄みたいな優しい声のせいだと思ってるの」
私がそう問うと、アロマは「私はみんなのお母さんだからね」と自信満々に答えた。
私は呆れながらも目をこすり、辺りを見回す。
無機質な鉄の部屋。子供を閉じ込めるにしては重厚すぎる扉。部屋の隅には見上げるほどの大きな本棚が一つ。
私が部屋を見渡していると、元気な声が聞こえてきた。
「アロマおねえちゃん〜。絵本読んで〜!」
声のした方を向くと、幼い男の子が絵本を抱えて立っていた。ユウだ。
アロマは優しい笑みを浮かべながら、ユウに手を引かれながら私に言う。
「じゃあ……リツ。宜しくね」
絵本の読み聞かせに向かうアロマを、私は手を振りながら見送った。
ここには私の他に四人の子供が一緒に暮らしている。アロマ、ユウ、そして顔が瓜二つなリカとミクという双子の女の子だ。
この五人の中でアロマが一番永く此処で暮らしているらしい。次に私。他の三人は私より後に来た。
アロマは私より少し年上の少女で、一人孤独に過ごしていた時、私が来たらしい。それからアロマは私たち五人の母親代わりとして世話をしてくれていた。
私が回想しながらアロマを見送っていると、服の袖を小さく引っ張られた。振り向くと、瑠璃色の瞳をした瓜二つの顔が私を見上げていた。リカとミクだった。
双子は悲しそうな顔で私に訴える。
「リツおねえちゃん。クマさん、破けちゃった……」
不安そうな顔で私を見上げる双子。私は破れたクマのぬいぐるみを見て、本棚から一冊の裁縫道具が付録についた裁縫本を手に取った。そして双子に微笑む。
「大丈夫。リツおねえちゃんがクマさん、絶対直すから待ってて」
双子は不安な顔から一気に笑顔になる。私は破れたクマのぬいぐるみを直して、双子に渡した。二人はぬいぐるみを抱きしめ、お礼を言う。
「リツおねえちゃん!ありがとう!」
そのまま私はアロマと共に子供たちの面倒を見る。
その夜、その時が来るまでは。
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