12月29日

「よっ、束沙」

 扉を開けた渚は片手に雑巾を持っている。

「まだ掃除中だけど、上がる?」

「手伝おうと思ったんだけど、いいかな」

「マジ?ありがと〜」

 台所に行くと母親が水拭きをしている。

「あら、束沙くん。どうしたの?」

「手伝ってくれるって」

「まぁ!ありがとうね」

「いえ、僕がやりたいだけなので」

 渚は乾いた布を渡す。

「窓拭くの手伝ってくれ」

「わかった」


「あ〜、疲れた〜」

 渚は畳の上で大の字になる。束沙はコタツに入って言う。

「寒くないの?」

「さみぃ」

 答えながら起き上がり、束沙の隣に座る。

「そういえば、お父さんは今日も仕事?」

「おう、明日からは休みらしいけど、もう今年終わるから切りが良いところまで進ませたいんだと〜」

「そうなんだね」

「そういや束沙は大掃除やるん?」

「今日やったよ」

「えっ、もう終わったん!?」

 驚きで目を丸くさせる渚に、束沙はひとつ頷く。

「今日からバイトもなかったし、何より狭いからね」

「あ〜、それもそ〜だな」

 そんな会話をしているときに、母親が醤油煎餅をコタツの上に置く。

「束沙くん、掃除も渚の宿題も、手伝ってくれてありがとうね。お礼と言ってはなんだけど、良かったら食べて行ってね」

「いえいえ、毎日押しかけてしまっているのは僕ですし、なんならご飯まで食べさせてもらってますし」

 顔の前で手を振る束沙に母親は言う。

「そんなこと気にしなくていいのよ。束沙くんは一人暮らしで大変でしょう?それに、束沙くんが来ていなかったら、渚は去年みたいにずーっとゲームばかりしていたでしょうから、ちゃんと宿題をやってくれて心配事がひとつ減るのよ。……渚はあまり食べないの」

「うっ、は〜い……」

 母親に軽く咎められ、渚は2枚目を取ろうとした手を引っ込める。そのやり取りを見た束沙は、少し眉を下げて微笑む。母親が和室から出ると、つぶやくように言う。

「渚の家族って、本当に仲良しだよね」

「ん〜……そ〜か?」

「うん、羨ましいくらい」

 奥に見え隠れしてる悲しみと一緒に、遠くを眺めてる。俺は、なんて言ったらいいかわからないまま、なんとなく、机の上に出ている束沙の手を握る。

「渚?」

「いや、ただ、……手、寒いかなって」

「…………ありがとう」

 束沙は微笑み、渚の手を握り返した。

「あ、でも繋いでたら煎餅食べれねぇな」

「そうだね。……じゃあ、一枚もらいます」

 そう言って皿から1枚持ち上げると、渚は皿ごと束沙の前に動かす。

「1枚と言わず、全部食う勢いで!」

「それはさすがに申し訳ないよ……渚も食べなよ」

「じゃあ食うぜ〜」

 嬉しそうに1枚取り、2人は食べ始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る