8−2. 封印の儀式
体育館に戻った僕たちは、しばらく誰も声を出せなかった。
五人分の“作品”が目の裏に焼きつき、体温が奪われたみたいだった。
十九人。
その数字だけが、まだ僕たちが“こちら側”にいる証拠だった。
白石が、そっと浜田先生を見た。
「……先生、ノートを。もう一度、みんなで確認しましょう」
浜田先生は小さく頷き、懐から古びたノートを取り出した。
白石の祖母が遺した封印の記録。
神代のものではない。
なのに、校舎の異変と一つずつ噛み合っている。
ページを開くと、赤いインクが見開き全体に滲んでいた。
一日目 一つの警告
二日目 一つの絶望
三日目 二つの愚行
四日目 五つの犠牲
五日目 五つの闇
六日目 十一の嘆き
七日目 一つの選択
僕たちは、その行を囲むようにして見つめた。
桐生が低く言った。
「……一日目は田村。二日目は森川。三日目は高橋と加瀬で、四日目の五つの犠牲は……あいつらだ」
矢島。相沢先生。佐久間。田所。山中。
名前を思い浮かべただけで、喉の奥が痛んだ。
美咲が“五日目”の行をそっと押さえた。
「五つの闇……これは、昨日の夜。停電の瞬間に消えた五人のことだよね」
笹本里美。平田祐樹。佐藤奏。佐藤詩。黒川慎太郎。
美術室、体育倉庫、旧昇降口、理科室。
六日目の朝、僕たちはその“行き先”を見た。
白石が言う。
「五日目は“闇に落ちた”という段階の記録。そして六日目に、その闇が“展示として姿を見せてきた”。ノートの書き方と合ってる」
浜田先生は、さらに下の行へ指を移した。
六日目 十一の嘆き。
浜田先生の声は震えていた。
「……問題はここだな。十一が何を指しているのか……まだ分からん」
山下想太が、かすれ声で言った。
「十一って……犠牲者の数とか……?」
神谷陸が首を振る。
「決めつけは危険。数が揃っていないし、“嘆き”がどの分類かも不明だ。ノートは結果論で書かれている。意味を急ぎすぎると、こっちの判断を誤る」
静かな声だったが、指先は震えている。
成瀬彩花がノートを覗き込みながら言う。
「でも、“まだ起きてない”よね。十一の嘆きって……この後でしょ? だったら、ただ待ってるより、何かしなきゃ」
滝本怜奈が白石に寄り添う。
「白石……“十一”って、音のこと……じゃないよね……?」
白石は小さく首を振った。
「……分からない。でも、封印に関係してるのは確か」
浜田先生がノートを胸に抱き、深く息を吐く。
「六日目が“展示の日”だとすれば、封印室だけがまだ沈黙している。次に起きるとしたら、地下だ」
桐生がはっきりと言った。
「行くしかねえな。十一の嘆きが“何か”を起こす前に動く。七日目の“一つの選択”に入る前に、状況を掴む必要がある」
美咲が小声で言う。
「……七日目、何を選ぶんだろうね。選ぶって……誰が、何を?」
答えられる人はいなかった。
僕はノートを見つめた。
白石の祖母は“七日目に何が起きたか”を記録していない。
ただ――“選択があった”とだけ書いている。
その結果、校舎は“沈黙した”。
沈黙が救いなのか、それとも絶望の結果なのか、誰にも分からない。
けれど、何もせず七日目を迎える選択肢は、もう残されていなかった。
桐生が言った。
「探索班は十人。桐生、白石、美咲、柊。神谷、成瀬、山下、滝本。浜田先生と藤木先生。他の九人はここで待機だ」
名前が挙がるたびに空気が固まる。
山下は指を組んだまま動けず、
成瀬は小さく息を吸い直し、
滝本は白石から離れないよう位置を変え、
神谷は表情を崩さないが、手はわずかに震えていた。
美咲が僕の袖をつまんだ。
「……行こう。怖いけど、行かなきゃ。行かないと、七日目を変えられない」
僕は頷く。
膝の震えを抑え、体育館の扉の方へ歩き出した。
霧が揺れ、外の光を削り取る。
時間の感覚はもう当てにならない。
六日目は、まだ途中。
“十一の嘆き”は、これからだ。
浜田先生が言った。
「全員、気をつけていけ」
桐生を先頭に、僕たち十人は歩き出した。
六日目の本番が始まる前に、封印の奥で何が動こうとしているのか――
それを確かめるために。
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